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カテゴリ「ウェット・ストーリー」の76件の記事 Feed

2010年8月14日 (土)

真夏のリクルートスーツ(1)


 就職活動をしていた絵里子は、この不況の中、首尾よく内定をもらうことができ、大学時代最後の夏を気持ちよく過ごしていた。前期試験も終わり夏休みに入ったばかりのことである。
 内定先の会社より、大学4年生・大学院2年生の内定者を対象にした初顔合わせとしてオリエンテーションが開催されるとの連絡があった。

 この行事は内定者が一堂に会する改まった席上であるため、参加者はリクルートスーツを着用しなくてはならなかった。真夏のこの暑さの中、半袖の恰好で数分間屋外にいるだけでも汗だくになってしまうというのに、リクルートスーツを着用しなくてはならないと知って絵里子は憂鬱だった。暑さが大の苦手で汗かきでもあった。
 
 オリエンテーション当日、外は日差しが強く前日まで雨だったせいもあって、湿度が異常に高くじめじめとしていた。
 絵里子は自分の部屋でリクルートスーツに着替えているわずかの間でもかなりの汗をかいてしまい、パンストやブラウスが肌に張り付き始めていた。
 絵里子は黒に近い色合いのチャコールグレーの3つボタンリクルートスーツに身を包んだ。ジャケットからはスキッパーカラーブラウスの純白の襟が出ている。オーソドックスなコーディネイトである。内定を決め就職活動が終了してからしばらくの間、リクルートスーツのスカートとジャケットをクローゼットにしまい込んだままにしてあったが、数日前に急いでクリーニングに出したのであった。
 まるでおろしたてかのように一糸乱れずピシッとしたリクルートスーツを着ていると身が引きしまるような気持ちであった。

 地下鉄やバスの中は冷房がきいていて涼むことができたが、また炎天下をリクルートスーツ姿で歩いていると汗が一気に噴き出してきた。
 最寄りのバス停から歩いて4、5分で内定先の会社の本社正面玄関前に到着した。中に入る前にカバンからハンドタオルを出して額や首筋の汗を拭き、手鏡でメイクやヘアスタイルをチェックした。そして、絵里子は自動ドアの向こうへと消えていった。

 ・・・数時間後・・・

 オリエンテーションに参加したリクルートスーツ姿の男女が玄関から出てきた。
 絵里子は一人の女子学生と一緒に携帯電話を片手に親しげに話をしている。オリエンテーションで仲良くなり連絡先の交換をしているのであろうか。しばらく立ち話をすると二人はそこで別れた。

 絵里子は、歩きながら空を見上げた。まぶしい陽光が目につきささる。まだ午後2時ちょっと前で日差しが強く暑さが厳しい時間帯だった。外に数分立っていたせいもあり、汗が頬を滴った。

 「(この暑さどうにかならないかな・・・)」

 絵里子は、今日はこの後は特に予定がなかったので、街をぶらつくことにした。
 暑さから逃れるために、駅の近くにあるいくつかのデパートのファッションコーナーを見て回りながら涼もうと考え、駅の方へと向かい始めた。 ~(2)へ続く~

2010年1月23日 (土)

あこがれの着衣入浴(3)・・・最終章

 バスタブの中に入っていると額から汗が滴り落ち始めた。そのまま、さらに数十分ほどお湯に浸かっていると汗がさらに噴き出てきた。しかし、辛いというよりも、どちらかというと汗と一緒にストレスや体の老廃物を出し切った感じがして、すっきりと気持ちが良かった。

 しばらくすると、絵里子はバスタブの水面に浮かんでいるスーツや下着などを拾い上げ、バスタブの底の栓を抜いてお湯を流し始めた。そしてスーツなどを洗面所にある脱水機の中に無造作に置いた。
 スーツのジャケットとスカートは、本来は水洗いは駄目である。しかし、普段、スーツ姿で着衣入浴を楽しんだ後は、こうして脱水して室内で乾かしておき、乾いたら、アイロンで皺をほどほどに整えてからクリーニングに出している。絵里子にとってはルーティンワークであった。
 
 髪の毛からはまだ水がポタポタと滴り落ちていたのでタオルで軽く押さえて水分を吸収させた。そして、バスローブを纏うと部屋に戻った。
 部屋にはいるとクロゼットの扉が開いていて先ほどハンガーにかけた会社の制服が目に入ってきた。おろし立ての制服だということを証明する真新しい生地特有の匂いが仄かに漂ってきた。明日、絵里子が着衣入浴するための制服だ・・・。

 管理がしっかりしていてなかなか持ち出すことさえできない会社の制服が絵里子の目の前にあるという現実。その制服を眺めていると絵里子は鼓動が激しくなってくるのを感じた。その鼓動を抑制するには、もはや制服を今着用することでしか解決できないと悟った。
 気がつくとタンスの引き出しから下着やパンストを出して体に身につけていた。そして、絵里子の手はクロゼットの濃紺の制服へとのびていった。リボン付きブラウス、タイトスカート、ベストの順にゆっくりと着ていった。そして、冬服として支給されるジャケットもその上に羽織って、しっかりとボタンをとめた。

 「今日は、ここまでだよ!」と理性で抑えようとするが、すぐさま潜在意識のもう一人の自分が「今すぐそのままお風呂に入りたいんでしょ?」と誘惑した。
 「今日は、制服着たまま寝ることにしようかしら。お風呂は明日ね。」と強く自分の心に言い聞かせた。
 ふと、濡れた髪が手に触れると、先ほど髪を濡らしたもののシャンプーやリンスをしていない事を思い出した。
 すると、もう一人の自分が「シャンプーとリンスもしないとね。良い口実が見つかったわね。」と顕在意識に呼びかけてきた。

 絵里子は濃紺の会社の制服姿のまま、再び浴室へ向かった。シャワーのレバーを回しお湯を出してちょうど良い温度に調整すると、目を静かに閉じた。そして、ゆっくりと・・・シャワーの噴き出し口を手前に向けて顔に浴びせた。
 お湯が顔から首筋をつたわって胸や背中に流れ落ちてくるのを感じた。ジャケットとベストの下のブラウスはびしょ濡れとなって、これ以上吸収できなくなったお湯が流れだし腰や太股を濡らし始めた。スカートも瞬く間にずぶ濡れとなって足下までお湯が流れ落ちてくるまでにさほど時間はかからなかった。

