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カテゴリ「メッシー・ストーリー」の69件の記事 Feed

2021年10月12日 (火)

内定決めたご褒美に…ストーリー公開

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 先日、絵里子は、転職活動の合間にひょんなことから自宅近くの田畑を散策することとなった。面接もないというのに思わず条件反射でリクルートスーツを着てしまったということもあり、そのまま散歩に出かけたのであった。
 そして、畦道で足を踏み外して水田の中に落ちてしまい、大学時代に使用しその後クリーニングをしてクローゼットに保管してあった黒のリクルートスーツを泥だらけにしてしまった。もちろんそのリクルートスーツは自宅で洗ってクリーニングに出したものの泥染みがあまりにもひどく、染み抜きをしてもらっても二度と面接などの場で着用できない状態になってしまったのであった・・・。

 しかし、絵里子はリクルートスーツを一式ダメにしてしまったものの不思議と気持ちは晴れやかであった。
 ここ1、2週間、リクルートスーツのまま泥だらけになったあの時の感覚を思い出して、もう一度リクルートスーツのまま泥だらけになってみたいという心の衝動を抑えきれなくなっていた。
 もちろん今でも転職活動を行っているので、リクルートスーツは必要だった。先日だめにしてしまったリクルートスーツとは別に、もう一式、黒のリクルートスーツを保有していた。先日のスーツは大学時代に4シーズン着用できるようにと購入した厚手の生地のものであったが、もう1着の方は、夏用であった。度重なる着用やクリーニングを繰り返すと必然的に生地も傷みやすくなるとのことで、黒の薄手のリクルートスーツを夏場に着用するメインのスーツとして大学時代に持っていたのであった。
 この薄手の生地のリクルートスーツで最近は転職活動に励んでいた。しかし、生地が薄いのでスカートやジャケットが皺になりやすく、さらには大学時代に就職活動で夏場にかなり着用したせいかスカートのスリット部分がほつれて破れかかっていた。それは就活女子学生にとっては勲章で就職活動時の努力の証である。

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 絵里子は、最近の転職活動の面接にかなりの手ごたえがあった。実際いくつかの企業からは猛烈なラブコールを送られていて絵里子の決断次第で内定をもらえそうなところもある。もちろん、今の会社に就職したことの二の舞を演じることが無いように焦らず慎重に、自分の特性に合った仕事に就こうと考えていた。
 そして、内定が決まった暁には、このリクルートスーツを着てまた泥だらけになって遊ぶことを計画していたのであった。「あの時の感覚」をもう一度味わうことを自分へのご褒美と決めて転職活動に励んでいるのであった。

 それから数日後、第一志望に考えていた転職先の企業の人事担当者から連絡があった。今度の土日のいずれかに来社してほしいとのことだった。おそらくは最終的な意思確認、入社時期の相談など事務的な話をすることになるのだろうと推察した。
 絵里子は、土曜日の朝、リクルートスーツに着替えて髪型を整え、全身のシルエットを自分の部屋にある姿見鏡で確認した。絵里子は、自分のリクルートスーツ姿を見て、なぜか一人で照れて顔が火照るのを感じた・・・否、照れたのではなく数時間後のことを想像して胸が高鳴り興奮したのであった。

 そう、絵里子は今自分で見ているリクルートスーツ姿が、今日で見納めとなることを察知したのである。正確には、もうこのリクルートスーツは着れなくなる・・・ということであった。
 最後に綺麗に整えたリクルートスーツ姿のシルエットと髪型を確認し自分の眼に焼き付けたのであった、外に出たら姿見鏡に映った姿を見ることはできないので、自分の頭のカメラに鮮明に保存したのであった・・・。

 絵里子の思っていた通り、先日の企業からの連絡は入社の意思確認であった。絵里子は心の中で小躍りしながら、入社時期の折衝などを担当者とはじめたが、なぜか、身体がふわふわと浮くような感覚になり、担当者が話していることをうわの空で聞いているような感覚に陥ってきた。

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 -----(いつしか、絵里子はこの前の水田の敷地内にある蓮畑の中にリクルートスーツを着たまま寝転んで、気持ちよい感覚に浸っていた。リクルートスーツはあっという間にスカートもジャケットも泥だらけになっている。泥の中で、もがくようにしたり、脚をおもいっきり開いて歩いたり、子供のように自由気ままに泥の中で遊んでいる。リクルートスーツは台無しだが、絵里子は快感で夢心地である。ドーパミンなどの脳内ホルモンが分泌され心が落ち着いている。しばらくすると絵里子はもっと自由に脚を動かせるようにするために、両手をスカートの後ろに回しておもいっきりスリットを引き裂いて破こうと思った。もともとスリット部分はほつれていたので力を入れて引っ張ると簡単に破けていく。タイトスカートのスリットは絵里子の想定以上に深く破けていていることが感覚的わかった。太ももやおしりがあらわになっているだろうが、絵里子は自分ではその様子を見ることはできない。しかし、絵里子はそんなことを気にすることなく泥との同化に没頭している。そしてジャケットを脱いでブラウス姿になった。タイトスカートはスリットが破け、上半身はブラウス姿になったせいでだいぶ動きやすくなった。そして、さらに大胆に泥と戯れようと思った・・・。)------

 「青野さん。青野さん?・・・青野絵里子さん?どうされましたか・・・?」
 絵里子はふと我に返る。
 「すみません、ちょっと入社日をいつにしようか考え込んでいまして・・・。」
 「何度かお呼びしても反応がないのでどうしたのかと。来月からにしますか、それとも再来月からにしますか?今の御勤め先の会社との契約や手続きなどもあると思いますので青野さんの希望で構いませんよ。」
 「あっ、はい、ありがとうございます。内定をいただき次第、今の会社に辞表を出すつもりでおりました。ですので、この週明けにでも辞表をだして、今月いっぱいで辞められるかと思います。有給もかなりたまっていると思うので・・・。」
 「なるほど、有給の消化などもあるかと思いますから再来月の初日営業日からの入社でいかがですか?」
 「はい、よろしくお願い致します。」

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 そんな事務的なやり取りをしていた最中も、絵里子は、頭のカメラで朝自宅で撮った自分の姿見鏡の像と水田のぬかるみをオーバーラップさせていた。そして、白昼夢のごとく絵里子の頭を占有していた。
 「(このリクルートスーツもう着ないから・・・【あんなふうに】泥だらけにしちゃってもいいんだよね・・・)」
 絵里子はリクルートスーツ姿に視線を落とす。鼓動がはやくなるのを感じた。先ほどの夢想のような光景は、これから具現化することの青写真だった。
 
 リクルートバックはパンパンに膨れていた。ファスナーを開けると、今朝、自宅を出るときにバックの中に詰め込んだ着替えの私服やタオル、下着や靴下、パンプスなどが入っているのを再度確認した。準備万端である。
 転職先の会社への入社日も確定し、晴れやかな気分になった絵里子は、とろけるような表情で内定先の企業を後にした。(完)
 

2021年9月28日 (火)

泥沼の突破口…ストーリー公開

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 良く晴れた昼下がり、「沙也加」は田んぼの畦道に佇んでいた。こんな場所に似つかわしくない黒のリクルートスーツを暑い盛りにジャケットまで着込んでいる。オフィス街を颯爽と歩いていても不思議ではない姿で原稿を一心不乱に見つめていた。  

  「沙也加」は数年前まで巷を騒がせた作家のペンネームである。処女作「雨のグラウンド」では緩急をつけた独特の文章が読み手の心を捉えて社会現象まで巻き起こしていた。次作「朝霧が輝く中で」でも独特の文章は健在で「沙也加」の名を不動のものとした。本名性別年齢は一切不明で、老練な書き口から正体を中高年と推測する者、新進気鋭の若者と推測する者、外国人、挙句は宇宙人と果てしない論争を巻き起こした。出版社の担当者を買収してでも正体を明かそうとするパパラッチ紛いの週刊誌の追及をも跳ね除け遂に明瞭な答えは出なかった。

