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カテゴリ「ウェット・ストーリー」の52件の記事 Feed

2013年12月21日 (土)

マネージャー1日体験(3)


 マネージャー1日体験 (1)はこちら   (2)はこちら


 絵里子たち一行は、練習試合の対戦相手の大学のサッカーグラウンドに到着した。試合前の練習で使用するボールやスポーツ飲料水の入った大きめの水筒を数本運ぶ必要があるが、女子マネージャーの体験会に参加している新入生の絵里子たちは、運ばなくても良いことになっていた。
 ただし、帰りの後かたずけでボールや水筒などをバスまで運んでくるのは体験会に参加している新入生の役目である。そのことは先ほど、バスの中で先輩マネージャーから一通りの説明を受けていた。
 他には試合中も特にすることはなく、先輩マネージャー達から何かお願いをされない限りは、先輩たちの様子を見ながら試合を観戦しててもよいとのことだった。

 今日は学外での活動なので、女子マネージャーたちは部の正装とされているスーツ姿だが、普段、学内での練習の際にはジャージ姿である。
 なぜならば、女子マネージャーは忙しく走り回り、ボールなどの準備や片づけ、泥だらけになった部員の練習着やユニフォームなどを洗うのが主な役目で、他にも練習中に時計をはかったり、笛を鳴らしたり、男子部員がけがなどをした際に、救急箱をもって駆けつけて処置を施すなど意外と仕事がある。雨が降ってもずぶ濡れになって男子選手たちのためにサポートする。それが女子マネージャーの役目である。

 しかし、他大学へ出向いていく練習試合やインカレなどの試合では、これといった仕事があるわけではない。したがって、今日の体験会では、絵里子たち新入生は、試合後にボールや水筒を運ぶ程度だ。
 万一、けが人が出た場合などの処置や、スコア記録などは先輩たちがやることになっていた。絵里子たち体験会参加者には、サッカー部の雰囲気を味わってもらおうというのが趣旨のようで、具体的な仕事というかお手伝いは、これといってないのだ。


 練習試合中は特に何も必要無いので、貴重品だけもってカバンなどの持ち物はバスの中に置いておくことになっていた。
 先輩女子マネージャーはボールや水筒を手分けして持っているが、体験会に参加している4人はただ、スーツ姿で手ぶらのまま男子部員や先輩女子マネージャーたちの後をついていった。

 試合前には部員たちは軽くダッシュをしたりボール回しをして体を温めて慣らしている。いよいよ、練習試合が始まろうとしている。ボールなどを片付けることとなったが、ここからが新入生たちの役目だ。当然とはいえ、絵里子たち4人のマネージャー志願者たちはぎこちない手つきでボールを拾って網の中に入れてまとめていく。水筒はベンチに持ってきて脇に置いた。グラウンドの準備も整い、間もなく試合開始だ。

 ベンチに座れる人数には限りがあり、さすがに体験会参加者の絵里子たちは、お客さんだとはいえ座ることができず立って観戦することとなった。
 ホイッスルが鳴りキックオフだ。
 試合が始まって前半も半ばを過ぎたがほとんどの間、ボールは絵里子が属する水光大学が支配している。シュートチャンスを何度も作っているが、ゴールネットを揺らしていない。得点までは時間の問題のように誰もが感じていた。
 しかし、ちょっとした油断から相手にゴールを決められてしまう。さらに、その数分後、自陣ペナルティーエリア内でハンドがあり退場の上にPKまでも与えてしまう。そのPKを確実に決められてしまい、あっという間に2点のビハインドになってしまった。

 5分前までは優勢だったのに一気に形勢逆転で追い詰められたような感じだ。水光大学のベンチはさっきまでの活気が嘘のように静まりかえっていた。いつの間にか空が先ほどよりも濃い灰色に変わっていた。午前中だというのに暗くなってきて、それがまるで先輩たちや絵里子たち新入生の心情を表しているかのようであった。

 「あっ、雨だ!」
 先輩マネージャーがつぶやいた。
 絵里子はしばらく空を見上げていると水滴が顔にあたった。まだ小雨ともいえず、時折ポツリと水滴が落ちてくる程度だ。しかし、試合は前半もまだ10分程度残しているうえに、ハーフタイムを挟んで後半だって残っている。
 この調子では雨足が強まってきて本降りになりそうな雰囲気であった。空が異常に暗く、天気の回復の見込みがありそうにない。
 雨が降っても試合が続行だということを先輩たちから説明を受けている絵里子たち新入生たちは、入学式で新調したばかりの真新しいスーツ姿を身にまとって、不安げな表情を浮かべながらグラウンドを走り回っている選手を応援している。しかし、空模様が気になるのか、時折、空を見上げる。

 やはり、間もなくポツリポツリの状態から、しとしとと小雨状態になってきた。このレベルであれば、まだ傘をささなくてもずぶ濡れにならないで済む感じである。
 そうはいいつつも、小雨の中に10分以上もベンチの後ろで立って応援している絵里子たちはもちろんのこと、控えの選手達や先輩女子マネージャー達も雨で濡れはじめていた。ベンチには屋根などついていないのだ。
 先輩女子マネージャー達はベンチに座っているので、スーツのタイトスカートにかなり雨がかかっている。そのため、濡れた箇所が水滴となっている女子や、撥水効果がないために既に水がしみてスカートの色が変色している女子もいた。
 その点、絵里子たちは立っているので、スカートはあまり濡れていないが髪の毛やジャケットの肩の部分はけっこう濡れ始めている。


 「(何とかこのくらいでおさまっていてくれれば・・・。)」
 と絵里子は心の中で願っていた。他の新入生たちも思っていることは絵里子と同じようで、試合どころではなく自分のスーツや他の女子達のスーツを見ることで自分のスーツの濡れ具合を推測しているようであった。

 意外にも前半中は雨がこれ以上は強くならなかった。ハーフタイムの間も依然として小雨であったが、両チームの部員やマネージャー達はさすがに雨ざらしのベンチから移動し、グラウンドに隣接する建物の軒下で雨を避けた。男子たちは後半の戦略について真剣に話し合っている。
 マネージャー達はちょっと離れたところで集まって雨に濡れないようにしているが、ハーフタイムの間にけっこう雨足が強くなってきた。地面をたたきつける音が先ほどよりも強くなった。

  スーツのまま雨に濡れてびしょ濡れになって応援する経験が先輩マネージャー達には今までに何度もあったのだろうか。これから雨に濡れることをそれほど気にしていない様子で談笑している。
 後半もこの状態のままだと、まるでスーツ姿のままずっとシャワーを浴びているのと同じようになってしまい、全身ずぶ濡れで、すごいことになってしまうことは容易に想像できる。

 絵里子はじめ、新入生のマネージャー志望の4人は、入学式でおろしたばかりで、まだ綺麗なスーツのまま雨に濡れるのには抵抗があるようで、雨がやむことを祈りながらグラウンドの方に視線を向けている・・・。 (最終回)へ続く

2013年8月22日 (木)

マネージャー1日体験(2)