 シャワーを顔から頭の上へと持っていった。絵里子はまだ目をつぶったまま、シャンプーを手に取って髪を洗い始めた。すると、シャンプーの良い香りが浴室を全体を充満させた。ゆっくりと丁寧に髪を洗い、ある程度、泡を洗い流したと思ったところで目をあけた。
 視線をおろすと、びしょ濡れとなったジャケットやタイトスカートには所々泡がついていた。すぐさまシャワーをかけて洗い流した。そして、からだ全体、つまりは、制服全体にもシャワーをかけていった。

 ここからが絵里子にとって、着衣入浴の本番だ。シャワーを浴びている絵里子の横では蛇口からバスタブの中に再び勢いよくお湯が注がれているのであった。 (完)

2010年1月10日 (日)

あこがれの着衣入浴(2)

 絵里子は通勤で着用していたオーソドックスなスーツ姿で帰宅した。会社で地味な濃紺の制服を常時着ているので通勤時はパステルカラーの明るめのスーツを意識的に着ることにしているのだった。今日はブランドもののベージュのタイトスカートスーツ。

 バッグとは別に、絵里子が持っている手提げの袋の中には新品の会社の制服一式が入っていた。
 絵里子の会社では、制服の持ち出しは禁止であり、クリーニングも会社が請け負う徹底ぶりで制服の外部への持ち出しは本来なら不可能である。しかし、絵里子の悪知恵により数ヶ月かけてようやく持ち出すことに成功したのであった。

 部屋に入り、テーブルの上に制服をビニール袋から出して広げてみた。ジャケット、ベスト、タイトスカート、ブラウス、付けリボンと普段会社で着ている見慣れた濃紺制服が目の前にあった。制服からは布地の匂いが漂ってきて、そのことが真新しい制服であることをあらわしていた。絵里子はこの制服を着たままお風呂に入ることがたまらなく楽しみであった。
 しかし、いざ新品の制服を目の前にしていると、ちょっと躊躇する気持ちが芽生えてきた。今日のところはとりあえず、保管しておくことにした。気持ちを改めて明日にでも・・・と思い、丁寧に制服をハンガーにかけてクローゼットにしまった。

 そして、絵里子は、お風呂場に向かった。週末や、ストレスがたまっているときなどに、絵里子は仕事から帰宅するなりカバンや荷物を置くと、着替えずに通勤に着ていたスーツのままお風呂に入る。
 今日は、本来なら「会社の制服」に着替えて着衣入浴を楽しむという予定だったが、ちょっとした気持ちの変化で予定変更だ。今着ているベージュのスーツで入浴することにした。

 バスタブには勢いよく蛇口からお湯が噴出している。お湯を貯めている間、スーツの中に小物が入っていないかチェックし、何も無いことを確認すると時計をはずして洗面台の上に置いた。
 そして、朝出社する時のように、髪をとかしスーツやブラウスの襟を整え、メイクをしなおした。濡れてもいい恰好や、身だしなみを崩した状態ではなく、このまま外出してもおかしくない綺麗な状態で着衣入浴するのが絵里子の流儀であった。

 「身支度」をしている内に、お湯がバスタブの半分ほどのかさまでたまっていた。半身浴をする絵里子には、これでちょうど良かった。蛇口を閉め、足をバスタブの中に入れると、膝よりちょっと下で、かろうじてふくらはぎが隠れる程度であった。

 そして、いつものようにためらいもなくスーツ姿のままお尻をバスタブの底につけた。タイトスカートには一気にお湯が入り込んできた。一瞬にしてびしょ濡れとなった。ジャケットはお腹の辺りまでお湯の中に浸かっていて、濡れている箇所とそうでない箇所のジャケットの色が明らかに違って見えた。
 しばらく、そのままの体勢を維持しながらお湯を手で掬って肩や胸にかけて、ジャケット全体を濡らしていった。ジャケットが濡れていくにつれて、その重さと収縮力で絵里子の体は徐々に引き締められていき拘束感を感じていた。その感覚も、絵里子が着衣入浴を好む理由の一つであった。


 体が温まってくると、絵里子はバスタブから出てぬるめのお湯のシャワーを頭から浴び髪を洗い始めた。
 頭のてっぺんからセミロングの黒髪の毛先までくまなく濡れていくのには、それほど時間がかからなかった。あっという間に全身ずぶ濡れの姿となった。まるで大雨の中をかさも差さずに歩いていたかのようである。

 お風呂からあがる前の最後に、もう一度バスタブに浸かるのが絵里子の習慣だ。後先のことを考えずに、その時の欲求にまかせるのが着衣入浴の醍醐味であることを絵里子は経験的に知っている。
 バスタブの中に入ると、ジャケット、スカート、ブラウス、パンスト、下着・・・・と順番に脱いでいった。そして、お湯をつぎ足しながら入浴をしばらく堪能した。気が付くと絵里子の周りの水面にはスカートやブラウス、下着などがぷかぷかと浮かんでいた。 ~(3)へ続く~

2009年12月28日 (月)

あこがれの着衣入浴(1)

 絵里子の会社でもようやく仕事納めだ。白の長袖リボンブラウスに半袖の濃紺ベストに濃紺タイトスカートという会社の制服姿で、いつものように朝礼に臨んだ。有名デザイナーが制作した制服とのことで、精練された印象を与えてくれる上品なデザインの制服だ。
 冬制服なのでジャケットもあるが、社内は暖房が効いていて暖かいのでベストだけで十分であった。ジャケットはお昼休みに外出するときに着用する程度だ。

 今日は、年内の最後の出勤日で仕事らしい仕事はなく、社員総出でフロアの大掃除とのことだ。各自、机やロッカーの中を綺麗に片づけておくようにと上司から指示があった。
 年明け早々に心機一転、フロアの模様替えが大規模になされるとのことで、ロッカーの中と机の中は本日中に空っぽにしておくようにとのことだった。私物で持ち帰れるものは持ち帰り、仕事で必要なものなどは自分の名前のラベルを貼ったダンボールに詰めて階下にある物置に保管することとなった。