 田んぼに佇む「沙也加」が傍らに置いたリクルートバックには履歴書が収まっており、氏名欄には絵里子とあった。彼女こそ世間を騒がせた「沙也加」その人であった。「沙也加」こと絵里子は処女作の発表時は、まだ高校生だった。卓越した文才を持つ作家としての「沙也加」ではなく、一介の高校生である絵里子として他人と変わらぬ幸せな人生を歩んでほしいと願う両親とその意を汲んだ出版社、多数の関係者によって徹底的に守られていたのだった。
 その後、大学生となった絵里子は多くの学生同様にリクルートスーツに身を包んで就職活動を始めた。自分の才能に限界を感じたからだ。現在は待望の新作「農業にあこがれて」の執筆中だがすっかり筆が止まり、絵里子はいよいよ自分の限界を感じていた。これまでは湯水の如く溢れてきたアイデアが何も生まれないのだ。才能がないなら筆を折るしかない。「沙也加」としてのプライドであった。しかし迷いがあるのも事実であった。  

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 大学での就活面接講座に参加するためリクルートスーツを着て通学した絵里子はリクルートバックの中に新作の原稿も忍ばせていた。才能のない作家としてのプロ意識と、それを認めたくないプライドの狭間で絵里子の心は揺れ動いていた。
 揺れ動く心をそのままに面接講座を終えた絵里子は田園地帯を自宅に向けて歩いていた。田園の風景は否応なしに新作の事を思い起こさせた。
 田園を眺めながら原稿を見ればアイデアが浮かぶかもしれない、という思いが膨れ上がるのを抑えつつ自宅への道のりを急ぐも、ついに我慢という砦が決壊した。 絵里子はリクルートスーツのまま足早に自宅近くの田んぼに赴いた。近所の農家さんが高齢を理由に耕作を辞め泥遊びのできる田んぼとしてリニューアルした場所だ。

 絵里子はパンプスのまま田んぼの畦道に入り込んだ。パンプスの汚れを気にする暇もなくリクルートバックから原稿を取り出し一心不乱に読みだした。周りの風景を眺め、アイデアを原稿に落とそうとするもまるでアイデアが出てこない。 自分の才能への淡い期待が破られ、ガッカリとした絵里子が原稿を握る力を弱めた刹那、不意の強風が原稿を田んぼの中に吹き飛ばした。
 命より大切な原稿が飛ばされた絵里子は反射的に田んぼに飛び込もうとした。しかし、大切なリクルートスーツが汚れることを恐れ一瞬躊躇した。風に飛ばされた原稿は田んぼの中に設けられた島の中に落ちたようだ。 辺りを見渡し他に手段がないことを悟った絵里子はパンプスを脱ぐと、慎重に田んぼに入っていった。ひざ下まで泥に埋まりながら、パンストを脱げば良かったと後悔しながらタイトスカートは汚さないように慎重に歩を進めていった。
 何とか島までたどり着いた絵里子は原稿を拾うと慎重に引き返していった。猛暑の中を動きにくいリクルートスーツを着込み手には原稿、足元は泥で不安定の中、直射日光で朦朧とした頭の中はあれこれ注意してしながらも絵里子は注意力が散漫になっていった。

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 岸まで残り数メートルのところで事件が起きた。絵里子は泥に不意に足を取られバランスを崩した。動きの制限されるタイトスカートではバランスを取り戻せず、絵里子は尻もちをついてしまった。
 転倒の衝撃の後、タイトスカートに泥水が無遠慮に流れ込んでくる感触を味わうことになった。スカートもパンストも一瞬で泥まみれである。暫し茫然自失となった絵里子は泥まみれのスーツを眺めつつ、「(どうしよう、どうしよう。)」と困惑の言葉が漏れるのみであった。
 
 しばらくたち茫然自失の状態から覚めた絵里子は、とにかく岸に向かって歩き出した。 岸に上がった絵里子は地面に原稿を並べ枚数に不足がないことを確認するとその場にへたり込んだ。疲労と困惑と作家としての才能が無い上に原稿をダメにしてしまった自己嫌悪が入り混じっていた。
 目をつぶり眉間に皺を寄せ深いため息を吐きながら、不快感を全身で表現した刹那、絵里子の頭の中に突如としてアイデアが湧き出した。目を見開いた絵里子は自分の頭の中のアイデアを反駁した。
 「(これならいける!)」
 そう確信した絵里子は狂喜の様相であった。
 狂喜の中の絵里子はせっかく抜け出した田んぼに今度は自分の意志で飛び込んだ。泥の海の中を匍匐し、転げまわり、ヘッドスライディングを決めた。

 (作:ロイ) 

2021年9月 1日 (水)

転職活動中の悲劇と快楽…ストーリー公開

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 久しぶりに絵里子はリクルートスーツに袖を通した・・・。
 社会人になり数年が経とうとしていた。人はみな生きていくために生活の大半の時間を仕事にささげるものだが、絵里子にとってはその仕事というものが単調なデスクワークばかりであった。そのルーティンの作業に飽き飽きとしていた。思い切って転職しようと、次の仕事を探す決意をし、最近になって転職活動を始めていた。会社が休みの土日は面接に応じてもらえる会社があれば、かたっぱしから出向いて転職活動をする力の入れようであった。

 学生時代に就職活動で着たり、新入社員として研修期間に着用していた黒のリクルートスーツを今でも大切にクローゼットにしまってあった。体型もほとんど変わっていないため今でもちょうどよく体にフィットした。絵里子は、まさか、このリクルートスーツを再び着る事になろうとは・・・と思ってもいなかった。

 ある土曜日の朝、絵里子は、つい条件反射でリクルートスーツを着て出かける用意をしてしまった。考えてみれば、今日は転職活動の用事など入れていなかったのだ。ゆっくり家でゴロゴロしていれば良いと思ったが、リクルートスーツに着替えてしまったので、すぐに普段着に着替えなおすのもバカバカしいと思い、リクルートスーツのまま散歩しようと思った。
 外は蒸し暑かったが、ブラウスの上にしっかりジャケットも着こんで散歩に出かけることにした。緊張感をもって気を引き締めた状態を維持したかったからだ。
 自宅の近くは田畑が広がっていて自然豊かな場所が多いので、綺麗で新鮮な空気を吸いながら散歩して心身ともにリフレッシュするにはちょうどよかった。自宅の周りにこんなにも自然があるのかと絵里子はうれしく思った。普段、仕事などで忙しく時間に追われて生活していると身近なものに目がいかなくなるものだ。
 

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 絵里子は今一度、転職活動の方向性などを考えながら、自然の中を歩きながら何か良い考えがひらめかないかと思いながら散歩し始めた。
 しばらくすると、一面の田園地帯のそばに、休耕田があった。セミなどの虫の歌が響き渡り、心地よい風が癒してくれ気持ちよかった。土の香りを感じながら畦道をゆっくり歩いた。
 ふと、目の前をトンボがさえぎり旋回する。その行方を指さしながら目で追った。そして、遠くへ飛び去るトンボを見送りながら物思いに耽って足を動かすと、畦道から足を踏み外して田んぼの中に落ちてしまった。
 畦道周辺には用水路からの水が流れ込んでいるので泥の水たまりとなっていた。そこに絵里子は膝から落ち、脚は泥水の中に浸かってしまった。一瞬頭が真っ白になった。タイトスカートの下部は泥水で濡れ、パンプスは水底のぬかるみにハマってしまい、起き上がろうとしてもうまく起き上がれない。

 先ほどまでクローゼットの中にあったリクルートスーツは今は泥水の中だ。スカートのウエスト部分から勢いよく泥水がスカートの内側へと流れ込む。
 絵里子はリクルートスーツが既に大変なことになっていることに気が付いていた。するとなぜか休耕田の中にうつ伏せになった。絵里子の何かが狂い出した・・・。
 「(もういいや、泥んこ遊びしちゃおう・・・!)」
 泥をすくってスカートやジャケットに塗り手繰っていきスーツを泥でコーティングしていく。先ほどまで綺麗だったリクルートスーツの面影はすぐになくなってしまう。

