泥まみれ願望…ストーリー公開
絵理子はメーカーの下請けとして部品の製造を行う町工場の管理部門に勤める事務員である。大学卒業と同時に新卒として入社し管理部門に配属された。事務職という仕事が絵里子の気性とも合っていたのだろうか、入社から数年経過するが、日々の雑務をこなし穏やかな日々を過ごしていた。
穏やかな日々を送りながらも絵理子は、数か月前から妙な感覚を覚えるようになった。発端は冬が終わり、気候が暖かくなってきたある日、自家用車で会社からの帰宅の最中であった・・・。定時で仕事を終えた絵里子が自家用車で帰宅する途中に田園地帯を通り抜けたときのことだ。
突然、心の中で何かが沸き起こり絵理子は車を路肩に止め外を眺めた。そこには田植えに向けて水が張られ代掻きが済んだ田んぼが夕日に照らされ煌めいていた。視線を下げると自分の仕事着が目に入った。黒のタイトスカートに上は白いワイシャツ、その上には会社支給のベストを着用、さらにその上にはジャケットを羽織るという典型的な事務員の服装であった。タイトスカートとジャケットは就活で着用したリクルートスーツを転用したものだ。絵理子は自分でもコントロールできない気持ちに動揺し、思考がまとまらなくなってしまった。
夕日が地平線に沈みかけたころ、絵理子の心は一つの答えに達した。
「この服を泥まみれにしたい!」
しかし、絵理子は混乱した。明日も仕事であるため、仕事着を汚すわけにはいかない。今日は仕事が忙しかったから疲れているのだと自分自身に無理やり納得させて今の不思議な気持ちを振り払うと、車のエンジンをかけて自宅に向けてアクセルを踏み込んだのであった。
それからの数か月、絵理子は悶々とした日々を送っていた。振り払ったはずの思いが何度も脳裏に蘇ってくる。
「ダメ!仕事着を汚すなんで出来ない!」
と理性で何とか食い止めていたが気を抜くと仕事終わりに田んぼを下見しているなど理性の堤防の決壊はそう遠くないように自覚した。
気候が夏に変わったころ、穏やかなはずの仕事の雲行きが怪しくなってきた。社内にメーカーから下請け切りを通告されたらしい噂が流れ始めたのだ。絵理子にも思い当たる節があった。社長の姿を見ることがめっきり少なくなり、機械音で満ちていることが常の工場が静まりかえり、管理職が軒並み終日会議室に籠っているのだ。目先の効く社員の中には仕事中に外勤と称して転職活動に出かけることが半ば公然と行われている有様であった。絵里子もこれは一大事だと慌てて転職活動を始めた。
初めての転職活動に不安を覚えつつも転職サイトからどんどん応募をしていった。予想に反して選考がいくつも決まり、平日の日中に絵里子も外勤と称して面接に赴いていた。事務員にそうそう外勤の用事があるはずないが、仕事は暇な時期でもあったためか上司も咎めようとはしなかった。1か月の後、絵理子が「外勤」から直帰するときに、先日面接を受けた企業から内定との連絡がきた。先方からのいつから入社できるかという問いに対しては、絵里子は明日上司に話して決める旨を伝えた。
翌朝、上司に退職の旨を伝えることに不安を覚えつつ、いつも通り事務服に着替え会社に向けて出発した。会社の駐車場に車を止め、事務所に向かって歩いていると社内が騒然としていた。何事かと思いながら玄関まで達すると、なるほど倒産を告げる張り紙があったのだ。私物は全て持ち帰るようにと記載されていた。転職が決まった社員だろう、人目もはばからず嬉々として内定先に電話している者や段ボールに私物を纏め運び出している者がいた。
絵理子も遅れを取るまいと自分のデスクやロッカーの片づけに向かった。ロッカーに置いてある事務服の着替えやデスクの私物を段ボールに纏め、昨日までの同僚に別れを告げると絵理子は自分の車に荷物を運びこんだ。そして昨日内定が出た会社に連絡をした。会社が倒産したからいつでも入社できる旨を伝えると先方も渡りに船だったのだろう、半月後には来てほしいとの答えだった。
電話を切ると絵理子の心は猛烈な解放感に支配された。それはまるで週末に仕事を終え、会社を出たときのような心地よいものだった。仕事も決まった。出社日も決まった。上司に退職を伝える必要もなくなった。おまけに給料もよくなる。気がかりなことも面倒ごとも全てが解決した。解放感に身を委ねたその時だった。