 絵里子や同僚達も一斉に整理をはじめた。机の上や引き出しの中は仕事で必要な書類や文具類ばかりなのでダンボールに詰め込むだけだったのですぐに整理することができた。次はロッカーだ。意外と色々なものが入っていて、その選別やらに時間がかかる。
 絵里子はロッカーの奥の方にダンボールを見つけた。ふと夏の記憶が甦ってきた。中に入っているのはビニール袋に包まれている会社の冬制服一式のはずだ。今着ているとのまったく同じ制服。
 そう、絵里子は、制服の「紛失」届けを出したのであった。もちろん、実際には紛失などしておらず、「紛失したことにした制服」がダンボールの中に入っているのであった。

 なぜ、絵里子はそんなことをしたのか・・・。

 絵里子の会社はご丁寧に、制服を夏は1週間ごとに、冬は2週間ごとに回収しクリーニングをして週明けには綺麗な状態で返却してくれる。普通なら便利でこの上ないサービスだ。
 しかし、着衣入浴が趣味の絵里子にとって、このシステムはありがたくなかった。社外に制服を持ち出すことは不可能と感じていたからだ。絵里子は、なんとかして「自由になる」会社の制服が欲しかった。この会社の制服のまま着衣入浴したいという願望を実現させるための行動であった。

 「紛失」したことにして1式制服をせしめたまではよかった。その後、人の目につかないように慎重に制服を持ち出すタイミングを伺っていたが、なかなか持ち出すことができないでいた。そうしているうちに、ロッカーの奥に隠してあるという記憶が薄れていったのだった。しかし、今となって目の前にある制服一式のことを思い出した。
 絵里子はまず、ロッカーからダンボールを取り出した。しかし、みんながいる今は、うかつにダンボールをあけることはできない。開けずにそのままの状態で階下の物置に持っていき、そこで誰にも見られないように何か袋に詰めて戻ってこようと思った。

 このことは、みんながお昼ごはんに出かける隙を見計らって実行に移した。物置にダンボールごと持っていって中からビニール袋に包まれた「制服一式」を取り出して、速やかに自分のバッグの中に押し込んだ。
 ダンボールの中には他に何も入っていなかった。物置の中には他にも空になったダンボールが散乱していたので絵里子はそこに置いていくことにした。
 そして制服を入れた自分のバッグを持って部屋に戻り、ロッカーの中に大事にしまったのであった。念願の制服を手に入れた絵里子は天にも昇るような気分であった。頭では早くも、この制服姿で着衣入浴することを考えているのであった・・・。 ~(2)へ続く~

2009年12月13日 (日)

雨の中の散歩(5) 【最終章】

 2日間にわたる新入社員の屋外研修がようやく終わった。
 研修所で解散となり、各自帰宅することとなった。絵里子も茜も昨日はスーツのまま川には行ってびしょ濡れになってしまったが、今は2人とも2着目のスーツを着用している。絵里子は大学時代から着ている黒のリクルートスーツ。茜も同じく大学時代から着用しているリクルートスーツであったが、色は濃紺だ。

 解散となった後の研修所のエントランスにはスーツ姿の新入社員が大勢立ち止まっている。まだ午後3時過ぎであった事もあり、これから都内に出て飲み屋にいこうなどと話している者が多いようだ。そういった男子達に交じってついていく女子も数名いるようであった。

 昨日の研修でスーツ姿でびしょ濡れになって注目を浴びた絵里子と茜にも当然ことながら、多くの男子から飲みのお誘いのオファーがきたが、絵里子と茜は、男子からの誘いは全て断った。二人は一緒に帰り、途中下車して茜のお薦めであるイタリアンレストランでご飯を食べる約束をしていたからだ。

 絵里子と茜は、この研修を通じて接点を持ったが、たまたま同じ電車で最寄り駅も近い事が分かり二人の仲は急速に良くなった。車中、絵里子と茜は色々な話しをしたが、茜の興味は昨日の出来事に注がれた。

 「えりちゃんって、勇気あるよね。昨日、スーツ姿のまま池の中に入ったりして。男子もだれもあそこまではしなかったのに。」
 「茜ちゃんだって、最終的には飛び込んだじゃない。」
 「1位になりたかっったし、それに・・。」
 「それに・・・何?」
 「えりちゃん一人にあそこまでやらせちゃって悪いと思ったし、私だって査定のかかった研修で、できるだけ多くポイント稼ぎたかったのよ。いまだから言っちゃうけど、私にだって会社のため、チームのため、人のために川に飛び込む事くらい出来るってところを見せたかったし。」
 「茜ちゃん真面目だね。」
 「それは、先に飛び込んだえりちゃんのほうがもっと・・・」
 「違うの・・・。査定がかかった研修だったからというのもあるけど、私が飛び込んだのにはもう一つ理由があって・・・でも今は言えないわ。」
 茜は釈然としなかったが、敢えてそれ以上は絵里子に詰問しなかった。

 ふと気が付くと目的の駅を通り過ぎてしまっていた。次の駅で降りて逆方向の電車に乗り換えることにした。駅で電車を待っているときに空を眺めるとまだ午後3時だと言うのに空は雲で薄暗くなっていた。
 10分ほどすると逆方向の電車が来たので、それに乗って本来降りるべきだった駅で下車して茜おすすめのイタリアンレストランへと歩いて向かった。駅から12、3分という中途半端な所ということだ。国道沿いとの事なので普通は車で行くようなところなのだろう。

 歩いて5、6分すると顔や手に冷たいものを感じた。雨だった。ポツポツとまだ小雨でたいした事がないが空模様を見るかぎりもっと降ってきそうな様子であるのは誰の目にも一目瞭然だった。
 「茜ちゃんは、傘持ってるの?」
 「私、持ってないの。えりちゃん悪いけど一緒に入れてくれる?」
 「・・・あの・・・実は、私も持ってないのよ・・・。」
 「えっ、えりちゃんも持ってないの? じゃあ走りましょう。走れば2,3分で着くからそんなに濡れなくても済むわ。」
 絵里子はそんな茜の会話のトーンに今までとは違うものを感じた。