マネージャー1日体験(1)はこちら


  大学に入学して3回目の日曜の朝だった。理由はわからないが、絵里子はいつもの日曜日よりも早く目覚めた。30分後に鳴るはずだった目覚ましのアラームをオフにすると上体を起こした。すると、昨晩、ハンガーにかけておいたリクルートスーツ一式が目に入った。
「(そうだ、今日はサッカー部のマネージャー体験の日だったんだ。ちょっと早いけど準備しはじめなくちゃ。)」

 いつもの日曜日なら二度寝するところだが、今日はそういうわけにはいかない。体験会に参加するためにサッカー部の部室に集合するのだが、遅れず行く必要がある。
 平日、大学の授業があるときと変わらないルーティンをほぼ無意識的にこなすと、クローセットの前に立った。今日は服選びに時間はかからない。リクルートスーツを着用していくからだ。入学式の時に一度着ただけで、クリーニングに出した後にしまったままだったからほぼ新品だ。流行りのチャコールグレーの無地のシングル2ボタンスーツだった。タイトスカートの後ろベンツがやや深めだが、これがスタイルの良い絵里子をいっそうセクシーに見せている。

 慣れないスーツを着込んだら鏡で全身をチェックして出かける準備をした。スーツ姿であることは、まるで就職活動中の女子学生のようであるが、カバンはピンクっぽくいかにも10代後半の女子学生という仕儀だ。街を歩いていれば一瞥して就活生ではないことを峻別できるだろう。
 絵里子はカバンの中をチェックし、忘れ物がないことを確認すると家を後にした。

(中略)

 集合場所になっている大学敷地内のサッカー部の部室に近づくとスーツ姿の男女がすでに十数名集まっていた。男子も移動中はスーツだ。スーツ姿の女子は、先輩マネージャーか絵里子と同じ新入生のマネージャー体験会の参加者ということになる。男子と歓談している女子はおそらくは先輩マネージャーだろうと絵里子は思った。所々に間をあけて一人ポツンと立っているのが自分と同じ立場なんだろうと推察した。

 朝8時半の集合時間になると部長らしき男子と、女子マネージャーのチーフが先導し集合している人たちをまとめていった。男女合わせて総勢40人程度といったところだ。チャーターしたバスに乗り込んで目的地まで移動することになっていた。この人数ではさすがに電車や公共バスを使っての移動は混乱するだろう。
 サッカー部の女子マネージャー志望の新入生は絵里子を含めて4人だった。みんな、絵里子と同じようにリクルートスーツっぽいスーツを着ているが、おそらくは入学式で着用したものだろう。
 まだ、見た目がきれいでよれていない。それに比べて先輩のマネージャーのジャケットは背中に皺がはいっていたりしてよれている。タイトスカートには深い座り皺がいくつもあり、普段のマネージャーとしての仕事やその他の渉外活動などの忙しさを物語っていた。今の時期は、洗濯やクリーニングに出している暇もないのだろう。

 しばらくするとチャーターしたバスが到着し4年生の先輩たちから順に乗り込んでいった。新入生を指導するチーフのマネージャーに誘導されて絵里子たちマネージャー希望の新入生たちもバスに乗り込んだが、ほとんどの席は先輩たちで埋まっていて新入生たちは補助席に座ることとなった。
 絵里子の両サイドには先輩女子マネージャーや男子部員が座っている。先輩だからといって男子たちは意外にも新入生の女子マネージャー志望の絵里子たちには用事が無い限り話しかけてこなかった。まだ正式にマネージャーになったわけでもないし、気安く話しかけて印象を悪くされないように女子マネージャー達から釘をさされているらしかった。
 先輩の女子マネージャーは体験入部に参加する絵里子を含めた新入生女子マネージャー志望者とほぼ同じ程度の人数がいた。絵里子たちはマンツーマンで先輩と話しながらバスの中で退屈せずに過ごせた。出身校や授業の事などあたりさわりない話だったが、徐々にサッカー部のマネージャーの仕事や、今日の練習試合中にどのようなことをするのかなど具体的な説明をしてもらった。

 先輩マネージャーからの丁寧な説明が終わると、もうすぐ練習試合を行う相手大学のグラウンドに到着とのことだった
 窓の外をみると都心からけっこう離れているのか田畑を散見できる道を走っていた。標高はそれほどでもないがやや山間部のせいか、出発時とは空模様がかなり異なっていた。遠く向こうの方の空はグレーの雨雲らしきものが広がっていた。

 「サッカーの試合って雨でもやるんですか?」
 と絵里子はさっきまで色々説明を受けていた先輩マネージャーに聞いた。
 「うん。台風でも来ない限りやるよ。(笑)」
 即答だった。
 絵里子は一抹の不安を抱いたが、今となっては後戻りできるはずもなく、なるように身を任せるほかなかった。
 (3)へ続く

2013年5月15日 (水)

マネージャー1日体験(1)

 今春、絵里子は現役で志望大学に入学した。4月中旬から授業も始まった。徐々にアパートでの一人暮らしや大学の授業、さらには、お小遣い稼ぎで始めた居酒屋でのバイトにも慣れてきていた。

 しかし、絵里子はもう一つ物足りなさを感じていた。高校時代は吹奏楽部でフルートの演奏をしていた。それなりの腕前で周囲からも一目置かれる存在だった。
 大学に入っても吹奏楽部に入ろうかと思って見学に行ったが、高校と大学ではレベルがまったく違ううえに、いわゆる体育会系になるので活動も年中いろいろとあり体力的にも大変で、ついていけないだろうと絵里子は感じ、入部をあきらめたのであった。

 何かよいサークルみたいのが無いものかと色々と考えあぐねていたある日、キャンパス内の掲示板に、デザインは地味であるが文字の色使いがカラフルで目立つ1枚のビラに目が留まった。
 サークルではなく、大学公認の体育会の一つであるサッカー部のマネージャー(新入生)募集だった。即入部ではなく、まずは1日体験入部して判断してみませんかといった趣旨であった。
 ビラによると今週の日曜日に他大学のグラウンドに出向いて練習試合があるので、その時に同行し、先輩マネージャーの下でお手伝いをするとのことだった。

 絵里子はサッカー部のマネージャーも大変だろうけどもやりがいがありそうで楽しそうだとも思った。充実した学生生活を送るためにもやってみてもいいかなと直感的に思った。
 ビラには部室の場所も記されてあったので、いつでも訪れることは可能であった。しかし、突然部室を訪れる勇気は絵里子には無かった。新入生募集の担当者らしき人のメールアドレスが連絡先として記載されてあったので、それをメモして自宅に帰ってからマネージャー1日体験入部の申し込みをメールで送った。

 翌日になるとすぐに返事が来ていた。感謝の言葉と1日体験入部時の注意事項が記されていた。
 1日体験入部は他大学への遠征なのでスーツ着用とのことだった。たいてい、大学の体育会系の部活動では、遠征時の移動などの際、部員は正装としてスーツ着用が義務付けられているらしい。吹奏楽部の見学に行った時も同じようなことを言われた。
 特に女子マネージャーに関しては、遠征の時は移動も試合中も正装であるスーツとのことだった。したがって、待ち合わせ場所である学内のサッカー部の部室にスーツ着用で集合することになる。