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 まるで子供が公園や空き地で泥んこ遊びをするかのような気分に浸りながら、絵里子はリクルートスーツ姿で泥んこ遊びに興じ始める。真夏の休耕田の水は意外にも冷たく気持ちよかった。泥は熱を吸収しているせいか生温かかった。その泥の感触をもっと体で感じようとジャケットを脱いだ。
 そして、ブラウス姿でうつぶせになったり、掬った泥をブラウスの白い部分にたっぷりと擦り付けていく。リクルートスーツを泥で汚していくことが快感だと思い始めていた・・・。

 泥んこ遊びの楽しい時間を過ごした後は、現実に戻され寂しく感じた。このまま時計が止まってくれればよいのにと思った。しかし、楽しい時間の後には必ず現実が待っている。だからこそ、「楽しい時間」が人生のキャンバスの余白というものを色鮮やかなものにしてくれるのだ。
 「これからどうしよう・・・リクルートスーツ、こんなになっちゃった・・・。」
 自分の潜在意識が突き動かし、自分で判断してやった行動の成りの果てだった。絵里子は帰宅しようと立ち上がり、ゆっくりと道路沿いの畦道の方へと向かって歩き始めた。
 その畦道は、泥んこ遊びへのいざないの道でもあり、絵里子を不思議な感覚が包み込んでいた・・・。(完)

2021年8月11日 (水)

恒例行事で泥だらけ…ストーリー公開

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 眼前に休耕田が広がる様子を涼しい顔で絵里子は眺めている。野球部の男子部員や同期の女子マネージャーの仲間に絵里子はこれから田んぼに突き落とされようとしていた・・・。

 この前は、就職活動の帰りに田んぼに落ちたボールを拾いに行き、その果てに黒のリクルートスーツを泥だらけにしてしまった。そのリクルートスーツは水洗いしてクリーニングに出したものの染み抜きが十分にできないとのことで薄く染みが残ってしまい、就職活動など人前では着ることができなくなってしまった。
 その後は、予備で購入してあった濃紺のリクルートスーツで何度か就職活動をおこなった。そして、持ち前の明るい性格と弛まぬ努力により、絵里子は野球部員・女子マネージャーの就職活動組4年生の中で最も早く内定を獲得した。

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 野球部ではいつの日からか、内定を最も早く勝ち取った男子野球部員、または女子マネージャーは内定を決めた時のリクルートスーツ姿のまま「お祝い」として仲間たちに田んぼに突き落とされ、そのまま泥だらけになっていくという農業大学ならではともいえる珍イベントが恒例となっていた。今年は絵里子が1番に内定を取ったという事でその餌食になった。
 内定を決めた時のリクルートスーツという決まりがあるのだが、絵里子が濃紺のリクルートスーツで内定を勝ち取ったということまで誰もチェックなどしていない、とにかくリクルートスーツのまま泥だらけにされる・・・というのがこの恒例行事の肝である。だから、絵里子は、先日この田んぼでボールを拾った後に泥だらけにしてダメにしてしまった黒のリクルートスーツで参加すればよい。
 しかし、絵里子は律儀にも内定を決めた時の濃紺リクルートスーツで今日の恒例イベントに参加するつもりなのだ。まだあまり着ていないこの濃紺リクルートスーツも、この前の黒のリクルートスーツと同じように、染みが十分に落ちず、二度と着ることができなくなってしまうことは分かっている。しかし、絵里子はまだ綺麗な濃紺リクルートスーツで泥だらけになりたかった・・・。
 汚れても良い服ではなく、絶対に汚してはいけない服を泥だらけにしてしまうという代償でしか得られない快感を今日もまた感じたかったのである。そのためには、絵里子は汚しても良い黒のリクルートスーツを着て今日のイベントに参加するという選択肢はなかった。それでは満たされないと思ったからだ。ほとんど新品同様で内定確定後にクリーニングに出したばかりの綺麗な濃紺リクルートスーツを差し出す必要があったのだ。

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 畦道には4年生の男子野球部員がユニフォーム姿で絵里子の周りを囲んでいる。そして、遠巻きに女子マネジャーたちが同情するような眼差しで絵里子を見守っている。
 いよいよ恒例行事が始まる。
 「え~、本当にこのまま泥だらけにならないといけないの?」
 自分でも、はっきりと分かる芝居がかった言葉と表情に思わずニヤッと笑ってしまうが、周りの人間は絵里子の本意を想像するには難く、絵里子の言葉を字義通りに受け取った。一人を除いては・・・。
 その一人とは沙也加であった。彼女とは高校時代からの親友で、高校、大学とお互い野球部女子マネージャーとして活動していることもあり、お互いの微妙な表情からでも以心伝心で、心の内は読み取れる間柄であった。
 沙也加にだけは絵里子がこれから起ころうとしていることを心から受け入れていることを察知していた。その理由までは分からなかったが、泥だらけになることをまるで楽しもうかとしている絵里子の心内を読みきっていたのである。

 「キャー!」
 絵里子と恋仲と噂になっている野球部4年生エースピッチャーが勢いよく絵里子の背中を押した。絵里子はドロドロの休耕田の中にうつ伏せになって倒れた。スーツの後ろは綺麗であるが、前面がどのようになっているのかは誰にでも想像できた。
 絵里子は立ち上がると自分のリクルートスーツの状態を確認するためにゆっくりと視線をおろす。もちろん、見るまでもなくどういう状態になっているかは想像がついていたが、絵里子の予想以上にスーツは汚れていた。今さっきまでクリーニングしたばかりで皺ひとつない綺麗なリクルートスーツが泥だらけになっている自分のことを幸せに感じた。
 女子マネの仲間や男子野球部員は、部の恒例行事であるとはいえ、リクルートスーツを泥だらけにされることを絵里子が喜んでいるとは思うわけもないので、絵里子に気を遣って声をかける。沙也加だけは絵里子の目が笑っていることを見逃さなかった。

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 絵里子はみんなの前でリクルートスーツを泥だらけにしていく。匍匐前進をしたり、しゃがみこんでドロドロの粘着質の泥をジャケットやスカートにたっぷりと塗り手繰っていく。温かく柔らかい泥をスーツ越しに感じる。あらゆる人工物からは到底感じることはできないであろう天恵ともいえる心地良い感覚であった。
 ほどなく絵里子はジャケットを投げ捨てブラウスとタイトスカートになって、さらに勢いよく田んぼの中で泥と戯れる。その様子を呆然とした表情で男子野球部員や女子マネ達は眺めている。なぜ絵里子が自らすすんで泥まみれになっているのかが理解できずにいた。
 しかし、沙也加は自分と同じ「匂い」が絵里子にあることを確信し、他の者達とは違って笑顔で絵里子の行為を楽しみながら見ていた。

 絵里子は真っ白なブラウスも泥だらけにして泥んこ遊びに興じている。タイトスカートとブラウスの境目が一瞥しただけでは分からない程に全身ドロドロに汚れてしまっている。その姿を沙也加だけが羨ましそうに眺めている。そして、絵里子に嫉妬した。沙也加は絵里子のもとにとび込んでいきたくなったが自制した。

 沙也加は心の中でつぶやいた。
 「(ジャージでなんかじゃ私もやらないよ!絵里子、今度一緒にお気に入りの服で遊ぼうね・・・)」(完)

2021年7月20日 (火)

いつもの癖で就活スーツが…ストーリー公開

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 絵里子は地方にある農業大学の4年生で、ここ最近はリクルートスーツを着て企業訪問や面接、大学の授業と忙しい毎日を送っている。授業の後は時々、野球部女子マネージャーとしての活動もある。就職活動でどうしても部活に参加できない日もあるが、絵里子は下級生の女子マネージャーの新人監督の立場でもあるので、可能な限り部室やグラウンドに顔を出すようにしていた。
 面接帰りなどにグラウンドに立ち寄る時は、当然、リクルートスーツではなく部室に行って、汚れてもいいようにジャージに着替えて参加している。しかし、時間があまりなく顔を出すだけの日は、リクルートスーツ姿のまま新入生の女子マネージャー達の様子を遠くから見守って、声を出して指導する時もある。