 茜が道を扇動する形で絵里子の前を走った。雨足はわずかの間で信じられないほど強くなってきた。走りながら2人とも髪の毛やジャケットの肩部分がびしょ濡れとなった。頬から首を伝わってブラウスの襟も濡れ始めてきた。
 けっこう走るのかと思ったら意外にも2分程度でお店に到着した。お店に入りようやく雨から逃れることができた。2人ともお店の入り口の待合室のようなところで髪やスーツの濡れた部分を拭くためにキャリーバッグからタオルを取り出した。
 
 2人とも昨日池に入ってずぶ濡れとなったスーツがビニール袋に包まれて入っていた。お互い相手のキャリーバッグの中を無意識のうちにチラッと見た。
 すると、お互いのスーツケースの中に「折りたたみ式傘」が入っているのを確認した。 絵里子も茜も、相手の視線を感じ心の中で全く同じことを思った。
 「・・・(傘持ってるの見られた! でも、なんでさっきは傘を持ってない、なんて私に言ったんだろう。)」

 食事中もお互い、「傘」のことが気になっていまいち会話が弾まなかった。絵里子は全てを察知して、茜に言った。

 「茜ちゃん、今日この後、私の家に遊びに来ない? ここからだと歩いて1時間半くらい。さっきのでスーツけっこう濡れちゃったし、どうせなら思い切って雨の中、全身びしょ濡れになりながら散歩してみない?」 
 「えりちゃん・・・」 
 「私けっこうスーツ持ってるし、もし明日会社に着ていくスーツの替え持ってないようだったら貸してあげるから。」
 「それはいいんだけど・・・えりちゃんって・・・」
 「何?」
 「さっき、電車の中で、昨日研修中に川に飛び込んだ理由がもう一つあるって言ってたでしょ?」
 「・・・。」
 「その理由、私、分かったかも。たぶん、私も同じ理由よ。そうなんでしょ?」
 「茜ちゃん・・・。」
 「えりちゃん、昨日、池の中に入った時、気持ちよかったんでしょ?」
 「・・・うん。茜ちゃんもなのね。」

 2人にはこれ以上、相手のことを確認し合う言葉は必要無かった。
 店を出て、傘も差さずに雨が降りしきる中、国道沿いをキャリーバッグを手で引きながら歩き続けた。雨でリクルートスーツのジャケットやタイトスカートはもちろんインナーのブラウスや下着までもびしょ濡れになっていった。髪の毛もまるでシャワーでも浴びたかのような状態だ。
 
 途中、公園があり噴水広場があった、雨だからだろうか、人は誰もいなかった。絵里子と茜の貸し切りだ。二人は心行くまで噴水の水を頭から浴び、水を掛け合った。
 そして、膝かさまで水がたまった人口池の中で、レスリングみたいな事をしてお互い相手を押し倒そうと躍起になった。膝まで水に浸かっていては思うような体勢を維持できず、二人は同時に側面から池の中に倒れ込んだ。そして二人は微笑んでお互いの顔をみながら、池の中でうつ伏せになったり、四つん這いになったりした。

 しばらくすると、さすがに飽きてきた。
 二人とも就職活動のときに着ていたリクルートスーツをずぶ濡れにし、髪の毛やタイトスカートの裾から水滴を垂らしながら、雨の中の散歩を再開した。 (完)

2009年12月 5日 (土)

雨の中の散歩(4)

 「・・・・えっ、たしかにそうだけど。でも・・・」
 と、
絵里子のアイデアを聞いた仲間の反応は、いまいちだった。絵里子にとってはグッドアイデアでも、他の人にとっては必ずしもそうではなかったらしい。
社員研修1   道具になりそうなものを探しても見つかるわけがない。ぐだぐだ考えている暇があったら、確実に水が溜まるんだから、もっと良いアイデアが思いつくまでは、まずは自分の案をみんなで実践すればいいのにと絵里子は内心思った。躊躇するグループの仲間を後目に絵里子の視線は敷地内を流れる川の方に注がれていた。

 「希望配属先が左右する研修だし・・・、私、おもいきってやっちゃいます。」とグループの仲間に言うなり、パンプスを履いたまま小川の中に入っていった。絵里子と同じグループのメンバーはもちろんのこと、近くにいた他グループの人達の目が一斉に集まった。

社員研修2  絵里子は、スーツ姿のまま小川の中に入っていった。手で水を掬ってみたが、やはりたいした量の水を蓄えられないということを確認すると、絵里子は左右のパンプスを脱ぎ、その中を水でいっぱいに満たした。そして、バケツのある所に戻って水を注いだ。たった1回では、たいして貯まらない。みんなの協力が必要だと感じた。
 絵里子の行動をみた他チームの男子達は躊躇しながらも靴を脱いでそれに水をためる行動に出はじめた。少し遅れて絵里子と同じグループの新入男子社員も勇気を出して行動に移してくれた。しかし、全グループ見回しても女子で行動しているのは絵里子だけだった。したがって絵里子のグループが数的に優位に思えたが、他のグループには体格と体力に優っている男子社員が大勢いて絵里子グループの仕事量を軽く上回るペースで水をためていっ
た。

 「まずい!」と絵里子は
感じた。
 絵里子は自分が思いついたアイデアを真似されて自分のグループが負けるなんて絶対に嫌だと思った。そこで、絵里子は「奥の手」を使うことにした。
 川に入るなり「バシャッ」と飛び込んだ。そして、できるだけ全身濡れるように川面の下に体を入れた。近くにいて絵里子の行動をみた講師も予想外の行動だったようで、一瞬驚いた表情をしていた。しかし、「あっぱれな女子社員ですね。がんばって下さいね!」と一言声をかけると、すぐさま別の場所へと歩いていった。

社員研修3  川の中に10秒程度浸かっていた。スーツに水をしみこませるためだ。おろし立てのスーツであるせいもあって、撥水効果が効いていて水がしみ込みにくかった。しかし、毛100%素材のやや薄手のさらっとした布地のスーツなので思いのほか水をたっぷりと吸収してくれた。
 川から出て、パンプスにも水を満たすと駆け足でバケツのところまで行き、ずばやくパンプスの中の水を入れた。
 その後、タイトスカートやジャケットを絞って水を入れるわけだが、男子社員がいる前でスーツを脱ぐわけにはいかないと思い、着用したまま裾の方を絞って可能な限り水を絞り出す努力をした。意外と水分を含んでいるもので、あっという間に他グループとの差をつめて追い抜く勢いだ。