 絵里子には入学式で1回着ただけのまだ真新しいスーツがあった。近い将来、就職活動をする際にリクルートスーツとしても使えるようにと量販店の店員のアドバイスで購入したものだ。オーソドックスでいかにもリクルート風のデザインであることが分かる黒に近い色合いのチャコールグレーの2つボタンスーツだ。

 当分着る機会はないだろうとクローゼットの奥の方にスーツ一式とやや襟が大きめのイタリアンカラーのブラウスをしまってあった。
 クローゼットから取り出すとタイトスカートやジャケットについていたクリーニング屋さんのタグを外し、いつでも着れる状態にしてクロゼットの手前の方にしまった。
 (2)へ続く

2013年1月15日 (火)

非日常世界へのいざない(3)・終


 (1)はこちら    (2)はこちら  


 「アクション!」

 雨が強くグラウンドを打ちつけている。そんな中、傘をさしながらリクルートスーツ姿の絵里子は、今にも泣きだしそうな悲しい表情で男と話している。
 グラウンドには水たまりができはじめ、雨足がさらに強くなった。タイトスカートやジャケットには水しぶきがかかっている。

 男は足早にその場を立ち去る。絵里子は傘を投げ捨てすぐさまその後を追いかけようとした。
 リクルートスーツには容赦なく人工雨が降り注いでいるが、NGが許されないこのシーンに集中している絵里子は、何も気にするそぶりはなく演技を続けている。リクルートスーツ姿で潜水をしたかのように頭のてっぺんからつま先までずぶ濡れだ。

 すべてのセリフが終わり、あとは泥の水たまりに足を滑らせて転んでしまうシーンの撮影だけとなった。
 絵里子は男の後を追いかけ走り出した。

 パンプスが脱げ、足がもつれるようにしながらうまい具合に泥水の中に転んだ。スカートもジャケットも底がぬかるんだ泥水に浸かっている。絵里子の視線は男の後ろ姿のほうにあるが、立ち上がって追いかける気力はない。
 脱力感に包まれ、泥水の中にお尻をつけてしゃがみこみながら男を見送ることしかできない。

 やがて絵里子はゆっくりと立ち上がる。
 リクルートスーツはタイトスカートもジャケットも真っ茶色に染まっていた。そして、ジャケットから除く純白のプラウスの襟には泥ハネがとんでいるところもあった。クリーニング仕立てで、先ほどまで一糸乱れず綺麗だったリクルートスーツ一式が台無しだ。

 雨はより一層強くなり、泥で汚れたリクルートスーツを洗い流していく。リクルートスーツ姿でずぶ濡れとなっている絵里子を数台のカメラが違ったアングルから捉えている。
 カメラは遠くに目を向けている絵里子の姿をゆっくりとクローズアップしていく。頭から勢いよく滴り落ちる雨水にゆがんだ顔をしっかりと収める。

 「はい、OK!」

 監督のヒロシの声が弾んでいた。
 絵里子の出番の撮影シーンはこれで終わりだ。
 帰宅のことを考えると、撮影用の衣装を忘れたために、リクルートスーツ姿で撮影に臨まなくてはならなかった事の代償はあまりにも大きかったが、絵里子の中では無事に撮影が終わった安堵感の方がこの瞬間はまさっていた。

 「お疲れさま。バッチリ。」
 ヒロシは、重要かつNGが許されないシーンの撮影が予想以上の出来栄えだったことに満足しているものの、リクルートスーツ姿でずぶ濡れの絵里子を目の前にすると複雑な気分だった。
 大きなタオルを差し出した。今、絵里子に対してできる精一杯のことだった。

 「よかった~。本当に大丈夫だよね?」
 うなずくヒロシを一瞥し、タオルを受け取ると絵里子は顔と髪を丹念に拭いた。次に足の汚れをざっと拭き取ると、ずぶ濡れとなって薄茶色に濁った水が滴り落ちているスカートやジャケットにタオルを押し付け水分を吸収させていった。
 いく ら吸収してもすぐに乾くわけではないが、日差しが強く暑い陽気なので、ある程度時間をおけば自然乾燥しそうだった。

 ・・・・・・雨に濡れてリクルートスーツが徐々に重たくなっていく感触と・・・、底がぬかるんだ泥水の中にうつ伏せたりしゃがみこんだ時の体の感触とリクルートスーツを汚してしまったことの罪悪感が・・・突然フラッシュバックし、不思議な感覚と快感にいざなわれた。
 何かが深層心理に働きかけ、潜在意識を顕在化しはじめた。何の束縛もない幼少期に、近所の友達と水遊びしたり泥んこ遊びした、あの悠久とも思えた楽しい感覚が深い眠りから目覚めた瞬間だった。

 気が付くと、撮影現場へ向かう時に通った河川敷の堤防を駅に向かって歩いていた。すでにリクルートスーツは乾きはじめていたが、泥汚れがしっかりと落ちていなかった部分が所々にあり、土埃が白っぽく浮き出てしまっていた。
 「(こんな汚れた状態じゃ電車に乗れないわ。)」
 堤防の上から川の方を眺めると水面がきらめいていて眩しかった。

  ・・・・・・川辺では突然、数人の小学生らしい男の子と女の子たちが水を掛け合って遊んでいる光景が出現した。むろんそれは、絵里子の昔の懐かしい記憶であった。

 徐々に心と体は、本能の赴くままに解放されていった。
 それは、自分を縛りつけていた心の鎖がほどけた瞬間でもあった。トランス状態に陥っている絵里子は、浅瀬から流れが緩やかな深みの方へとさらに足を踏み入れていった・・・。
(完)

ロイヤリティフリーの写真素材

2012年7月14日 (土)

非日常世界へのいざない(2)


 (1)はこちら


 土曜日の朝、絵里子は目覚めると部屋のカーテンをあけ、部屋を明るくした。気持ちのよい朝だった。
 今日は大学の講義はないが、午前中に某金融機関の最終面接が控えていた。絵里子にとっては本命の会社ということもあり、ここ数日はそのことで頭がいっぱいだった。

 絵里子は何気なく壁に掛かったクロックを見ると、一瞬目を疑った。面接は午前10時からだったが、既に8時をまわっていた。目覚まし時計をかけ忘れたせいで、1時間ほど寝坊してしまった。
 絵里子の自宅から面接会場までは急げば1時間くらいで行けるが、1時間半ほどの余裕をみておいた方が良い。これからリクルートスーツに着替えて身だしなみを整える時間を考えると朝食を食べてる暇などない。