絵理子の脳裏に必死に振り払ってきたはずのあの欲求が強烈に蘇った。
「この服を泥まみれにしたい!」
絵理子は反芻した。この事務服代わりとしていたリクルートスーツも会社支給のベストも今となってはもう必要ない。どうしようが咎める人間は誰もいない。着替えも引き上げてきた私物の中に一式ある。数か月間食い止めてきた理性という名の堤防が決壊した瞬間だった。
絵理子は車を発進させると田園地帯に向かった。 車を路肩に止め期待と興奮に胸を弾ませながらもお目当ての田んぼに歩いて行った。それは車を止めた道路に隣接する林を抜けた先にあった。四方を林に囲まれる形で人目につかず、耕作の行われていない休耕田の状態だった。排水設備が機能していないのだろう、休耕田は水を満々に湛えている。休耕田の淵に立った絵理子の姿はさっきまで会社で着ていた事務服だ。ベスト、ワイシャツ、タイトスカート、パンプス、夏なのにジャケットまで着ている。背徳感と興奮の極みだった。それでも僅かに残った理性によって一瞬ためらい、若干ぎこちない動きで社内で履いていたパンプスのまま休耕田に踏み込んだ。両足ともパンプスは泥の海に没し、ストッキングに守られた足もふくらはぎまで泥に覆われた。
その瞬間、絵理子の体を電撃が走り抜けた。ずっと待ち焦がれていた感触を味わい絵理子の理性は吹き飛んだ。 まずは田んぼの中をランニングしはじめた。走るのに邪魔なパンプスは適当に脱ぎ捨て裸足のまま田んぼ内を縦横無尽に進んでいく。跳ねた泥がストッキングや黒のタイトスカートにどんどんシミを作っていくがお構いなしだ。むしろ泥が跳ねるように走りまわっている様だ。いい加減疲れてくると、泥が深そうなところでワザと転倒し泥の中にうつ伏せで倒れ込む。ジャケットの袖口やスカートから泥が濁流となって侵入してくる感触を味わった。すぐには起き上がらず事務服の前面が泥に侵されている感触を楽しんだ。起き上がると再び走り出し、今度は尻もちを付くように仰向けで倒れ込んだ。背中からお尻にかけて柔らかい触感に包まれた。これでタイトスカートとジャケットは完全に泥まみれだ。事務服の面影はどこにもない。絵理子は泥に塗れた自分の姿をドキドキしながら眺めた。ついにやってしまったと背徳感に浸りながら、これは序の口とジャケットのボタンをはずし始めた。
ジャケットを脱ぎ捨てると中からは胸元が一部泥に汚れながらも大半の部分が綺麗なままの会社支給のベストが出てきた。
心の中で「第二ラウンドスタート!」と宣言し、絵理子は持参したペットボトルを田んぼの真ん中付近の泥に突き刺した。自分は田んぼの端まで後退し、息を整えるとペットボトルに向かって泥の中を走りだした。
ペットボトルをフラッグに見立て、一人ビーチフラッグスを始めた。フラッグとの距離を詰めると砂浜で行う本家のそれのようにヘッドスライディングの要領で泥の中に飛び込んだ。バシャーンと泥の飛沫が上がり絵理子はうつ伏せで泥の中に沈み込んだ。勢いあまって顔面まで飛び散った泥を拭いながら立ち上がるとついさっきまで一部しか汚れていなかったベストやワイシャツの袖部分も悲惨な状態となっていた。
前面が泥に覆われボタンやポケットの位置もわからなくなった。さらにタイトスカートとの境目もよくわからなくなっている。腕を守るワイシャツも同様でさっきまで白く映えていたのに今では泥に覆われ見る影もない。事務服を着た若い女性が泥の中に飛び込んでいく姿は傍目には凄まじい光景だが、今の絵理子は楽しくて仕方がない。確保したフラッグ代わりのペットボトルをもう一度泥に突き刺して再び田んぼの端まで後退していく。そしてダッシュからのヘッドスライディング。絵理子は何度も何度も同じことを繰り返した。
もう何度目だろう、ヘッドスライディングによって特大の泥飛沫があがる。ペットボトルを手にうつ伏せに倒れ込みながら、数えきれないほどのダッシュに息を切らし疲労感にその場から動けずにいた。度重なるヘッドスライディングによって服はおろか顔や髪の毛にも泥が大量についている。ストッキングは破れ、激しい動きによってワイシャツはタイトスカートから飛び出している。黒のベストやタイトスカートは泥に覆われ、元の色が何だったかもわからない有り様となっていた。
(作:ロイ)
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