 ある日、企業のOG訪問を終えた絵里子は帰宅しようと思ったが、夕方前であるため、今からキャンパスに向かってもまだマネージャーとしての仕事はあると思った。新入生監督という立場の責任もあり、迷わずキャンパスに向かった。
 いつもの練習用グラウンドに向かう途中、農業大学ならではの光景ともいえる田畑やビニルハウスなどが近づいてきた。次第に野球部員の威勢の良い声や、硬式ボールをバットの真芯で捕えた時の快音が響いてきた。

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 すると、グラウンドの方から男子野球部員たちの声が一気に湧き上がったかと思うと、数十メートル先の大学所有の休耕田に白球が舞い落ちるのをはっきりと確認した。
 「(またあの4番が場外に打ったのね!)」
 まもなく新入生の女子マネージャーが2人ほど小走りで駆け寄ってきた。リクルートスーツ姿の絵里子を確認するなり礼儀正しくお辞儀をして
 「先輩!お疲れ様です!・・・失礼します!」
 と元気よく発声するとすぐに体を休耕田の方に向け、スニーカーのまま田んぼの中に足を踏み入れようとした。もちろん、これも女子マネージャーの仕事である。絵里子も下級生時代には何度もこの田んぼの中に入ってボール探しをしたのであった。

 「今、私ボール落ちるところ見たから大体の位置分かるよ。」
 と絵里子はボールが落ちたと思われるあたりを指をさしながら
 「あっちの畦道の、あの辺の・・・あっちとか、あの辺・・・って口で言っても分からないよね。(笑)・・・いいわ、私が拾っていくから、2人は早くグラウンドに戻って仕事して!」
 「はい!失礼します。」
 というと、2人は先程こっちに向かってくるときも勢いよく走っていった。体育会系の上下関係というものは先輩の命令は絶対なのだ。遠慮も反抗もない。先輩である絵里子がグラウンドに戻るように指示すれば、下級生は戻るのである。
 絵里子は新入生に良い顔をしようとしたわけではなかった。「心の声」が自然と絵里子にそう言わせたのであった。また、どこに落ちたのかも分からないボールを彼女たちが探すのは、時間の浪費でもあるので早くグラウンドに戻らせて通常の活動をしてほしいという純粋な思いからでもあった。第一、自分がボールの落ちた大まかな位置を知っているのだから自分が拾えばいいだけだと思った。
 そうはいうものの、自分が今、リクルートスーツ姿であることを一瞬忘れていた。部室に行ってわざわざボールを拾うためだけにジャージに着替えるのは億劫だった。
 「(足は汚れるけど・・・洗えば問題ないし、別にスーツのままでも・・・)」
 と頭の中で漠然と考えていると、なんといつの間にかパンプスは休耕田の入り口付近の深みにはまって身動きできなくなっていた。
 「あっ!」
 と思わず声をあげてしまった。パンプスは泥の中に埋まってしまい足がスポッと抜けてしまう。スカートの裾が泥で汚れないようにしゃがみ込まずにお尻を突きだすような前かがみの体勢になって
パンプスを泥の中から拾い上げる。そして、畦道の方へと投げ、パンストを穿いたまま休耕田の中を歩き始める。先ほどボールがとび込んだ場所はなんとなく覚えてはいるが数十メートル離れていたので、遠近感がなかった。
 休耕田を正面にみて、右の方なのか左の方なのかといったX軸の位置は分かるが、手前なのか奥の方なのかY軸の位置がはっきりしないのだ。こうなったら手前から奥の方に向かって進んでいくしかない。今になっては後輩達を戻らせたことを後悔した。

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 中腰の状態で泥の中に手を入れてボールを探しながらも、スーツを汚さないようにゆっくり進んでいく。深みに手を入れたせいか、ジャケットとブラウスの袖がいつの間にか汚れてしまっているが絵里子はボール探しに夢中で気が付いていない。
 しばらく探しているがまだボールは出てこない。すると、絵里子の様子が気になったのか、先ほどの後輩女子マネージャー2人が男子部員数人を引き連れてやってきた。
 「先輩!大丈夫ですか?」
 と先ほどの女子マネージャーのうちの1人が絵里子に向かって声を掛ける。
 「大丈夫!もうすぐ見つかると思うから。」
 女子マネジャー2人もリクルートスーツ姿の先輩に任せきりでは悪いと思ったのか、スニーカーと靴下を脱いでジャージ姿で田んぼの中に入ってきた。
 「あっちの手前の方は探したけどなかったの。このラインのこの辺りから奥の方のどこかだと思うの。2人は奥の方からこっちに向かって探してきて。」
 「はい!


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 絵里子は自分で引き受けたことなのに後輩たちにボールを先に探されては面目ないと思い、泥ハネがスーツにとぶのも厭わずに今までよりも手際よく探し始めた。
 向こうの方では男子部員たちがガヤガヤ何か話している。ものの数分もしないうちに後輩たちよりも先に絵里子はボールを探り当てた。
 「あったー!」
 と後輩たちに聞こえるように叫んだ。
 ボールは泥の中にあったため、当然ながら泥だらけである。絵里子は太腿あたりにボールをあててボールの泥をなすりつけ、ボールを綺麗にした。
 「あっ!やっちゃった!いつもジャージ着ている時の癖で・・・。」
 後輩たちは何と言葉を返せばよいのか分からず黙っている。
 絵里子はタイトスカートの太腿あたりに付いた泥を見ると頭が真っ白になった。ショックで絵里子はへなへなと泥の上にお尻をつけてしゃがみ込んでしまった。ふと我に返って立ち上がり黒のタイトスカートが泥で茶色っぽく汚れているのを確認した。
 「もういいや、遊んじゃう!」
 絵里子はふっきれ、何かにとりつかれたかのように、後輩たちの前でリクルートスーツに自ら手ですくった泥をなすりつけていく。泥の塊を後輩女子マネたちに投げつけようとすると、さすがに彼女らは参戦するつもりはないらしく、男子たちの方へと逃げていく。

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 絵里子はそれならと、一人で泥んこ遊びを開始する。懐かしい泥の匂いと感触だった。子供の頃、実家の田んぼでよく泥んこ遊びした記憶が蘇ってきた。学校の体操服や汚れてもいいようなショーパンなどを穿いて遊んだものだ。
 しかし、今日はリクルートスーツで泥んこ遊びをしているのだ。汚してはいけない服を泥だらけにするという普段できない行為に、罪悪感というよりもなぜか不思議と爽快感が心をつつみこんでいた。
 起き上がっては泥の中に何度も倒れ込んで遊んでいるせいか、いつしか髪の毛や顔にも泥ハネがとんでいた。しゃがみながらドロドロの粘着質の泥を手に取り童心に戻って遊んだ。手に付いた泥はジャケットやスカートに塗り手繰っていき泥で覆っていく。泥んこ遊びは意外と体力を使うので、しばらくすると身体がほてってきた。ジャケットを脱いでブラウス姿になった。男子部員の視線が少し気になるが、そんなこともお構いなしに泥んこ遊びに没頭している。

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 ブラウスは一部分が泥で汚れているものの、まだ大部分は白く綺麗だった。絵里子はその白い部分を泥だらけにしたいと感じた。泥の中に寝転んだり、泥を手でなすりつけたりしてあっという間に白ブラウスは泥だらけになった。
 先程まで綺麗だった黒のジャケットとタイトスカート、白のスキッパーブラウスが取り返しのつかない状態になっている。なんとも言えなギャップである。そのギャップを絵里子は一人で楽しんでいる。後輩たちは向こうの方で唖然とした表情で絵里子を見ながら何やら話しているようだった。そうした後輩たちの様子を眺め、彼ら彼女らが何を考えて自分の姿を見ているのかという事を想像することも楽しかった。最後にまた大胆に泥の中に倒れ込んで注目をひく。

