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カテゴリ「ウェット・ストーリー」の76件の記事 Feed

2012年3月24日 (土)

内定者対象「日帰り研修」(最終回)


 座禅の結果、女子としては横山瞳だけが滝行を行うことになり、今まさに滝に打たれる為にその場所へと足元を気にしながらゆっくりと移動している。
 水しぶきがだんだん激しくなり、彼女のリクルートスーツのあちこちにかかっている。タイトスカートは半分ほどが水没している。
瞳はスカートの左右のウエストあたりを掴んで上に持ち上げ、これ以上濡れないようにとの仕草をしている。
 絵里子は、瞳のその行動が「自らの意思に反する演技」ではないかという疑いの目で見ていた。考えてみれば、これから滝行で頭から水を浴びるのだから、スカートが濡れないようにとの行為は全く無意味なのである。

 滝の下あたりは水かさが浅くなっているようで、瞳は、ふくらはぎ位までしか水に入っていない。一旦、太腿あたりまで水に浸かったせいで、黒のリクルートスーツのタイトスカートの下半分が水を十分に吸収し色がくっきりと変わっているのが遠くからでも観察できた。

 いよいよ、瞳は滝の真下に体をいれようとした。
 すると、滝行をはじめようとする彼女の写真を撮ろうとスマホを出す者が男子を中心に大勢いた。
 みんな、なるべく近くで写真を撮ろうと、水しぶきがこないギリギリのところまで移動した。瞳までの距離は7、8メートルといったところであろうか。5、6メートルのところまでは水しぶきが届かないようであるが、その場所にいくには、水の中に入らなくてはならないので、当然とはいえ誰も行かない。

 絵里子はレンズという人工物ではなく、自分の目を通して瞳の滝行を観察しようとしている。そのために、みんなと同じくギリギリの場所まで近づいて瞳の表情をじっと見ている。
 その時、一瞬、絵里子は瞳と目が合った・・・。絵里子はハッと驚いた。絵里子のほうを見ながら微笑んだかと思うと瞳は水柱の中に姿を消した。
 「(あの微笑みは何?なぜ私と目が合ったんだろう。)」
 と絵里子は思った。

 そして、数秒すると、頭から滝の水をかぶっている瞳が現れた。今さっきまで水しぶきをかぶっただけで済んでいたリクルートスーツのジャケットやブラウスもずぶ濡れとなっている。水が冷たいからだろう、瞳の表情はこわばっている。目を閉じて、直立不動のままで水を浴び続けている。
 この季節の滝行ということで、一人1分間ずつとなっていた。30~40秒ほど経ち、残りあと半分といったところで瞳はなぜかその場で四つん這いになったまま動こうとしない。突然の出来事にみんな静まり返った。
 「大丈夫かな・・・。」
 「誰か様子を見に行った方がいいんじゃないか!」
 「えー、どうしたんだろう・・・。」
 とみんな口々に言い、心配そうに瞳の方を見ているが、誰一人として行動に移すものはいない。

 次の瞬間、バシャーンと誰かが水の中に飛び込んだ。絵里子だった。
 携帯電話を隣の人に預けるとチャコールグレーのリクルートスーツがずぶ濡れになるのを気にせず、ジャブジャブと池のなかを歩いて瞳の方へと向かっていった。瞬く間に絵里子のスカートはずぶ濡れになりジャケットにも水がとびちって濡れ跡がまだらについている。
 その行為は周りからみれば、とっさに瞳を心配しての勇気ある行動と捉えられているが、彼女の中では違っていた。
 先ほどの座禅中、心の奥底から湧き上がってきた「不思議な感覚」・・・つまり、リクルートスーツ姿でずぶ濡れになってみたいというを強い衝動を実践するには願ってもないチャンスと考えたのだった。そして、いまひとつの動機は、瞳の行動から察知した自分の推測を確かめる為でもあった。

 絵里子は、流れ落ちる滝の水を背中で受けながら四つん這いになっている瞳のもとまでいき彼女の後ろ姿を見た。ずぶ濡れになったタイトスカートにふと目をやると、後ろのスリット部分にしつけの糸が付いていた。
 「(えっ、うそ・・・もしかしておろしたてのリクルートスーツ着てたの?)」
 このことで、座禅の時に瞳に対して感じた「あること」が揺るぎない確信へと変わった。

 絵里子は彼女の顔を下から覗き込んだ。案の定、トランス状態に陥っていて、目がとろんとし、自分の世界に入り込んでいた。瞳は、今置かれている状態・感覚を楽しんでいるようだった。
 絵里子が近づいてきたことに気がつかなかったのか、瞳は急に我に返って上体を起こして顔を上げ、周りをキョロキョロと見渡し、一行の方を一瞥すると、ずぶ濡れのリクルートスーツ姿の絵里子の方に目をやった。
 向こうにいる一行は、瞳のが自ら上体を起こしたことを確認すると、安堵のため息をついた。