 当然とはいえ、昨夜のうちに面接の準備は出来ているし、午後からの映画サークルの撮影のためにセリフも再度確認し準備万端であったので、リクルートスーツに着替えたら体身一つで面接会場に向かうだけでよいのが救いだ。
 パンストを穿き、昨日、クリーニングから戻ってきた白のレギュラーシャツや黒のリクルートスーツを手際よく着ていく。タイトスカートもシングルの2ボタンジャケットも皺がなく綺麗な状態であった。髪を整えるのにちょっと手こずったが8時半ちょっと過ぎに家を出ることができた。色々な資料が入ったリクルートバック、午後からの撮影で使う衣装やタオルや台本の入ったボストンバッグを持つと、最寄駅までパンプスをコツコツと鳴り響かせながらアスファルトの小道を駆けた。

 首尾よく最寄駅からはすぐに急行電車に乗ることができた。ラッシュの時間帯から外れていることもあり車内は比較的すいていて、所々に空席もあった。
 家から駅まで走ったことで体は火照りすこし汗ばんでいた。バックを左右の手にそれぞれ持っているうえ、ちょっと足が疲れたので、座りたいと思った。しかし、スーツに皺ができることを嫌って立っていることにした。
 最終面接を前に徐々に緊張してきたが、絵里子は持ち前のプラス思考と最終面接までこれたという自信に満ち溢れ、緊張感を振り払うことができた。

 ~面接後~

 最終面接を無事にこなし、面接に同席していた役員の反応も良く、既に最終面接を前にして内定は決まっていたのではないかと思うほど和やかな雰囲気で、会話も弾んだ。そのため、絵里子は内定を確信した。

  面接をした会社から最寄駅までは歩いて5分くらいだった。絵里子は駅へ向かって歩きながらスマホでメールの確認をしていた。
 「==予定よりちょっと早くこれる?ハプニング発生。」
 自主映画制作の監督で恋人でもあるヒロシからのメールだった。絵里子は就職活動とサークル活動(自主映画制作)、さらには、大学の授業やアルバイトと普通の大学4年生並みに忙しい日々を送っていた。
 「==うん、わかった。今、面接終わったところ。1時頃には着けるかな。そのくらいで大丈夫?」

 メールの返事を送信すると足を早めた。駅の近くにファーストフード店が見えた。朝食を食べなかったせいもあり、かなりお腹が空いていた。
 これから撮影であることを考えると、何か軽く食べておいたほうが良いだろうと絵里子は思った。

 「==それでお願い!」
 すぐにヒロシから短文メールが戻ってきた。
 ハプニングってなんだろう?・・・絵里子はフライドポテトをつまみながら考えていた。昼食をあっという間に済ませると、ゆっくりくつろぐ暇もなく撮影現場へと向かった。最寄駅までは電車を1回乗り換えて30分ほどかかる。駅からは現場の公園までは歩いて5、6分といったところだ。

 撮影現場へ向かうには途中、河川敷の堤防を歩くのだが、川の水面がキラキラと反射しているのが綺麗だった。こんな暑い日には水浴びでもしたら、気持ちいいだろうなと思った。
 しばらく歩いていくと、ヒロシや他のスタッフ達の姿が見えてきた。雨降らしのリハーサルをしたのか、撮影で使用するはずのグラウンドの脇は少しぬかるんでいるらしかった。
 「あっ、絵里子。悪い。」
 ヒロシの視線の先にリクルートスーツ姿の絵里子を確認した他のスタッフたちは、同学年、下級生まちまちであったが、それぞれの立場に応じた挨拶をした。
 早速、ヒロシからハプニングの内容が伝えられた。
 「今日さ、例のシーンなんだけど・・・」
 「何?」
 「雨降らしの装置、相手の都合で予定より早く返さないといけなくなっちゃって、少し撮影を早めようと思ってさ。悪いけど、すぐ例のシーンはじめたいんだ。」
 「だったら、電話でそう言ってくれればよかったのに。ランチ済ませてきたから、その分、来るのがちょっと遅くなってしまったわ。」
 「まあ、そこまでしなくてもいいけど。それに今日、本命の最終面接とか言ってたし、状況わからなかったから。それより、早く着替えてきたら?」
 「うん。」

 絵里子は朝自宅を出るときに持っていた着替えの入ったバックを置き忘れてきたことに、今この瞬間になって気がついた。頭が真っ白になった。
 リクルートバックと一緒に面接会場に持っていくには荷物になるので、朝、面接を受ける前に、会社の最寄駅のコインロッカーに預けておいたのだった。

 「・・・・・」
 困った表情になった絵里子をみてヒロシが声をかけた。
 「どうかした?」
 「撮影で着る衣装、忘れてきちゃった。」
 「忘れてきたって・・・。」
 「違うの。朝、ちゃんと忘れず持って出たんだけど、面接行く時、駅のコインロッカーに入れて、そのこと忘れてここにきちゃったの。今から急いで取ってくる。往復1時間ちょっとかかるけど。」
 「無理だって。3時までしか雨降らし機借りられないんだから。レンタル料金なんとか払って、スタッフだって無理言って何とか今日揃えたんだから、延期するなんてできないし・・・」

  監督のヒロシの立場としては、絵里子には申し訳ないが、リクルートスーツで撮影に臨んでくれる事を願うしかなかった。しかし、クリーニング仕立てだということがはっきりと分かる黒のリクルートスーツを目の前で見ていると、自分からそのことを言い出すのは、さすがに気が引けた。

 絵里子がヒロシの顔をチラリと見て様子を伺うと、困った表情で何かいいたげだった。自分だって困っているがヒロシも困っている。どうしたら良いのか、困り果てながら絵里子は視線を下に落とし、その視線を自分が着ているジャケットからタイトスカート、そして足元へとさらに落としていった。
 「(クリーニング仕立てなのに・・・)」
 絵里子はフゥーとため息をついた。
 「何?」
 「スーツのままでいいから、撮影はじめようよ。」

 ヒロシは、申し訳なさそうに絵里子の顔とリクルートスーツを見つめた。
 「何じろじろ見てるの!」
 ヒロシは安堵と絵里子に対する罪悪感が入り混じった複雑な表情で、スタッフたちに指示を出した。
 「みんな始めるぞ!準備!」

 ヒロシは絵里子の方を振り返った。
 「絵里子、本当にごめん・・・。」
 「いいよ、このリクルートスーツ、もう着なくて済むと思うし。」
 「どういうこと?」
 「多分、今日のところ内定取れると思うから。」
 「すごい自信。」
 「自信っていうか、今日の面接、就職の意志の確認とか、そういう話ばかりだったから。」 
 「なるほどね。それはともかく、絵里子の・・・そのリクルートスーツ・・・。」
 「・・・予算は出せないよ、でしょ?(笑)」
 「あっ、まあ・・・。(笑)」
 「衣装置き忘れてきた自分が悪いんだし。リクルートスーツ姿だけど、雨に中でもちゃんと演技するからね。どうせなら、この前よりの派手にやっちゃおうかな。」
 「でも、NGださないでね!(笑)」