 さすがに男子の中にもスーツのまま川の中に入る勇気がある人はいないらしい。当然、女子達も絵里子以外で川の中に入るのはおろか、パンプスやハイヒールで水を掬う行動に出ている者はいなかった。
 しかし、再び、川の方へと向かうと同じグループのもう一人の女子社員がなんと膝の辺りまで川の中に入っていた。意を決したようだったが、絵里子は自分に付き合わせてしまったようで申し訳ない気持ちになった。

 「茜ちゃん、無理しないで。私だけでなんとか大丈夫そうだから。あっ・・・パンプス履いたままじゃない。・・・」と言い終わらないうちに、茜という絵里子と同僚の新入女子社員はストライプの入った薄いグレーのスーツのまま川の中に飛び込んだ。
 「茜ちゃん・・・・。」
 茜のスーツはクリーニングをしないでしばらく着用し続けていたのであろうか、水をはじくことなく、水に濡れたスーツはあっという間に黒く変色していった。
 「えりちゃんがそんなことして、私だけ見ていられないじゃない。えりちゃん一人だけじゃ悪いし。私も一緒よ。」とずぶ濡れになったスーツ姿で絵里子に微笑みかけた。
 そして、二人で川の中ではしゃぎ合いながらスーツに水を含ませた。そして二人ともパンプスに水を入れるとバケツのある所へと向かった。

 女二人、スーツ姿でびしょ濡れになって走っている姿は異様な光景で、男性達の注目を引き、彼らの作業効率を悪くするのにもかなり貢献したようだ。
 おかげで、絵里子のグループは「4人」全員の協力で1位となった。ただし、スーツまでびしょ濡れなのは女2人。全体を見回しても彼女ら2人以外にスーツを濡らしている者はいなかった。

 当然、その後の初日研修を絵里子と茜はびしょ濡れのスーツ姿のまま受けることとなった。しかし、あいにく絵里子が楽しめるようなシチュエーションはなかった。 ~(5)最終章へ続く~

2009年11月26日 (木)

雨の中の散歩(3)

 いよいよその日がやってきた。今日は絵里子が密かに楽しみにしていた1泊2日の課外研修初日の日だ。
 今日の研修のために先週末、デパートで大人っぽいデザインのチャコールグレーのタイトスカートスーツを1着新調した。リクルートスーツと見た目は同じようであるが、ジャケット襟のVゾーンがやや広く大人っぽいデザインとなっている。
 そのおろし立てのスーツを着用し身支度を整えると余裕を持って、研修がおこなわれる都内郊外にある会社の研修センターへと向かった。

 電車で向かう途中、先週の研修中に講師が言っていた事が頭の中で何度もこだました。

 ---「来週の月曜と火曜は、1泊2日の課外研修となります。今までは室内でマナー研修や、実務研修中心におこなってきましたが、課外研修ではリクリエーションも兼ねて自然の中で、ちょっと趣を変えた研修をおこないます。研修ですのでスーツで参加して下さい。
 内容は今はまだ伏せておきますが、研修は全て屋外でおこないます。場所と日程の都合上、雨天決行です。天候の如何に関わらず、スーツは必ず2着用意してくるようにしてください。」---

 屋外研修でありながら雨天決行という研修に絵里子は雨が降ることを期待していたが、「あいにく」の晴れ模様だ。「せっかく、スーツを新調したのに・・・」と、少しテンションが下がり気味であった。

 スーツは必ず2着用意するようにとのことだったので、就職活動のために大学時代に購入し何度か着て新入社員研修中にかなり着込んだ黒のリクルートスーツを持参した。スーツケースの中にはその黒のスーツの他にも替えの下着やブラウス、パンストにパンプスなどが入っている。その以外にも洗面用具やタオルなどが入っているが筆記用具や資料、ノートなどは一切入っていない。とにかく、今日の研修は現地で知らされることになっているが、着替え以外の持ち物は特に指定されていなかった。

 研修センターに到着し、受付を済ませると、貴重品類や携帯電話などを含め全ての持ち物を預けることになっていた。
 そして、研修中専用の社員証を渡されたのでいつものように首にさげた。念入りに防水加工が施されている以外は普段の社員証を変わらないように見えたが、よく見ると社員番号の代わりに2桁の数字が記されていた。研修中に使用するための整理番号らしかった。

 晴れた日で陽気も暖かい中、屋外でリクルートスーツに身を包んだ男女が数十名集まっている光景は異様であった。絵里子は周りを見渡すと、どうやらみんなは、研修中に着込んでいたスーツを着ているようで、おろし立てのまっさらのスーツを着ているのは絵里子一人くらいのようであった。ちょっと恥ずかしくもあったが、変な優越感にも浸っている自分がいた。

 研修開始だ。まずは男性の講師が担当のセッションらしい。2桁の番号が次々に読み上げられ男女各2名の4人の小グループに分けられていった。
 「いったい何をするんだろう・・・。」と絵里子は思った。

 研修の内容が説明される。

 ---「みなさんよろしいでしょうか? 最初の屋外研修は【水集め】です。何の道具も持っていないと思いますが、このバケツを水で満たして下さい。ただし、バケツはここに置いたままで持ち運んだりして移動させてはいけません。小川や人工池、噴水など水源は色々ありますが、どうやって水をバケツまで運んでくるか。敷地内にあるものなら何でも利用して構いません。
 今日と明日の研修結果は点数化して今までの社内研修結果にも加点します。ご存知のように10月のみなさんの希望配属先を決める上で、研修中の点数がものをいいます。この課題は1位が10点、以下1点ずつ下がっていき10位が1点となります。個人戦ではなくグループ戦ですので、他の人の足を引っ張らないようにしながら、4人で協力して知恵を絞って頑張って下さい。では、はじめてください。」---

 各チームともいきなりは動かず、話し合ってアイデアを出し合っているようだ。あるチームは早速動き出し、4人が散り散りになって何かを探しにいったようだ。缶や空き瓶などが落ちていないか探しにいったようだ。
 絵里子は「そんなことしても無駄だわ。講師だってバカじゃないんだから、水をすくえるようなものが無いように事前にチェックして、あったら撤去しているはずだわ。センター内は綺麗だし掃除だってしょっちゅうされてしっかり管理が行き届いているはず・・・」と心の中で思っていた。

