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2021年9月28日 (火)

泥沼の突破口…ストーリー公開

Dm25as_1

 良く晴れた昼下がり、「沙也加」は田んぼの畦道に佇んでいた。こんな場所に似つかわしくない黒のリクルートスーツを暑い盛りにジャケットまで着込んでいる。オフィス街を颯爽と歩いていても不思議ではない姿で原稿を一心不乱に見つめていた。  

  「沙也加」は数年前まで巷を騒がせた作家のペンネームである。処女作「雨のグラウンド」では緩急をつけた独特の文章が読み手の心を捉えて社会現象まで巻き起こしていた。次作「朝霧が輝く中で」でも独特の文章は健在で「沙也加」の名を不動のものとした。本名性別年齢は一切不明で、老練な書き口から正体を中高年と推測する者、新進気鋭の若者と推測する者、外国人、挙句は宇宙人と果てしない論争を巻き起こした。出版社の担当者を買収してでも正体を明かそうとするパパラッチ紛いの週刊誌の追及をも跳ね除け遂に明瞭な答えは出なかった。

 田んぼに佇む「沙也加」が傍らに置いたリクルートバックには履歴書が収まっており、氏名欄には絵里子とあった。彼女こそ世間を騒がせた「沙也加」その人であった。「沙也加」こと絵里子は処女作の発表時は、まだ高校生だった。卓越した文才を持つ作家としての「沙也加」ではなく、一介の高校生である絵里子として他人と変わらぬ幸せな人生を歩んでほしいと願う両親とその意を汲んだ出版社、多数の関係者によって徹底的に守られていたのだった。
 その後、大学生となった絵里子は多くの学生同様にリクルートスーツに身を包んで就職活動を始めた。自分の才能に限界を感じたからだ。現在は待望の新作「農業にあこがれて」の執筆中だがすっかり筆が止まり、絵里子はいよいよ自分の限界を感じていた。これまでは湯水の如く溢れてきたアイデアが何も生まれないのだ。才能がないなら筆を折るしかない。「沙也加」としてのプライドであった。しかし迷いがあるのも事実であった。  

Dm25as_2

 大学での就活面接講座に参加するためリクルートスーツを着て通学した絵里子はリクルートバックの中に新作の原稿も忍ばせていた。才能のない作家としてのプロ意識と、それを認めたくないプライドの狭間で絵里子の心は揺れ動いていた。
 揺れ動く心をそのままに面接講座を終えた絵里子は田園地帯を自宅に向けて歩いていた。田園の風景は否応なしに新作の事を思い起こさせた。
 田園を眺めながら原稿を見ればアイデアが浮かぶかもしれない、という思いが膨れ上がるのを抑えつつ自宅への道のりを急ぐも、ついに我慢という砦が決壊した。 絵里子はリクルートスーツのまま足早に自宅近くの田んぼに赴いた。近所の農家さんが高齢を理由に耕作を辞め泥遊びのできる田んぼとしてリニューアルした場所だ。

 絵里子はパンプスのまま田んぼの畦道に入り込んだ。パンプスの汚れを気にする暇もなくリクルートバックから原稿を取り出し一心不乱に読みだした。周りの風景を眺め、アイデアを原稿に落とそうとするもまるでアイデアが出てこない。 自分の才能への淡い期待が破られ、ガッカリとした絵里子が原稿を握る力を弱めた刹那、不意の強風が原稿を田んぼの中に吹き飛ばした。
 命より大切な原稿が飛ばされた絵里子は反射的に田んぼに飛び込もうとした。しかし、大切なリクルートスーツが汚れることを恐れ一瞬躊躇した。風に飛ばされた原稿は田んぼの中に設けられた島の中に落ちたようだ。 辺りを見渡し他に手段がないことを悟った絵里子はパンプスを脱ぐと、慎重に田んぼに入っていった。ひざ下まで泥に埋まりながら、パンストを脱げば良かったと後悔しながらタイトスカートは汚さないように慎重に歩を進めていった。
 何とか島までたどり着いた絵里子は原稿を拾うと慎重に引き返していった。猛暑の中を動きにくいリクルートスーツを着込み手には原稿、足元は泥で不安定の中、直射日光で朦朧とした頭の中はあれこれ注意してしながらも絵里子は注意力が散漫になっていった。

Dm25ast_3

 岸まで残り数メートルのところで事件が起きた。絵里子は泥に不意に足を取られバランスを崩した。動きの制限されるタイトスカートではバランスを取り戻せず、絵里子は尻もちをついてしまった。
 転倒の衝撃の後、タイトスカートに泥水が無遠慮に流れ込んでくる感触を味わうことになった。スカートもパンストも一瞬で泥まみれである。暫し茫然自失となった絵里子は泥まみれのスーツを眺めつつ、「(どうしよう、どうしよう。)」と困惑の言葉が漏れるのみであった。
 
 しばらくたち茫然自失の状態から覚めた絵里子は、とにかく岸に向かって歩き出した。 岸に上がった絵里子は地面に原稿を並べ枚数に不足がないことを確認するとその場にへたり込んだ。疲労と困惑と作家としての才能が無い上に原稿をダメにしてしまった自己嫌悪が入り混じっていた。
 目をつぶり眉間に皺を寄せ深いため息を吐きながら、不快感を全身で表現した刹那、絵里子の頭の中に突如としてアイデアが湧き出した。目を見開いた絵里子は自分の頭の中のアイデアを反駁した。
 「(これならいける!)」
 そう確信した絵里子は狂喜の様相であった。
 狂喜の中の絵里子はせっかく抜け出した田んぼに今度は自分の意志で飛び込んだ。泥の海の中を匍匐し、転げまわり、ヘッドスライディングを決めた。

 (作:ロイ) 

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