 二人の会話を遮るように助監督が報告に来た。
 「監督、OKです。」
 雨降らし機のスタンバイもできたらしい。
 他のスタッフ達や、絵里子の恋人役の後輩は、絵里子がリクルートスーツ姿であることに驚いているようだ。
 絵里子はリクルートスーツで撮影に臨むことになって、帰宅時のことが気になったがいまは撮影に集中しようと気持ちを入れ替えた。他の現場のスタッフたちは、ほどよい緊張感に包まれながら、今まさに始まろうとしていることに意識を集中していた。

 恋人役が傘を広げた。
 「よろしくお願いします。」
 絵里子も現場に置いてあった傘を広げた。
 「こちらこそ。」
 グラウンドの真ん中あたりむけて人工雨が降り注ぎ始めた。徐々に雨足が強くなってくると、合羽を着たカメラマンや音声、数名のスタッフが雨の中へと入っていった。
 地面が水を蓄えはじめ、やがて所々に水たまりができた。

 監督に促され、恋人役の二人も傘をさしながらザーザーと降り注ぐ雨の真下へと歩いて行く。二人の傘を雨が強く打ちつけている。絵里子のパンプスは泥跳ねで汚れはじめ、スカートやジャケットには水しぶきがとんでいた。

 お互い顔を向かい合わせ、絵里子は恋人役の男の顔を見上げてながら
監督の合図を待っていた。 ~(3)へ続く~

2012年5月12日 (土)

非日常的世界へのいざない(1)


 都内の某公園のグラウンドに、絵里子は、アイボリーのロングスカートにフリル付き白ブラウスといった春らしい装いでいる。
 流行の服や派手な服には興味はなく、コンサバ系ファッションが好みであるが、そのことが清楚でお嬢様風の雰囲気を漂わせている着こなしになっている。

 雨が降りしきる中、絵里子は傘をさしながら恋人らしき男と立ち話をしている。
 絵里子は何やら悲しげで、今にも泣き出しそうな表情で男の顔を見上げている。徐々に雨足は強くなり、グラウンドには水がたまり始め、傘に打ち付ける雨音が大きくなった。スカートの裾は雨で濡れ始めていたが、絵里子はまったく気にする素振りなどない。
 男は足早にその場を立ち去り、絵里子は傘を投げ捨て、すぐさまその後を追いかける。濡れたスカートが脚にまとわりつき、さらには、サンダルを履いているせいもあり走りずらそうだ。

 5、6歩ほど走って追いかけたが、サンダルが脱げ足がもつれて泥水のたまったグラウンドにうつぶせの状態になって転んでしまう。男は絵里子が転んだことに気がつくこともなく走り去っていく。
 上体を起こすが立ち上がって再び追いかける気力は一瞬のうちになくなってしまった。ぬかるみの上に座ったまま男の後ろ姿をただ呆然と見ている。

 今の絵里子の気持ちを代弁するかのように、天の涙が一段と強くなり容赦なく絵里子を頭から打ち付けている。ゆっくり立ち上がり傘を拾うこともせずに歩き出しはじめた。
 うつぶせになっていたために、スカートもブラウスも前面は泥で真っ茶色に染まっていた。汚れていない部分は全て雨でずぶ濡れの状態であった。先ほどまであんなに綺麗だったおろしたての服がこれで台無しだ。

 ここまでは、「予定通り」だったが想定外のことが起こってしまった。雨が突然止んでしまったのだ・・・。
 今までの静寂が一瞬のうちに喧騒へと変わった。

 「はい、カット!」

 そう、絵里子は大学の映画製作部に属している。大学生活最後の1年を映画製作にかけている。今回の作品では主役の座を射止め意気込んでいた。

 「おいっ、雨降らし、何やってんだよ。しばらく降らたままでおけと言っただろ!」
 と監督が雨降らし役の後輩に怒号をあげた。
 「はい、ごめんなさい。勢い良く降らせたらタンクの水が切れてしまいまして・・・」
 「言い訳なんかいいよ。撮り直しじゃないか!」

 自前の服がびしょ濡れ&泥だらけになった絵里子は残念そうに肩を落として監督のいる方に歩いていく。
 「このシーン・・・、1回で終わらせたかったのに。雨降らしは調節が難しいから未経験の新入生には無理だって言ったのに。」
 「ごめん。次回はまた戻すから。また週末にでも・・・。大変なシーンなのにほんと悪いね。」
 「えーと、今度の土日の午後からなら大丈夫だけど」
 「そう、じゃあ土曜の2時でどうかな?日曜は一応予備日で。」
 「うん、わかった。」
 「部の予算がないから服は自前にしちゃって悪いね。それにしても、白っぽい服を選ぶなんて絵里子らしいよね。役柄のイメージにもぴったりだし。(笑)でも、この服、洗濯してももう着れないよね?」
 「大事なシーンだし、インパクトあった方がいいと思って。」
 「まあ、それはそうだけど、次回はもっと地味なのでいいよ。汚れてもいい服ってまだあるの?」
 「この服、実は通販で安く買ったの。自分の服は、もう着なくなったからといっても汚したくないから。次回も適当に用意してくるから大丈夫。」
 「予算は出ないよ。」
 「うん、わかってる。気にしないで。」
 (絵里子はふと時計を見るなり慌てて帰り支度を始める)
 「あっ、もうこんな時間。この後予定あるから、今日はこれで。」
 「うん、じゃあ、また。」
 「(お疲れ様です!)」
 後輩らスタッフ達が絵里子に挨拶をする。

 絵里子は公園の水道の水で汚れを落としている。泥汚れの部分は薄くシミとなってやはり落ちない。しかし、もう着ない服だから気にはならないでいた。
 ここから自宅までは、バス・電車・徒歩と合計2時間程度かかる。もともと手はずを整えていたことではなるが、撮影後の濡れた格好のままではさすがに人目が気になって帰りずらいので、公園内のトイレで用意してきた服に着替えてから帰宅した。

 絵里子は、帰りのバスの中で、先ほどのシーンのことを思い出していた。
 あれほどまでに雨に濡れてびしょ濡れになったり、泥だらけになった経験は初めてであった。
 役柄のために使い捨てと割り切って安く購入した服とはいえ、新品の服をあんなにしてしまった事に罪悪感を抱いていた。
 しかし、その罪悪感を打ち消すかのように、絵里子はある記憶を鮮明に思い出した。それは、雨に打たれときに冷たくなった布地で体を拘束された感覚と、グラウンドのぬかるみにうつぶせになった時の泥の感触が昇華されたものであった・・・。
 絵里子は今、突如、得体の知れない非日常的世界への扉を開こうとしていた。 
~(2)へ続く~

2012年3月24日 (土)

内定者対象「日帰り研修」(最終回)


 座禅の結果、女子としては横山瞳だけが滝行を行うことになり、今まさに滝に打たれる為にその場所へと足元を気にしながらゆっくりと移動している。
 水しぶきがだんだん激しくなり、彼女のリクルートスーツのあちこちにかかっている。タイトスカートは半分ほどが水没している。
瞳はスカートの左右のウエストあたりを掴んで上に持ち上げ、これ以上濡れないようにとの仕草をしている。
 絵里子は、瞳のその行動が「自らの意思に反する演技」ではないかという疑いの目で見ていた。考えてみれば、これから滝行で頭から水を浴びるのだから、スカートが濡れないようにとの行為は全く無意味なのである。