 今日は部室に置いてあるジャージに着替えて帰ることになる。しかし、泥だらけのリクルートスーツをなんとかしなくてはならない。
 日も暮れ始めていたので、急いで泥汚れを落とすために田んぼ脇にある用水路の水を後輩たちにかけてもらいながら泥を可能な限り洗い流す。
 「(リクルートスーツのまま泥だらけになるのってこんなに気持ちいいんだ・・・)」
 と絵里子の頭の中に強く刻まれたのであった・・・。(完)

2021年5月22日 (土)

止まらない泥んこ遊び…ストーリー公開

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 泥の中で暫しの休憩の後、絵理子は立ち上がり泥まみれのベストのボタンを手探りで探し、外していった。ベストを脱ぐと下のワイシャツは意外と汚れていなかった。
 腕周りやタイトスカートからとび出した裾の部分は完全に泥に染まっているが、ベストの下に隠れていた部分はかろうじて白さを保っている。  

 絵理子は泥の中に座り込むと両手で泥を掬い上げワイシャツに擦り付け始めた。泥の感触を楽しむように、泥と体を一体化させるかのように何度も泥を体につけていった。
 ワイシャツ
の白い部分が残らないよう徹底的に塗りたくっていった結果、白かったワイシャツもタイトスカート同様に完全に泥まみれになった。泥の感触が気持ちよくしばらくの間、泥の中にうつ伏せになって浸かっている。正真正銘の泥風呂に入っているかのような状態である。

 そして起き上がっては泥をすくって胸やお腹に擦り付けていく。そして、まだ、少しだけ残っているワイシャツの白い部分やタイトスカートをさらに泥だらけにしたいという願望を満たすために、程よく泥がこなれているとろころ見つけると後ずさりして勢いよくヘッドスライディングといわんばかりに泥の海の中にとび込んだ。柔らかい泥の塊が絵里子の身体を受け止めたので、絵里子の身体には痛みなどの衝撃はほとんどなかった。その代償として多少粘り気のある泥が絵里子のワイシャツやタイトスカートの付着し、絵里子の体の前面は上から下まで泥一色で染まっていた。  

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 絵理子はここでどれだけの時間を過ごしたのだろうか。
 今日、ここに来たときは太陽が高い位置にあったはずだが、今は西日が気になる時間帯になっていた。泥だらけの状態でバックの中の時計やスマホを取り出すことができず正確な時間は分からないが、体感温度や周囲の明るさから推察すると日暮れが迫っているように絵里子には感じた。  
 「(もう少ししたら帰らないと!」」  
 
 最後の仕上げとばかりに、絵里子は泥の中に体をあずけた。そして、うつ伏せになって這って進んでみた。さっき、ペットボトルをフラッグに見立て、一人ビーチフラッグス何度も楽しんだせいか、体がけっこうきつくなってきていた。這って泥の中を進むにはかなりの体力を必要とするので、ゆっくりとしか這って動けない。
 しかし、そのことにより泥の感触をじっくりと感じることができた。  

 「願望」を満たした絵里子はゆっくり立ち上がり、もう二度と着れないであろう白のワイシャツとタイトスカートが泥まみれになっているのを眺めた。
 泥んこ遊びを満喫した絵理子の心は晴れやかであった。(完)

  前編「泥まみれ願望」はこちら

 (作:ロイ)

2021年3月18日 (木)

泥まみれ願望…ストーリー公開

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 絵理子はメーカーの下請けとして部品の製造を行う町工場の管理部門に勤める事務員である。大学卒業と同時に新卒として入社し管理部門に配属された。事務職という仕事が絵里子の気性とも合っていたのだろうか、入社から数年経過するが、日々の雑務をこなし穏やかな日々を過ごしていた。
 穏やかな日々を送りながらも絵理子は、数か月前から妙な感覚を覚えるようになった。発端は冬が終わり、気候が暖かくなってきたある日、自家用車で会社からの帰宅の最中であった・・・。定時で仕事を終えた絵里子が自家用車で帰宅する途中に田園地帯を通り抜けたときのことだ。
 突然、心の中で何かが沸き起こり絵理子は車を路肩に止め外を眺めた。そこには田植えに向けて水が張られ代掻きが済んだ田んぼが夕日に照らされ煌めいていた。視線を下げると自分の仕事着が目に入った。黒のタイトスカートに上は白いワイシャツ、その上には会社支給のベストを着用、さらにその上にはジャケットを羽織るという典型的な事務員の服装であった。タイトスカートとジャケットは就活で着用したリクルートスーツを転用したものだ。絵理子は自分でもコントロールできない気持ちに動揺し、思考がまとまらなくなってしまった。
 夕日が地平線に沈みかけたころ、絵理子の心は一つの答えに達した。
 「この服を泥まみれにしたい!」
 しかし、絵理子は混乱した。明日も仕事であるため、仕事着を汚すわけにはいかない。今日は仕事が忙しかったから疲れているのだと自分自身に無理やり納得させて今の不思議な気持ちを振り払うと、車のエンジンをかけて自宅に向けてアクセルを踏み込んだのであった。

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 それからの数か月、絵理子は悶々とした日々を送っていた。振り払ったはずの思いが何度も脳裏に蘇ってくる。
 「ダメ!仕事着を汚すなんで出来ない!」
 と理性で何とか食い止めていたが気を抜くと仕事終わりに田んぼを下見しているなど理性の堤防の決壊はそう遠くないように自覚した。
 気候が夏に変わったころ、穏やかなはずの仕事の雲行きが怪しくなってきた。社内にメーカーから下請け切りを通告されたらしい噂が流れ始めたのだ。絵理子にも思い当たる節があった。社長の姿を見ることがめっきり少なくなり、機械音で満ちていることが常の工場が静まりかえり、管理職が軒並み終日会議室に籠っているのだ。目先の効く社員の中には仕事中に外勤と称して転職活動に出かけることが半ば公然と行われている有様であった。絵里子もこれは一大事だと慌てて転職活動を始めた。
 初めての転職活動に不安を覚えつつも転職サイトからどんどん応募をしていった。予想に反して選考がいくつも決まり、平日の日中に絵里子も外勤と称して面接に赴いていた。事務員にそうそう外勤の用事があるはずないが、仕事は暇な時期でもあったためか上司も咎めようとはしなかった。1か月の後、絵理子が「外勤」から直帰するときに、先日面接を受けた企業から内定との連絡がきた。先方からのいつから入社できるかという問いに対しては、絵里子は明日上司に話して決める旨を伝えた。
 翌朝、上司に退職の旨を伝えることに不安を覚えつつ、いつも通り事務服に着替え会社に向けて出発した。会社の駐車場に車を止め、事務所に向かって歩いていると社内が騒然としていた。何事かと思いながら玄関まで達すると、なるほど倒産を告げる張り紙があったのだ。私物は全て持ち帰るようにと記載されていた。転職が決まった社員だろう、人目もはばからず嬉々として内定先に電話している者や段ボールに私物を纏め運び出している者がいた。
 絵理子も遅れを取るまいと自分のデスクやロッカーの片づけに向かった。ロッカーに置いてある事務服の着替えやデスクの私物を段ボールに纏め、昨日までの同僚に別れを告げると絵理子は自分の車に荷物を運びこんだ。そして昨日内定が出た会社に連絡をした。会社が倒産したからいつでも入社できる旨を伝えると先方も渡りに船だったのだろう、半月後には来てほしいとの答えだった。
 電話を切ると絵理子の心は猛烈な解放感に支配された。それはまるで週末に仕事を終え、会社を出たときのような心地よいものだった。仕事も決まった。出社日も決まった。上司に退職を伝える必要もなくなった。おまけに給料もよくなる。気がかりなことも面倒ごとも全てが解決した。解放感に身を委ねたその時だった。