 実は、絵里子は、この課題を出されてほぼ瞬時に方法を見つけだしていたが、すぐに実行するわけにはいかなかったし、その必要もないと感じていた。
 「他のチームの人は思いつかないだろうし、思いついても直ぐにはできないわ。私がその方法をやったら、他のチームにもしかしたら真似されるかもしれないから・・・・、グループのみんなの協力で一気にやる必要があるわ・・・。」と考え、グループの仲間に自分のアイデアを話し始めた。 ~(4)に続く~

2009年11月16日 (月)

雨の中の散歩(2)

 絵里子は、しばらく「遠い目」で部屋の窓から雨の降る様子を見つめていたが、ふと、我に返った。今日からまた1週間、厳しい新入社員研修が始まる。急いで会社にいく準備をした。今週は濃紺のリクルートスーツにすることに決めた。
 研修で何十回と着用した上にクリーニングにも何度も出しているのでスーツの生地はだいぶ傷んできている。ジャケットにもタイトスカートにも皺が目立つ。

 そんな濃紺リクルートスーツに身を包み、雨の中、傘を差しながら会社へと向かった。通勤中、バスや電車の中から雨が降っている様子を見ながら、「帰りまでやまないでほしい。」と心の中で願っていた・・・。

 淡々と研修をこなし、終わりの時間が近づいていた頃、講師の言葉に絵里子の胸が高鳴った。

 「来週の月曜と火曜は、1泊2日の課外研修となります。今までは室内でマナー研修や、実務研修中心におこなってきましたが、課外研修ではリクリエーションも兼ねて自然の中で、ちょっと趣を変えた研修をおこないます。研修ですのでスーツで参加して下さい。
 内容は今はまだ伏せておきますが、研修は全て屋外でおこないます。場所と日程の都合上、雨天決行です。天候の如何に関わらず、スーツは必ず2着用意してくるようにしてください。」

 「雨天決行」という言葉に絵里子は特に反応した。

 --「どんな研修なんだろう・・・。
天候に関係なくスーツを2着用意するってどういう意味だろう・・・。」--

 色々、想像したがまったくどんな内容の研修なのか思いつかなかった。内容はともかく、雨が降ったら
、スーツ姿でみんなでびしょ濡れになれると思うと、なんだか楽しくなってきた。
 そして、絵里子は来週のその研修のために奮発してスーツを新調することを即決した。手持ちの黒と濃紺のリクルートスーツは大学時代のものだし、研修でだいぶ着たのでよれよれになりつつある。研修が終わっても通勤などで着る機会もあるだろうから、この機会に1着購入しようと考えたのだ。

 ウェット好きな絵里子は、心躍らせながら帰宅の途についた。電車で自宅の最寄り駅につくとバスを使わずに歩いて帰ることにした。朝ほどではないが、雨がしとしとと降っている。絵里子は傘を差さずにゆっくり歩いてみた。周囲の人・すれ違う人達の視線を感じたが、そんなことは気にせず、自分だけの世界に入り込んでいった。
 濃紺のリクルートスーツのジャケットの肩には徐々に水滴が目立ってきた。しかし、撥水効果が薄れているため、すこし時間が経つと水滴は生地にしみ込んでいった。

 ある程度雨水を吸い込んでいくと、雨はブラウスにしみ込んでいったり、流れ落ちてジャケット全体を濡らしていった。そしてジャケットがびしょ濡れになると、今度はタイトスカートにも雨水が伝わっていった。
 小雨とはいえ、駅から自宅まで傘も差さずに2、30分も歩けば当然の事ながら頭からずぶ濡れになった。

 自宅に到着した時には、髪の毛がびっしょりと濡れ、まるでお風呂で髪を洗った後のような状態であった。当然、濃紺のリクルートスーツはずぶ濡れでジャケットもタイトスカートも濡れて水を含んだ箇所が黒っぽく変色していた。明日は、このリクルートスーツは着ていけない。乾かしてクリーニングに出さざるを得ないだろう。
 リクルートスーツで初めてびしょ濡れになる
事を経験した絵里子は、その感覚に、やみつきになりそうだと思った。早くも来週の課外研修のことに思いを馳せていた。 ~(3)に続く~

2009年11月 5日 (木)

雨の中の散歩(1)

 毎年、梅雨や台風の時期になると絵里子は、雨の中を傘もささずに歩きたくなるという不思議な感覚に陥る。雨の中、近所の公園や海岸まで散歩しながら頭のてっぺんからつま先まで着ている服まで全身びしょ濡れになると何とも言えない快感を得る。どうしてそうなるのか・・・自分でも分からないが、ただそうなるのだとしか言えない。
 
 はっきりと思い出すことは出来ないが、絵里子は中学時代か高校時代の時、学校帰りに急に夕立にあって制服姿のままずぶ濡れになってしまったことがある。
 びしょ濡れの制服姿で街を歩いて帰宅した時に周りの人にじろじろ見られた恥ずかしい思い出・・・、制服はもちろんの事、下着までも濡れてしまい、さらには濡れた制服が体にまとわりつく気持ち悪い感覚・・・当時の記憶は今でも鮮明に残っている。
 しかし、いつの日からか、服を着たまま雨に打たれてびしょ濡れになると快感を感じるようになった。

 大学を卒業し、無事希望の商社に就職することができた絵里子は新入社員となってまだ3ヶ月足らずであった。研修は10月までの半年間続き、研修期間中は制服は支給されず、自前のスーツで過ごすことになっている。まだ本社内での実務研修が主体であるが、その内に屋外研修や、泊まり込みの研修などもあるとのことだ。
 新入女子社員にも容赦ない厳しい研修は業界内でも有名らしく、半年と持たずにやめていく新入社員も多いとのこと。そうした事情もあって、会社は数年前から研修期間中には新入女子社員に制服を支給しない方針になったようだ。

 新入社員となって日が浅く、まだお金もそれほど貯まっていないため、スーツを新調するほどの余裕のある新入社員はいない。絵里子もその一人だ。
 研修には、就職活動中に着用していた黒と濃紺のリクルートスーツを交互に着回している。どちらのスーツも大学時代に数回着た程度であったので、入社した頃は新品同様であった。しかし、交互に着回しているとはいえ、さすがにほぼ毎日着ていると生地がだんだん萎えてきて、スカートのお尻やジャケッの背中が皺になりやすくなってきた。撥水効果もほとんどなくなりつつあった。