 滝の下あたりは水かさが浅くなっているようで、瞳は、ふくらはぎ位までしか水に入っていない。一旦、太腿あたりまで水に浸かったせいで、黒のリクルートスーツのタイトスカートの下半分が水を十分に吸収し色がくっきりと変わっているのが遠くからでも観察できた。

 いよいよ、瞳は滝の真下に体をいれようとした。
 すると、滝行をはじめようとする彼女の写真を撮ろうとスマホを出す者が男子を中心に大勢いた。
 みんな、なるべく近くで写真を撮ろうと、水しぶきがこないギリギリのところまで移動した。瞳までの距離は7、8メートルといったところであろうか。5、6メートルのところまでは水しぶきが届かないようであるが、その場所にいくには、水の中に入らなくてはならないので、当然とはいえ誰も行かない。

 絵里子はレンズという人工物ではなく、自分の目を通して瞳の滝行を観察しようとしている。そのために、みんなと同じくギリギリの場所まで近づいて瞳の表情をじっと見ている。
 その時、一瞬、絵里子は瞳と目が合った・・・。絵里子はハッと驚いた。絵里子のほうを見ながら微笑んだかと思うと瞳は水柱の中に姿を消した。
 「(あの微笑みは何?なぜ私と目が合ったんだろう。)」
 と絵里子は思った。

 そして、数秒すると、頭から滝の水をかぶっている瞳が現れた。今さっきまで水しぶきをかぶっただけで済んでいたリクルートスーツのジャケットやブラウスもずぶ濡れとなっている。水が冷たいからだろう、瞳の表情はこわばっている。目を閉じて、直立不動のままで水を浴び続けている。
 この季節の滝行ということで、一人1分間ずつとなっていた。30~40秒ほど経ち、残りあと半分といったところで瞳はなぜかその場で四つん這いになったまま動こうとしない。突然の出来事にみんな静まり返った。
 「大丈夫かな・・・。」
 「誰か様子を見に行った方がいいんじゃないか!」
 「えー、どうしたんだろう・・・。」
 とみんな口々に言い、心配そうに瞳の方を見ているが、誰一人として行動に移すものはいない。

 次の瞬間、バシャーンと誰かが水の中に飛び込んだ。絵里子だった。
 携帯電話を隣の人に預けるとチャコールグレーのリクルートスーツがずぶ濡れになるのを気にせず、ジャブジャブと池のなかを歩いて瞳の方へと向かっていった。瞬く間に絵里子のスカートはずぶ濡れになりジャケットにも水がとびちって濡れ跡がまだらについている。
 その行為は周りからみれば、とっさに瞳を心配しての勇気ある行動と捉えられているが、彼女の中では違っていた。
 先ほどの座禅中、心の奥底から湧き上がってきた「不思議な感覚」・・・つまり、リクルートスーツ姿でずぶ濡れになってみたいというを強い衝動を実践するには願ってもないチャンスと考えたのだった。そして、いまひとつの動機は、瞳の行動から察知した自分の推測を確かめる為でもあった。

 絵里子は、流れ落ちる滝の水を背中で受けながら四つん這いになっている瞳のもとまでいき彼女の後ろ姿を見た。ずぶ濡れになったタイトスカートにふと目をやると、後ろのスリット部分にしつけの糸が付いていた。
 「(えっ、うそ・・・もしかしておろしたてのリクルートスーツ着てたの?)」
 このことで、座禅の時に瞳に対して感じた「あること」が揺るぎない確信へと変わった。

 絵里子は彼女の顔を下から覗き込んだ。案の定、トランス状態に陥っていて、目がとろんとし、自分の世界に入り込んでいた。瞳は、今置かれている状態・感覚を楽しんでいるようだった。
 絵里子が近づいてきたことに気がつかなかったのか、瞳は急に我に返って上体を起こして顔を上げ、周りをキョロキョロと見渡し、一行の方を一瞥すると、ずぶ濡れのリクルートスーツ姿の絵里子の方に目をやった。
 向こうにいる一行は、瞳のが自ら上体を起こしたことを確認すると、安堵のため息をついた。

 瞳は、自分の表情を間近で見られて、何か変な風に絵里子に思われていないかと気まずい気持ちだった。そのことを察した絵里子の方から声をかけた。
 「横山さん、大丈夫。今、何を考えているかも、どういう気持ちで滝行をしていたかも分かってますから。実を言うと、座禅の時から感づいてましたよ。(笑)」
 「座禅の時から?」
 「滝行が決まったとき、嫌そうな表情じゃなかったし、どこか嬉しそうに見えたましたから。」
 「・・・。」
 「もしかして、服を着たまま水に濡れたりするのが趣味というか、好きなんじゃないですか?なぜか、おろしたてのリクルートスーツを着てますし、今となってはそう確信しています。」

 絵里子から発せられる言葉が全て図星のため、瞳は目を丸くし顔を火照らせた。
 「あの、この事は誰にも・・・」
 「もちろん、誰にも言いませんよ。そのかわり私の事も誰にも言わないでくださいね。二人だけの秘密ということで。」
 「えっ、どういう意味ですか・・・」
 しばらくの間の後、瞳は全てを理解した。二人にはそれ以上の言葉は必要なかった。

 「二人とも! 早くこっちに戻ってきてください。」
 二人のやりとりは水音でかき消されて向こうにいる一行には全く聞こえない。何を話しているのかと、しびれをきらした引率の人事担当者が二人を呼び寄せた。

  戻ってきた二人は全身ずぶ濡れだ。濡れたスーツが二人の体を引き締めているせいもあり、胸やお尻などのラインが一層強調されていた。ジャケットやスカートの裾からはもちろん、髪の毛からも水滴が落ち、乾いていたはずの地面があっという間に水浸しになった。
 無風とはいえ気温は3度。二人とも体が小刻みに震えている。バスタオルをもらうとそれで髪の毛をざっと拭くと肩にかけた。引率担当者は、一行に荷物を持って本堂へ通じる先ほど上がってきた階段を下っていくように指示した。

 滝行を行なった者たちは大浴場へと案内された。この大浴場は、滝行を行なった人たちが体を温めたり着替えなどをするために設けられている独立した施設のようだった。
 絵里子と瞳だけが女性専用の大浴場を独占した。二人の心は踊った。着替えなどが入ったカバンをロッカーの中に入れると、二人は無言で、ずぶ濡れとなったリクルートスーツを着たまま浴室へと入っていた。
 温かいお湯のシャワーを頭から勢い良く浴びた。乾いたリクルートスーツが濡れていく時とは異なる快感が二人を包み込んでいた。(完)

2012年3月 7日 (水)

内定者対象「日帰り研修」(3)


 「(横山さんのあの時の表情・・・、喜んでいたように見えたけど私の気のせいかしら?)」
 絵里子は彼女の表情が気になり、瞑想しながらその訳を考えていた。しかし、もっともらしい理由が思いつかない。こうなったら直接本人に聞いてみるしかない。