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 絵理子の脳裏に必死に振り払ってきたはずのあの欲求が強烈に蘇った。
 「この服を泥まみれにしたい!」
 絵理子は反芻した。この事務服代わりとしていたリクルートスーツも会社支給のベストも今となってはもう必要ない。どうしようが咎める人間は誰もいない。着替えも引き上げてきた私物の中に一式ある。数か月間食い止めてきた理性という名の堤防が決壊した瞬間だった。
 絵理子は車を発進させると田園地帯に向かった。 車を路肩に止め期待と興奮に胸を弾ませながらもお目当ての田んぼに歩いて行った。それは車を止めた道路に隣接する林を抜けた先にあった。四方を林に囲まれる形で人目につかず、耕作の行われていない休耕田の状態だった。排水設備が機能していないのだろう、休耕田は水を満々に湛えている。休耕田の淵に立った絵理子の姿はさっきまで会社で着ていた事務服だ。ベスト、ワイシャツ、タイトスカート、パンプス、夏なのにジャケットまで着ている。背徳感と興奮の極みだった。それでも僅かに残った理性によって一瞬ためらい、若干ぎこちない動きで社内で履いていたパンプスのまま休耕田に踏み込んだ。両足ともパンプスは泥の海に没し、ストッキングに守られた足もふくらはぎまで泥に覆われた。
 その瞬間、絵理子の体を電撃が走り抜けた。ずっと待ち焦がれていた感触を味わい絵理子の理性は吹き飛んだ。 まずは田んぼの中をランニングしはじめた。走るのに邪魔なパンプスは適当に脱ぎ捨て裸足のまま田んぼ内を縦横無尽に進んでいく。跳ねた泥がストッキングや黒のタイトスカートにどんどんシミを作っていくがお構いなしだ。むしろ泥が跳ねるように走りまわっている様だ。いい加減疲れてくると、泥が深そうなところでワザと転倒し泥の中にうつ伏せで倒れ込む。ジャケットの袖口やスカートから泥が濁流となって侵入してくる感触を味わった。すぐには起き上がらず事務服の前面が泥に侵されている感触を楽しんだ。起き上がると再び走り出し、今度は尻もちを付くように仰向けで倒れ込んだ。背中からお尻にかけて柔らかい触感に包まれた。これでタイトスカートとジャケットは完全に泥まみれだ。事務服の面影はどこにもない。絵理子は泥に塗れた自分の姿をドキドキしながら眺めた。ついにやってしまったと背徳感に浸りながら、これは序の口とジャケットのボタンをはずし始めた。

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 ジャケットを脱ぎ捨てると中からは胸元が一部泥に汚れながらも大半の部分が綺麗なままの会社支給のベストが出てきた。
 心の中で「第二ラウンドスタート!」と宣言し、絵理子は持参したペットボトルを田んぼの真ん中付近の泥に突き刺した。自分は田んぼの端まで後退し、息を整えるとペットボトルに向かって泥の中を走りだした。
 ペットボトルをフラッグに見立て、一人ビーチフラッグスを始めた。フラッグとの距離を詰めると砂浜で行う本家のそれのようにヘッドスライディングの要領で泥の中に飛び込んだ。バシャーンと泥の飛沫が上がり絵理子はうつ伏せで泥の中に沈み込んだ。勢いあまって顔面まで飛び散った泥を拭いながら立ち上がるとついさっきまで一部しか汚れていなかったベストやワイシャツの袖部分も悲惨な状態となっていた。
 前面が泥に覆われボタンやポケットの位置もわからなくなった。さらにタイトスカートとの境目もよくわからなくなっている。腕を守るワイシャツも同様でさっきまで白く映えていたのに今では泥に覆われ見る影もない。事務服を着た若い女性が泥の中に飛び込んでいく姿は傍目には凄まじい光景だが、今の絵理子は楽しくて仕方がない。確保したフラッグ代わりのペットボトルをもう一度泥に突き刺して再び田んぼの端まで後退していく。そしてダッシュからのヘッドスライディング。絵理子は何度も何度も同じことを繰り返した。

 もう何度目だろう、ヘッドスライディングによって特大の泥飛沫があがる。ペットボトルを手にうつ伏せに倒れ込みながら、数えきれないほどのダッシュに息を切らし疲労感にその場から動けずにいた。度重なるヘッドスライディングによって服はおろか顔や髪の毛にも泥が大量についている。ストッキングは破れ、激しい動きによってワイシャツはタイトスカートから飛び出している。黒のベストやタイトスカートは泥に覆われ、元の色が何だったかもわからない有り様となっていた。


 (作:ロイ)

2020年12月 5日 (土)

農業体験で未来の自分が…ストーリー公開

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 絵里子は精神的な苦境も乗り越え、なんとか内定を勝ち取ることができた。
 今日は内定をもらった農業関連会社が内定者を対象に実施する農業体験の日となっていた。朝から天気は曇だ。カンカン照りの陽気だと汗びっしょりになるので、このくらいがちょうど良いと絵里子は思った。
 今日実施される農業体験は、そこまで本格的なものではなく、くるぶしからふくらはぎ位までの深さの水田に入って、草むしりをして、農業のイロハの話を農家の人から聞くというものである。農業に関連する業務を行ったり、農作物を農家から買い取って販売なども行っている企業なので、実際に農業の大変さを学んでいくという入社後の研修へとつながる内定者への初歩的なプログラムである。
 実際に春になって社会人としてスタートするときは泥だらけになって行う作業もあるのでジャージなど汚れても良い恰好で行うのであるが、内定者への農業体験はよほどのことが無い限り服が汚れることはない。会社からは万一のために着替えを持ってくるように注意喚起もされているが、農業体験にはみんなスーツ姿で参加するのが通例となっていた。農業体験のあとは先輩社員たちとの懇親会も控えているため、着替えの手間・時間を省くというのが理由だ。

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もちろん、絵里子もスーツ着用で参加している。周りの女子内定者を見るとリクルートスーツ姿も散見されるが、社会人になることを意識してか薄いストライプの入ったものや、格子柄のものなどのフレッシャーズスーツを着ているものの方が多いようだ。
 絵里子は先日仕立てたばかりのダークグレーのスーツだ。オーダーメイドだけあって体にぴったりフィットしている。スーツの生地には薄い白の格子柄が入っている。ブラウスはちょっとOL気取りでかわいらしいボウタイブラウスだ。スーツもブラウスも社会人になってから通勤時に着ようと思っているスーツであるが、絵里子は今後もスーツを買い増す予定なので、社会人になってから着るつもりで購入した1着目のスーツを先取りして着てみたいと思ったのだ。

 いよいよ農業体験が始まろうとしていた。絵里子がずっと遠くの方に何気なく目をやると青空が垣間見えるのに、絵里子たちがいる田んぼの真上はいつのまにかどんよりした分厚い灰色の雲に覆われていた。何かにとりつかれたような不思議な感覚になってきた・・・

 そんな空模様にはみんな気が付いていないのだろうか、年配の男性が農業体験の始まりを宣言し、手始めに1人5本の雑草を取るようにとの指示が出た。絵里子を含め、参加者はみんな着替えをもってきているようだが、スーツに泥ハネがとんだりしないように注意しながら、水田の中に入った。
 参加者は泥の感触を足裏で感じながら、注意しながらゆっくり歩いて指示に従いながら草むしりをはじめた。男子たちはパンツを太腿くらいまで上げて洗濯バサミやゴムで裾が落ちないようにしていたが、女子たちはタイトスカートを捲ったりして丈を短くするわけにはいかないので、ほとんどの女子が膝丈前後であった。
 そのため、うっかりしゃがんだりでもしたらスカートの裾が泥水で汚れてしまう事になるので、絵里子も細心の注意を払いながら草むしりをしていた。

 

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 「【あぶない、伏せて!】」
 「(・・・今の声、何だろう?)」
 絵里子は、どこからともなく聞こえてきた声にはっとした。
 「【死なないで、伏せて!】」
 「(私の声?! なになに・・・どうなってるの?)」
 周囲を見渡すが何事もないように草むしりをしている参加者たちの様子からすると絵里子にしか声は聞こえていないようであった。伏せてといっても、何のためなのかが理解できなかった。
 こんな状況で水田の中で伏せたらせっかくのスーツが泥だらけになってしまう。就職活動中にリクルートスーツのまま泥だらけになり、スーツのまま泥だらけになることの楽しさ・快感を感得したとはいえ、さすがに今着ているスーツを泥だらけにすることはできないと思った。
 それにしても、自分の声で、あぶないとか、死なないで・・・といった言葉が聞こえてくるのが何よりも不可思議な現象であった。
 「ゴロゴロゴロ・・・
 絵里子のみならず、水田にいる者すべてに聞こえる雷鳴であった。
 「みなさん!念のため一旦畦道に上がってください。」
 「ゴロゴロゴロ・・・ゴロゴロ、ドカーン!
 「【死なないで、伏せて!】」
 尋常じゃない音量の雷鳴への恐怖と、どこからともなく聞こえてくる切迫し先ほどよりも大きな自分の声に絵里子は反応した。