 6月のある月曜の朝、天気予報がずばり当たり、朝から雨となっていた。
 絵里子は、自宅の部屋の窓から雨の降る様子をじっと見つめていた。週末の帰宅時ならいざしらず、今日は月曜の朝だ。スーツを濡らすわけにはいかない。こうした状況が、絵里子にとってはストレスとなった。雨が降っているのに、服を着たまま雨の中を散歩できない。

 新入社員となってから、厳しい研修のストレス解消として何度か雨の中を散歩してスッキリした事はあるが、いずれも会社が休みの日で私服姿であった。リクルートスーツ姿で、雨の中を散歩したことは意外にもまだ一度も無かった。
 「スーツのまま雨に濡れると、どんな感覚になるんだろう・・・。」
 絵里子は、窓の外を眺めながら物思いにふけっていた。 
~(2)に続く~

2009年10月18日 (日)

教育実習生(最終回)・・・最後の教育実習

 絵里子はいつものように陽光で気持ちよく目を覚ました。だが、今日はいつもと違って、ちょっと寂しい気分であった。なぜならば、教育実習生活も今日が最終日であり慣れ親しんだ生徒達や学校ともお別れだからだ。この教育実習期間中に顕在化し気付かされた密かな楽しみでありストレス解消にもなっていたフェチな遊び・・・それに、妹との「秘密」の遊びとも上京し大学に戻るとできなくなるだろう。
 
 今日は実習生と生徒・先生方とのお別れの日ということで、授業は半日しか組まれておらず、送別会イベントがメインとなっている。いつものように、絵里子はグレーのスーツに着替えた。最後の日ということで、親からもらったスーツが無事のまま帰宅する自信は、今の絵里子には無かった。
 この実習期間中だけでも2回ほど泥だらけになってクリーニングに出している。1度目は、おろしたばかりの教育実習初日、2度目は、数日前に妹との秘密の遊びをしたときだ。このスーツは、おろし立ての頃の生地の張りはなく、なんとなく染みがスーツ全体についているような気もしていた。親から買ってもらったスーツで大切に着ていきたいとは思うが、この先長くは着ていく事はできないだろうと感じている。

 学校には黒のスーツと濃紺のリクルートスーツを置いてある。当然、今日で最後なので全て持ち帰ってくる事になる。いつもは更衣室で黒のスーツに着替えるのだが、うっかり着替えずにグレーのスーツのままでいた。今日が最終日ということが頭から離れず寂しさで、感傷的な気持ちに浸っていた。

 最後の実習授業を終え、生徒達から「絵里子先生、ありがとうございました!」と声をかけられると胸に熱いものを感じ目が潤んできた。心の中で、「(みんなと過ごすのもあと半日。悔いの無いように残りの時間を密度の濃いものにしたい。)」と感じた。
 昼食後は授業はなく送別会である。絵里子以外の実習生数名もスーツ姿で全校生徒の前に座っている。生徒達の歌や短い演劇などの色々な出し物を楽しく見物した。心温まるプレゼントをもらい絵里子はまた涙を流した。担当クラスの記念集合撮影を撮ったり、女子も男子も問わず生徒からツーショット写真の撮影をせがまれ、その全てに快く応じた。
 送別会イベントも終わり、クラスに戻るといよいよ本当にお別れとなった。担任の教師、生徒達も一人一人お別れの言葉を述べていった。その中に、彩香という女生徒がいた。いつだか雨の時に絵里子が傘を差しだした生徒だ。
 「絵里子先生、あの時は傘を貸してくれてありがとうございました。これ、あの時借りた傘です。今まで返すの忘れていてすみませんでした・・・。」 傘と一緒に可愛らしい薄黄色の封筒が一緒に添えられていた。

 お別れの言葉を生徒達が述べ終わると、最後に絵里子が挨拶をした。抜き打ちの防災訓練に始まった教育実習生としての生活は、短い期間であったが密度の濃い時間を生徒達と過ごすことができた。着衣水泳教室のことや放課後に女子ソフトボール部の部員達の指導を、顧問教師の下でおこなったことも良い思い出となった。高校時代以来、久しぶりのソフトボールを生徒達と楽しんだ。そういった事を思い出しながら生徒達の前で話していると、また胸が熱くなった。

 絵里子が最後の挨拶を終えると、厳しくめったに褒めてくれたことのない担任の教諭からお褒めの言葉をもらった。
 めったに人を褒めない人間からの承認は、自分を贔屓目に好意的に評価してくれる人間の賞賛よりもはるかに価値があるように思えた。そして、日直の号令により形式的には全てが終わった。

 絵里子は、職員室で忘れ物が無いように確認し帰り支度をすると、先ほど彩香という女子生徒から手渡された封筒の中身を見た。女の子らしい可愛い文字で次のような文章が書かれていた。


 ---今日で絵里子先生とお別れするのは寂しいです。部活の面倒もみていただきありがとうございました。最後に私たちソフトボール部のメンバーと一緒に少しだけプレーして下さい。---


 絵里子は荷物をまとめるとそれらを一つの大きなバックの中に詰めた。そして、女子ソフトボール部が練習を行っている裏のグラウンドに行くと風が強く吹いていた。砂埃が舞って大変だったのだろう、案の定、スプリンクラーを作動させてグラウンドには水がまかれていた。
 スプリンクラーの水の出口近辺にはどうしても水たまりができてしまう。ホームベースとファーストベース周辺には水たまりが出来ていて赤土がぬかるんでいた。部長がスプリンクラーを止めると練習開始の合図をした。風は相変わらず強く吹いているが、砂埃が舞うこと無く、落ち着いて練習に打ち込める環境になったようだ。

 今日は顧問の先生が不在で、3年生の部長が主導的に練習の指示を与えているようだ。しばらく、見納めとなるソフトボール部の練習風景を感慨深く眺めていたが、2チームに別れて紅白戦をやるときになると、部員達みんなに催促されて一方のチームに加わることになった。当然、ユニフォームなど持っていないのでグレーのスーツ姿でやることになった。