 「(あと一回警策でたたかれれば私も滝行を行うことになる・・・。リクルートスーツのまま滝に打たれるなんてなかなか経験できないし・・・思い切ってやっちゃおうかな。)」
 絵里子は、横山瞳と同じ運命をたどることを自らの意思で決めた。
 そして、わざと咳をして前かがみになった。たまたま喉に痰がひっかかっていたせいもあり、演技とはいえ風邪気味の人間がする咳らしい仕儀であった。部屋中に聞こえる咳の音と前かがみになっての仕草に和尚さんが気づかないはずがない。
 案の定、和尚さんは絵里子のもとへとゆっくり歩いてきた。そして、絵里子は「望み通り」警策でたたかれる「はず」であった。

 しかし、和尚さんは、絵里子に話しかけようと顔を近づけ、今の彼女が目をつぶって何の反応もなくじっとしていることを確認すると、無言で通り過ぎていってしまった。
 「(なんで?)」
 絵里子は和尚さんの行動に不意をうたれた。また数分後に先ほどと同じように咳をして体を動かしたりしたが、和尚さんが近づいて来ることはなかった。なんとかして警策でたたかれようと絵里子は焦った。
 だが、和尚さんは絵里子のことを風邪をひいているのだと思ったらしく、絵里子はその後どんなに動いても警策でたたかれることはなかった。

 間もなく、座禅の時間は終了した。
 この間、男子が数名、滝行へと向かったが、女子では先ほどの横山瞳だけであった。絵里子は彼女が今どのような状態なのか・・・、どのような事を考えているのかと思うと気になって仕方がない。
 座禅を終えた一行は引率の人事担当者に指示され、荷物を持って滝行が行われる場所へと移動した。

 座禅室の中も寒かったが、当然とはいえ外の方が寒かった。座禅室の玄関の入口には寒暖計があった。それが正確であれば、気温は3度だ。
 朝は氷点下の寒さだったのだろう、一行が滝の方へ向かう途中の舗装されていない小道の土には霜が降りていた。その霜が少しとけた所もあるせいで道はぬかるんで滑りやすくなっていた。一行は足元に注意しながらゆっくりとした足取りで進んだ。

 滝が近づくにつれて水音が大きくなってきた。本堂や座禅室から50メートルほど歩いたところに滝があり、5メートル上の岩場から3筋の水がほぼ均等に流れ落ちている。滝の下はせいぜい5、60センチ程の水かさで溜池のようになっているが、どこからか水を排出もしているため水は池からは溢れ出すことはないようだ。

 滝行をする男子3人と女子1人の計4人が、池の脇で和尚さんから何やら説明を受けている。彼らとただ一人の女性である瞳のリクルートスーツには滝からの水しぶきがかかっていた。まるで小雨の中、傘もささずに立っているかのような状態だ。
 滝は3筋流れ落ちている内、真ん中が一番水に勢いがあった。その箇所で滝行は行われるようだ。滝行を行う者は、ひとりずつ順番にその位置に移動して滝に打たれることになっているらしく、一列に並んでいる。男子3人のあとの最後が瞳という順番だ。

 滝行を行わずに済んだ一行は、遠巻きになって滝行を行う4人を哀れみの眼差しで見つめている。ただ絵里子を除いては・・・。
 絵里子は相変わらず瞳の事が気になって、ひたすら彼女の動向を観察している。不安げな他の男子3人とは違って瞳は、まるで滝行を待ち望んでいるかのような表情に絵里子には思えた。

 いよいよ滝行が始まり、1人目、2人目・・・と男子たちは、あまりの水の冷たさに絶叫した。3人目の男子が終わり瞳の番になると周囲がざわついた。
 紅一点、スタイルも良くショートカットが似合うリクルートスーツ姿の瞳が滝行をさせられるという状況に、ここにいる全員が緊張を感じていた。
 瞳は、池の脇に腰を下ろし、水しぶきで濡れて底冷えのする岩にお尻をつけて座った。そして、2、3秒の間、滝の上の方を眺め、自分が着ているリクルートスーツへと視線を向け、さらに、池底へと視線を落とすと意を決して両足を池の中にいれた。
 水はそうとう冷たいはずだが、そうした素振りを言動には出さず気丈にも水が流れ落ちてくる方へと歩いていく。

 池の水かさは徐々に深くなっていき、やがて、瞳の太腿あたりまでタイトスカートが水没している。また、水しぶきも滝の近くは激しいようで、ジャケットにはかなりの水滴が確認できる。彼女は躊躇することなく、滝の中に身を捧げた。
 絵里子は、座禅室からの瞳の一連の行動を観察し、「あること」を確信していた。

 「かわいそう・・・。」
 「大丈夫かな・・・。」
 そんな声があちらこちらから聞こえてくる。
 しかし、絵里子だけは、別の感情を抱いていた。胸をときめかせ、「秘密の歓び」を感得しているであろう瞳に嫉妬した。 ~(最終回)に続く~

2012年2月16日 (木)

内定者対象「日帰り研修」(2)


 絵里子も周りの人たちとタイミングを合わせるように横目で様子を見ながら正座をした。
 ふと目を下に落としたときに、タイトスカートの裾の位置が太もも近くまで上がっている事に気が付くと、軽くお尻を上げて両手で裾を引っ張ると、両手を膝裏の方へと動かしながら、お尻をかかとにつけて正座し直した。
 すると、今度はスカート丈が膝上のちょうどよい按配になり、ぴしっと美しいシルエットが出ている。ジャケットの胸の部分は、形良く力強く盛り上がっていた。

 まさに今から始まろうとしている30分間の座禅に耐えるため、絵里子をはじめ学生たちは心を落ち着かせようとしていた。30分という時間は、時間に追われた日常生活の中ではあっという間に過ぎ去るが、こういった時の30分は、なかなか時間が経過しないであろうことは、絵里子も経験的に察していた。
 リクルートスーツ姿の学生たちは、気合を入れ真剣な面持ちで背筋を伸ばすと、静かに目を閉じ瞑想に入る準備をした。

 部屋の中が静かになったことを確認すると、和尚さんは「始め !」と号令をかけ、樫の木でできた警策を両手に携えながらゆっくりと学生たちの前を行き来した。
 5、6分は何事もなく過ぎ去ったが、「コトッ」と何かが倒れる音がした。絵里子の斜め前に座っている女子学生のカバンが倒れた音だった。カバンの持ち主は条件反射的に反応し、カバンを立て直した。その行為を和尚さんが見逃すはずはない。その女子学生の後ろに移動すると、警策を右の肩に軽く触れ、今からたたくという無言の合図を送ると、「ピシッ!」という音が部屋じゅうに響きわたった。

 この出来事で一部の者たちの緊張の糸が切れだしたのか、連鎖的に警策で肩をたたかれ、早くも滝行にリーチがかかってしまう者が出始めた。
 しかし、それは男子ばかりで、女子は最初にたたかれた女子学生以外には、まだ誰もたたかれていない。そのことは、男子と女子が部屋の真ん中にある大柱を境に左右に分れて座っているから目を閉じていても分かった。