 ・・・・・気が付くと絵里子は真新しいスーツのまま水田の中にうつ伏せになっていた。どれほどの時間が経ったのだろうか。一瞬だったのか、数分だったのか・・・・さえも分からなかった。呆然としながらゆっくりと立ち上がる。
 確実なのは、畦道にいる心配そうな表情と安堵の表情が入り混じった参加者たちや先輩社員たちの視線を一手に浴び、水田のど真ん中で「生きている自分」が泥だらけのスーツ姿で存在しているということだった。

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「(何があったの? 私・・・どうしたんだろう? あっ、雷は?)」
 空を見上げると先ほどの空模様とはうって変わって青空が広がっていた。
 「(・・・!・・・・さっきの声、間違いなく私の声だった。あれって、もしかして未来の自分の声?・・・でも、もし雷に打たれて死ぬ自分がいるとしたら、未来にそのことを知る私なんて存在しないはずだし・・。あっ、大学の量子力学の授業で聞いたことがあるパラレルワールドのこと?・・・どこかの世界に存在する自分が絶命する寸前に自分にむけて発した心の叫びだったのかも・・・。)」

 絵里子は、今「この世界」に間違いなく存在している!
 それだけで十分だと思った。社会人になってから着ようと思っていた真新しいスーツが泥だらけになってしまったことは「些細な事」であった。喜ばしい感情がふと心の奥底から沸きあがってきた・・・。
 しばらく封印していたはずの「あの感覚」をまた呼び起こしてしまった。

2020年10月22日 (木)

泥まみれの反逆…ストーリー公開

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 就活生の絵理子は大苦戦していた。冬に始まった就職活動は春が過ぎ夏になっても未だ内定が出る気配もなく絵理子のメールボックスは不採用となった企業からのもので溢れていた。
 「残念ながらご希望に添いかねる・・・」
 「ご縁を結ぶことが難しく・・・」
 「精査の結果、今回の選考は見送らせて頂く・・・」
 絵理子のストレスは爆発寸前、表面上は冷静を装いつつも腹では怒りのマグマが煮えたぎっていた。

 ある暑い夏の日に事件が起きた。就活と平行して準備していた卒業論文の内容にミスが見つかったのだ。致命的なミスで卒業論文の作成が振り出しに戻ったと言ってよかった。午後から面接という日の午前中、リクルートスーツ姿の絵里子が大学の研究室で教授からそのことを指摘されストレスは臨界寸前だった。
 その足で就職希望先の企業の面接に臨むも、こんな精神状態ではまともな受け答えなどできるはずもない。支離滅裂な回答を連発し面接官から陰湿なお説教まで受ける始末だった。冷ややかな笑みを浮かべ嫌味を言ってくる面接官の顔面にパンチを叩き込みたい衝動をどうにか抑え、絵理子は帰宅の途についた。

 面接先から自宅最寄り駅に向かう電車の中でも絵理子は傍目にも分かるほどにいらだっていた。最寄り駅につくと足早に自宅へ向かって歩き出した。鈍行しか止まらない小さな駅だ。駅前のロータリーを抜けると景色は田園地帯に変わった。
 のどかな田園地帯の中を歩きながら絵理子の怒りは増幅していった。今日は日差しも強く蒸し暑い。この耐え難い暑さも絵理子のストレスが増大する原因となった。
 やがて一角に休耕田が現れた。担い手のいなくなった農家が地域の子どもたちが泥んこ遊びをできるよう維持管理しているもので、絵理子も幼少期には何度も通った馴染みの場所である。 絵理子はその休耕田を前にしてふと思った。
 「休耕田の中を通って帰ろうか・・・」
 実はこの休耕田、中を通ることで絵里子の自宅までの近道となるのだ。田んぼとは言え、畦道などはきちんと整備されている。足元に気を付ければ問題なく歩けるようになっている。ただし、それは普段着の場合である。今日の絵理子は絶対に汚せないリクルートスーツを着ている。怒りに平常心を失いかけた絵理子だったが、リクルートスーツを着て畦道を歩く危険性はわかっている。それでも一刻も早く帰宅し、うだるような暑さから開放されたい絵理子は近道を行くことを決意した。

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 パンプスのまま畦道に足を踏み入れ数歩進むと、地面がぬかるんでいることに気づいた。昨夜は雨が降ったのだ。その影響で通常なら問題なく歩ける地面が水分を含み柔らかくなっていた。
 早く家に帰りたい絵理子は、若干の汚れには目を瞑ろうと思い、パンプスのまま無理やり畦道を進んでいった。 中程まで歩いただろう、何気なしにパンプスに目をやったところ、当然だが泥で汚れていた。それどころか買ったばかりのパンストにまで泥が付着していた。畦道に入るまでは黒が映えていたパンプスも肌色のパンストも泥の汚れがついてしまっている。この光景を見た絵里子の心の中でずっと抑え込んできた怒りの感情が爆発した。
 「(どうして上手く行かないの!)」
 自暴自棄になった絵理子はリクルートバックを、休耕田の中に投げ込んだ。そして、パンプスを脱ぐとそれも何の躊躇もなく休耕田に投げ込んだ。その程度では怒りは収まらず
 「内定が出ないのはスーツのせいよ!」
 と吐き捨てると同時にリクルートスーツのまま休耕田に入り込んだ。たちまち膝下まで泥に埋まり、パンストにも泥が付着していく。田んぼを縦横無尽に歩き回り、泥の深そうな地点を見つけると膝立ちになった。タイトスカートの大半が泥に沈み込んでしまう。絵理子はそのまま泥の中に座り込んだ。タイトスカートを含め下半身は完全に泥に沈んでしまった。
 泥はお腹辺りまで達し、ジャケットやブラウスも裾の部分が泥に染まった。 しかしジャケットの上部や中のブラウスは泥の洗礼を受けていない。それに気づいた絵理子は匍匐前進を始めた。ジャケットが泥で汚れていく。
 「(もっと汚れてしまえ!)」
 と心の中で毒づきながらどこまでも進んでいった。わずかに残った理性で顔から上は汚れないように注意しながらローリングしてジャケットの背中を汚し、ジャケット全体を泥で汚していった。

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 いい加減疲れたので立ち上がると、見るも無残なリクルートスーツが現れた。スカートやジャケットはたっぷりと泥でおおわれスカートの裾やジャケットの袖からは泥の滴が垂れている。
 泥によって完全に覆われて先ほどまでのリクルートスーツの面影はどこにもない。ようやく自分の「思い通り」になったと泥まみれのスーツを眺めると、怒りのボルテージも少しは下がってきた。
 それとひきかえにジャケットに付着した泥の重さと暑さが気になり始めた。涼を得ようと、暑い中きっちり留めていたジャケットのボタンを外すと中から白さの残ったブラウスが白さを主張していた。腕周りやお腹周りなどはジャケットに守られ泥の洗礼を浴びていなかったのだ。
 「(なんで汚れてないの!)」
 と絵理子の怒りが再燃した。ジャケットを乱暴に脱ぎ、力任せに放り投げると、その場で這い進み始めた。瞬く間にブラウスの腕周りやお腹周りも泥に染まっていく。白かったブラウスもついに全体が泥色に染め上げられた。
 薄いブラウスの生地から泥水が一気に染み込み、絵里子の上半身にひんやりとした感触をもたらし始めた。それは怒りで我を失った絵里子を現実に引き戻す呼び水となった。