 絵里子としては、ぬかるみのできたグラウンドでプレーができる事となって願ったりの状況となったが、心の中では「あの場所」で一人心ゆくままに泥んこ遊びをしおうと思っていた。
 ここで、生徒達の前では泥だらけになったスーツ姿をさらけだしたくはないとも感じていた。プレー中は、転んだり、泥はハネが飛ばないように気を付けて守備や打席にたっていた。そのようにして、プレーに集中できていない絵里子の様子を生徒たちは当然気付いていた。しかし、スーツを汚してはいけない絵里子の立場を理解しており心配そうに眺めていた。

 回は押し迫り、9回裏2アウト2塁で絵里子の打順が回ってきた。今1点差で、絵里子が属す白組が負けている。2累ランナーと絵里子自身がホームベースを踏めばサヨナラ勝ちだ。
 遊びとはいえ、勝ちに拘りたい。そういった姿勢も部員達への置き土産として残していかねばならないと絵里子は感じていた。だから、自分が最後のバッターとなるわけにはいかない。相手チームのピッチャーの初球を見事に捉えた。風が強いせいもあり打球は意外にのび、センターオーバーだ。2塁ランナーは悠々ホームに帰り同点。絵里子はボールを捉えた瞬間、「高校時代モード」へとスイッチが入れ替わった。自分がスーツ姿であること・・・ホームベースから1塁ベースまでの間が、先ほどのスプリンクラーでぬかるみとなっていることは、もはや頭から消えていた。
 もしかしたら、ランニングホームランになるかもしれないという直感から、全力で走っていた。
 
 2塁をベースへとさしかかる時もまだセンターはボールを後追いしていてまもなく追いつこうかという状況であった。「(微妙・・・!)」と絵里子は心の中で思った。そして、走りながら、デジャブのような感覚に陥った。

 高校時代、ソフトボール部で鍛え県大会準決勝戦までいった経験のある絵里子だった。自分がホームを踏めば逆転でサヨナラになるという経験をしていたことがフラッシュバックされた。
 ・・・あの時は、雨の中の試合だった。ぬかるんだホームにヘッドスライディングをし、きわどい判定だったが、無情にも判定はアウト。そして、その一件でチームは落胆し延長戦になってすぐに相手に大量失点を許し、その裏に追いつくことができず結果的に惨敗してしまったという記憶が甦ってきた。母親に洗濯してもらったばかりの真っ白なユニフォームを着て試合に臨んだのだが、ユニフォームを泥だらけにして惨めな思いだった。

 今も状況は似ていた。2アウトで自分がホームを踏みセーフであればサヨナラ勝ちという状況。今、絵里子は久しぶりの全力疾走でダイヤモンドを駆け抜けている。3塁へ向かう途中、横目でセンター方向を見た。何の根拠もなく勘であるが、間に合いそうだ!・・・と感じていた。
 グレーのスーツ姿でぬかるんだグラウンドを走る絵里子の姿に敵味方どちらのチームのメンバーも釘付けだ。3塁ベースをまわり徐々にホームが近づいてくる。ホームベースを普通に走り抜けるだけで悠々逆転できそうに感じていた。

 しかし、3塁ベースをまわり3分の1くらい走り終えた頃、左目でかすかに白球が見えたので絵里子は焦った。「あっ!」センターは強肩の持ち主らしかった。ぐんぐんとボールがホームに伸びてくるのを感じた。
 絵里子とボールとどちらが先か・・・。絵里子の眼前には泥でぐちゃぐちゃとなったバッターボックスやホームベースが迫っていた。
 
 中学・高校と6年間慣らした体だ。体にしみついたものは体がそう簡単には忘れない。気がつくと、条件反射行動の成りの果て・・・の状態にあった。
 目の前に泥だらけのホームプレートとそこに伸びた自分の両手があった。下に目をやると粘着質の赤土のぬかるみだった。そして、スーツ越しに体全体に柔らかく生温かいものを感じた。少しの間、さっきまでの活気がなくなり静けさが周囲を包んだ。

 まもなく、白組みのメンバーが近寄ってきたが、みんな笑顔の中にも哀れみの表情も入り交じっているようだ。向こうからも紅白戦には参加せずグラウンドの脇で見学していた彩香も近づいてきた。ピッチャーである彩香は右肘に違和感があったため今日は大事をとって部活の練習は見学していたのだった。
 「ごめんなさい、絵里子先生・・・。私が誘ったばかりにこんなことになってしまって・・・」
 「彩香ちゃんのせいじゃないわよ。気にしないで。」と言い終わらないうちに、紺の襟に白の3本線の入った長袖のセーラー中間服に紺のミニプリーツスカートという制服姿の彩香は、何を思ったのか3塁ベースまで走って行った。スカートをひらひら揺らしながら走っていく後ろ姿が可愛い。
 「先生!見て!みんなも見て!」と言うなり、ホームに向かって全力で走り始めた。そして、なんとヘッドスライディングをした。みんな、唖然として彩香の方を眺めている。彩香はなぜか満面の笑みで満足げである。
 「絵里子先生、私も先生と同じ!泥だらけになっちゃいました。(笑)」
 「彩香ちゃん、なんでそんな事したの?」
 「私のせいで先生のスーツ泥だらけにしてしまったから、その罪滅ぼしにと思ったんです。それに、一度卒業前にセーラー服で泥んこの中でヘッドスライディングしたいなって思っていたんです。中学時代の思い出にと・・・。でも、先生が今日、偶然こんなになってしまって、先生の泥だらけのスーツ姿を見ていて、なぜか分かりませんが・・・勝手に体が動き出してしまって・・・。」
 と言う彩香は泥だらけになった自分のセーラー服を見て、この後どうすれば良いのかと考えているらしく、困惑の表情を見せていた。しかし、絵里子は、彩香の目が喜びに満ちている事を見逃さなかった。
 さらに、彩香がセーラー服で泥だらけになった自分の状況に対し、実は快感を味わっているという事を、
絵里子は、嗅覚的に察知した。

 絵里子は彩香という生徒の言動に自分と同じ「におい」を感じたのだ。
 今日でみんなとはお別れだが、この彩香とは、いつの日か「フェチ」という名の運命の糸に引き寄せられて、偶然どこかで再会することになろう事を直感していた。 
(完)