 みんな自分が座っているスペースの脇にはカバンが置いてある。その中には着替えの服が入っているのだが、今となってはその理由をここにいるすべての者が理解していた。
 実は、今日の研修のために着替え一式を持ってくるように指示されていたのである。絵里子は着替えとして、就職活動に着用していたもう1着のスーツである2つボタンの黒のリクルートスーツをカバンの中にしまってあった。
 着替えの服については会社から細かい指示がなかったので、私服でも良いのかもしれないが、入社前の研修ということもあり無難にリクルートスーツにしたのだった。
 まさかこんな研修になるとは思ってもいなかった絵里子は、先ほど境内の階段で見たびしょ濡れのリクルートスーツ姿の男女を思い出すと、
 「(こんな寒さの中、滝の水を頭から受けたら・・・。水がすごく冷たいのは当たり前だけど、リクルートスーツのまま濡れてしまうと、どんな気持ちになるんだろう・・・。)」
 と、不思議な感覚が心の奥底から湧き上がってきた。

 一瞬、意識が遠のいたかと思うと、「ピシッ!」という音と右肩の痛みで我にかえった。
 絵里子が警策でたたかれた音が今までよりも高かったせいで、近くの数人が反応し体がわずかに動いた。その中に女子は2、3名いたが、先ほど先陣を切ってたたかれた女子学生もいた。警策でたたかれるのが2回目の者は、残りの座禅時間を待たずして滝行が行われる場所に移動させられるようだ。
 「横山瞳さん、荷物を持ってこちらへ来てください。」
 と、引率の人事担当者が呼ぶと、彼女は着替えの入ったカバンを持って立ち上がった。

 絵里子は薄目でその時の彼女の表情をうかがった。すると、嫌がっているはずの彼女の口元がなぜか笑っていた。彼女の意外な表情に驚き、二度見し、その表情をもう一度確認すると再びしっかりと目を閉じた。
 最初に警策でたたかれたのも滝行が決定したのも、この横山瞳というショートカットが似合う娘だった。彼女が着用している黒のリクルートスーツは、体にぴったりフィットしジャケットのウエスト部分が綺麗に絞られていてスタイルの良さがわかる美しいラインだ。スーツの生地も仕立ても良く、見るからに高価そうだ。

 「(横山さんっていうんだ。あんな高そうなスーツを着たまま滝行するなんて・・・かわいそう・・・。)」
 と、絵里子は同情すると同時に、彼女が滝行する羽目になった原因を作ったのは私だと責任も感じた。それに、何ともしっくりこないのは、彼女の表情だった。斜め後ろからだからはっきりとは分からなかったものの、彼女は喜んでいるかのように見えた。
 その理由が絵里子の頭の中からどうしても離れずにいた。 ~(3)に続く~

2012年1月26日 (木)

内定者対象「日帰り研修」(1)


 ここは都内からバスで数時間あまりの関東北部の高原にある小さなお寺。
 今、まさに、前年内定を決め、4月から入社予定の学生たちを対象とした新年恒例の「日帰り研修」が始まろうとしていた。

 某財閥系の商社では、毎年、新年早々に内定者を呼び出し、社会人の心構えやマナーはもちろんのこと、精神と体を鍛えあげる為にイベントとして「冬期研修」を開催している。

 バスは境内の入口で、絵里子たちをおろした。リクルートスーツに身を包んだ一団が不安げな表情であたりを見回しながら立っている。
 境内から本堂へと続く長い階段の上からざわざわと声が聞こえてえきた。すると、リクルートスーツ姿の男女たちがただならぬ様子で階段を降りてきた。
 遠くからでは分からなかったが、近くに彼ら彼女らが来ると、頭のてっぺんから靴まで全身びしょ濡れになっている者とそうでない者がいることに気がついた。
 タイトスカートやジャケットの裾から水が滴り落ちている女子も何人かおり、彼女たちは寒さに震えながら荷物の入ったカバンを持ってどこかに向かっている。その光景を絵里子は驚きの眼差しで眺めていた。

 ここのお寺は、さほど広くないからだろうか、この「日帰り研修」は内定者を先発組と後発組の2グループに分けて行われる。今、目撃したのは、先発組として参加していた者たちだ。
 絵里子を含む後発組の参加者たち一行は、言葉を失い、その一団の後ろ姿をただ呆然と見ている。

 絵里子は、就職活動中に使用していたチャコールグレーのリクルートスーツを着用している。
 今日の為にクリーニングしたばかりで綺麗だ。まだ入社前のイベントということもあり、髪型は敢えてリクルートスタイルで髪を後ろで結いてすっきりした印象だ。スタイル抜群の絵里子は良くスーツが似合っている。ジャケットから顔を覗かせているスキッパーブラウスの襟が初々しく白く輝いて見える。
 それだけに、移動のバスの中でついたタイトスカートの座りじわとジャケットの背中についたシワが、絵里子の端正な表情と綺麗に着こなされたリクルートスーツ姿の秩序を乱していた。

 引率の人事担当者が先導し、階段をのぼって本堂へと向かうよう号令をかけた。 内定者たちは、まだお互いのことを知らないが、びしょ濡れのリクルートスーツ姿の仲間を目撃した衝撃を隠しきれず、そのことについて話しながら階段をゆっくりとのぼり始めた。
 階段をのぼりきると目の前には本堂があり、和尚さんが入口で待っていた。これから座禅をやるのだ。本堂広間の横にあるのが座禅室らしく、一人ずつその部屋に通されていく。黒系統の無彩色のリクルートスーツ姿の集団で部屋は埋まっていった。

 座禅室の中に全員が入り終わると、間もなく和尚さんが自己紹介をし、座禅の説明をし始めた。
 「座禅の経験がある方も無い方もいるかと思いますが、30分間、呼吸の動き以外は微動だにせず、無心になって神経を集中させ瞑想に耽ってください。背骨を真っ直ぐ上に伸ばして、丹田を突き出すようにし腰骨を伸ばしてください。そして、呼吸の整え方ですが、口を閉じ鼻から息を吸って、丹田まで行き渡るくらい吸って・・・」

 一通りの説明が終わると、引率の人事担当者から補足説明があった。
 「この座禅会は、精神と体を鍛える目的のために会社主催でおこなっているものです。当然、座禅の最中に、集中力散漫と判断できる者や動いた者がいたら、和尚さんに「バシ!」と叩いてもらいますから気合を入れて臨んでください。1度は見逃しますが、2度以上叩かれた者には、この寒さの中、滝行で心身ともにさらに鍛錬してもらうことになります。男女平等ですので女性にも容赦しません。」

 ただでさえ静かな座禅室が、髪の毛が床に落ちる音が聞こえそうなくらいの静寂につつまれた。
 男性は胡座を組み、女性は正座をし、心を落ち着かせ座禅の準備に取り掛かかり始めていた。 ~(2)に続く~