 全身を包む冷たい感触を感じた絵里子は、ようやく冷静な思考を取り戻した。運動した後のように息が弾み全身に疲労感もある。
 自分は何をしていたのかと茫然としながら立ち上がると全身から泥が流れ落ちた。視線を落とすと大切なリクルートスーツの見るも無残な状態が目に入った。相当激しく暴れまわったのだろう、泥まみれなのはもちろんのことブラウスの裾はスカートから無造作にとびたし、ボタンも外れている。
 タイトスカートも元の色が何であったのかも分からない程である。裏地まで泥に覆われたスカートはずっしりと重く、裾からは泥の塊がポタポタト垂れ続けている。 自分の格好を確認した絵理子は、ジャケットやパンプスがどこにいったのか疑問に思った。辺りを見渡すと休耕田に点々と浮かんでいた。急いで荷物を回収すると畦道に荷物を並べ自分も座り込む。

 リクルートスーツはもちろんのこと持ち物の全てが泥で汚れてしまった。自宅が近いとはいえ、近所の人の目もある中で、こんな格好で歩くことはできない。着替えもなければ汚れを落とすためのシャワーもない。家に帰ったところで家族への言い訳も考えなければならない。全身泥まみれのリクルートスーツ姿のまま畦道に座り込み、絵理子は途方に暮れた・・・。

 (作:ロイ)

2020年9月18日 (金)

面接帰りに恒例行事…ストーリー公開

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 絵里子は某農業大学4年生で来春卒業を迎える。就職活動の早期化に伴いすでにいくつかの就職希望先企業のOB/OG訪問や面接などを積極的におこなっていた。
 就職活動もがんばらなくてはならないが、中学時代からずっと女子ソフトボール部の活動にも励んでいる。練習はもちろんイベントやミーティングなども欠席したことはなく、技術も持っているため、今までレギュラーの座を失ったことはない。そのプライドもあり大学進学後も部の活動は休んだことはなく、忙しい就職活動の合間でも秋季大会に向けてレギュラーポジション維持のために練習に参加していた。

 今日は春から秋にかけて月に一度行われる部の恒例行事がある。農業大学ならではといえるが、大学が保有し実習授業などでも使うことのある休耕田でユニフォーム姿でストレッチなどの体力作りを行い、泥だらけになりついでに泥んこ遊びもしてしまうというちょっと変わったイベントであった。傍から見れば変わっているがソフトボール部員にとっては一般的なことである。

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 レギュラーの座を失いたくない絵里子は、今日も就職活動の面接帰りにそのまま休耕田に行き、恒例行事に参加する予定であった。部室のロッカーにユニフォームを置いてあるので問題はないと思っていた。しかし、面接帰りに部室に行きユニフォームに着替えようとすると、肝心のユニフォームがなかった。ライバルの誰かが卑劣にもどこかに隠したのか・・・。それもとも絵里子の勘違いで、ユニフォームは実は自宅に置き忘れているのか・・・。昨日は雨の中、練習したことをはっきり覚えていた。泥だらけになったから自宅に持って帰って洗濯し、予備のユニフォームを今日持参するつもりでいたのか・・・。自分でもどのように考えていたのか、ユニフォームがどこにあるのか分からなくなった。
 時計を見ると恒例行事が始まる時間が近づいていた。欠席するわけにはいかないので、今着ているリクルートスーツのまま参加することにした。リクルートスーツの運命は当然分かっていたが、ライバルとの熾烈なポジション争いがある為、絵里子にとって選択の余地はなかった。

 先ほどまで面接で着ていた黒のリクルートスーツ姿でリクルートバックを肩にかけ、ちょっと浮かない表情で休耕田の畦道を歩いている。リクルートスーツがこれからどのようなことになるのかを考えれば当然のことであった。ここまで来たら後には引けず、進むしかなかった。
 まずは、休耕田の中に入って軽くランニングを始める。ストッキングはあっという間にふくらはぎ辺りまで泥だらけだ。また、泥ハネがタイトスカートにも付いている。
 ランニングで足腰を休耕田の泥の状態にならしてから、田んぼ脇に上がってストレッチを行う。これがこのソフトボール部のセオリーで、絵里子が3年前に新入部員として入った時からまったく同じやり方である。すこし土が湿っている畦道ということもあり、腕立てや腹筋、背筋などをすると土がスカートやジャケットに付着し、所々、汚れが薄茶色っぽくなって目立った。

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 ここからがこの行事の醍醐味だ。休耕田での行事である以上、着ている衣服が泥だらけにならないはずがない。今、あぜ道の上でやった腕立てなどの運動を休耕田の中でやることになる。泥の中に身体が沈むと、地面の上のようにバランスを保つことができない。そのような状態でしっかり腕立てなどを実施することで体幹が養われるという名目でいつしか、このようなことが行われるようになったらしい。
 しかし、実際のところ、上下関係が今とは比較にならないほど厳しかった昔の時代に、上級生が下級生に代々課してきた「しごき」みたいな悪しき伝統だったのだろう。それが、いつの間にか今のように泥んこイベントのような体裁をなしてきて、上級生も下級生も一緒になって泥だらけになりながら遊ぶ恒例行事へと変化して行われている。

 気が付くと絵里子は一通りのストレッチをおこなった後で、黒のリクルートスーツは前も後ろもかなり泥が付着していた。絵里子は、ライバルにレギュラーの座を奪われたくないという、ただその1点でリクルートスーツのまま泥だらけになっている。
 次に立ち上がると脚を大きく広げて、体勢を低くする守備姿勢の維持を試みる。相撲でいう四股のようなもので、ソフトボール部の内野手にとっては守備姿勢の基本となるのだ。タイトスカートのスリットが今にも破けそうになるが、なんとか破けずに持ちこたえている。縫合がしっかりしている証拠だ。絵里子が着ているリクルートスーツがそれなりに質の高いものであることを意味すると同時に、そんなリクルートスーツを泥だらけにしてしまっているというギャップが際立つ。
 他の部員たちはリクルートスーツのまま泥だらけになる絵里子を横目で見ながら、普段練習で着ている上下白のユニフォームを泥だらけにしていた。元は上下白だったはずだが、そうはいっても年に何度か行われるこうした恒例行事や雨の中での練習で泥だらけになる機会は多いので、ユニフォームの色はくすんでクリーム色っぽくなっている者ばかりだ。中には薄茶色にそまった状態でここに来た部員もいる。

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 イベントも徐々に佳境にさしかかる。一旦泥だらけになったリクルートスーツは、おそらくは二度と着る事はできないだろうと絵里子は悟った。
 ブラウスはもちろん純白色を回復させることは不可能なので言うまでもないが、スカートやジャケットも泥水を吸い込み、泥の粒子が生地に入り込んでしまうため自宅で丸洗いして乾かしてからだとしても、クリーニングに出せないことが推察できた。
 絵里子はいっそのこと大胆に泥んこ遊びをしてしまおうと考え、ジャケットを脱いで動きやすい状態になって、泥を体中に塗り手繰り、さらには泥の上にうつ伏せになって匍匐前進を試みた。粘着性のある泥がタイトスカートやブラウスにこびりついていく。
 先ほどまで面接で着ていたリクルートスーツがこんなひどい状態になってしまった自分の姿を嘆かわしく思う反面、その代償として、ライバルに付け入る余地を与えずに済んだという安堵から絵里子は微笑んだ。

 泥だらけのリクルートスーツを泥水で洗い流すという経験はなかなかできないものだ。こびりついた泥を休耕田の上部にたまっている泥水で洗い流す。洗い流すとはいっても、汚れが落ちるわけではなく、付着した泥の塊を落とすだけだ。一通り泥を落とすと、畦道に上がり帰宅の準備を始める。
 遠くに目をやると部室の脇の物干し竿が見えた。タオルがいくつも干されていたが、その傍らにユニフォーム一式が干されているのが目に入ってきた。
 「(あっ・・・・!)」
 今となっては絵里子は笑うことしかできなかった。今日の出来事は、青春時代の苦い思い出として一生の思い出となることは間違いないだろう。