 瞳は、自分の表情を間近で見られて、何か変な風に絵里子に思われていないかと気まずい気持ちだった。そのことを察した絵里子の方から声をかけた。
 「横山さん、大丈夫。今、何を考えているかも、どういう気持ちで滝行をしていたかも分かってますから。実を言うと、座禅の時から感づいてましたよ。(笑)」
 「座禅の時から?」
 「滝行が決まったとき、嫌そうな表情じゃなかったし、どこか嬉しそうに見えたましたから。」
 「・・・。」
 「もしかして、服を着たまま水に濡れたりするのが趣味というか、好きなんじゃないですか?なぜか、おろしたてのリクルートスーツを着てますし、今となってはそう確信しています。」

 絵里子から発せられる言葉が全て図星のため、瞳は目を丸くし顔を火照らせた。
 「あの、この事は誰にも・・・」
 「もちろん、誰にも言いませんよ。そのかわり私の事も誰にも言わないでくださいね。二人だけの秘密ということで。」
 「えっ、どういう意味ですか・・・」
 しばらくの間の後、瞳は全てを理解した。二人にはそれ以上の言葉は必要なかった。

 「二人とも! 早くこっちに戻ってきてください。」
 二人のやりとりは水音でかき消されて向こうにいる一行には全く聞こえない。何を話しているのかと、しびれをきらした引率の人事担当者が二人を呼び寄せた。

  戻ってきた二人は全身ずぶ濡れだ。濡れたスーツが二人の体を引き締めているせいもあり、胸やお尻などのラインが一層強調されていた。ジャケットやスカートの裾からはもちろん、髪の毛からも水滴が落ち、乾いていたはずの地面があっという間に水浸しになった。
 無風とはいえ気温は3度。二人とも体が小刻みに震えている。バスタオルをもらうとそれで髪の毛をざっと拭くと肩にかけた。引率担当者は、一行に荷物を持って本堂へ通じる先ほど上がってきた階段を下っていくように指示した。

 滝行を行なった者たちは大浴場へと案内された。この大浴場は、滝行を行なった人たちが体を温めたり着替えなどをするために設けられている独立した施設のようだった。
 絵里子と瞳だけが女性専用の大浴場を独占した。二人の心は踊った。着替えなどが入ったカバンをロッカーの中に入れると、二人は無言で、ずぶ濡れとなったリクルートスーツを着たまま浴室へと入っていた。
 温かいお湯のシャワーを頭から勢い良く浴びた。乾いたリクルートスーツが濡れていく時とは異なる快感が二人を包み込んでいた。(完)

2012年3月 7日 (水)

内定者対象「日帰り研修」(3)


 「(横山さんのあの時の表情・・・、喜んでいたように見えたけど私の気のせいかしら?)」
 絵里子は彼女の表情が気になり、瞑想しながらその訳を考えていた。しかし、もっともらしい理由が思いつかない。こうなったら直接本人に聞いてみるしかない。

 「(あと一回警策でたたかれれば私も滝行を行うことになる・・・。リクルートスーツのまま滝に打たれるなんてなかなか経験できないし・・・思い切ってやっちゃおうかな。)」
 絵里子は、横山瞳と同じ運命をたどることを自らの意思で決めた。
 そして、わざと咳をして前かがみになった。たまたま喉に痰がひっかかっていたせいもあり、演技とはいえ風邪気味の人間がする咳らしい仕儀であった。部屋中に聞こえる咳の音と前かがみになっての仕草に和尚さんが気づかないはずがない。
 案の定、和尚さんは絵里子のもとへとゆっくり歩いてきた。そして、絵里子は「望み通り」警策でたたかれる「はず」であった。

 しかし、和尚さんは、絵里子に話しかけようと顔を近づけ、今の彼女が目をつぶって何の反応もなくじっとしていることを確認すると、無言で通り過ぎていってしまった。
 「(なんで?)」
 絵里子は和尚さんの行動に不意をうたれた。また数分後に先ほどと同じように咳をして体を動かしたりしたが、和尚さんが近づいて来ることはなかった。なんとかして警策でたたかれようと絵里子は焦った。
 だが、和尚さんは絵里子のことを風邪をひいているのだと思ったらしく、絵里子はその後どんなに動いても警策でたたかれることはなかった。

 間もなく、座禅の時間は終了した。
 この間、男子が数名、滝行へと向かったが、女子では先ほどの横山瞳だけであった。絵里子は彼女が今どのような状態なのか・・・、どのような事を考えているのかと思うと気になって仕方がない。
 座禅を終えた一行は引率の人事担当者に指示され、荷物を持って滝行が行われる場所へと移動した。

 座禅室の中も寒かったが、当然とはいえ外の方が寒かった。座禅室の玄関の入口には寒暖計があった。それが正確であれば、気温は3度だ。
 朝は氷点下の寒さだったのだろう、一行が滝の方へ向かう途中の舗装されていない小道の土には霜が降りていた。その霜が少しとけた所もあるせいで道はぬかるんで滑りやすくなっていた。一行は足元に注意しながらゆっくりとした足取りで進んだ。

 滝が近づくにつれて水音が大きくなってきた。本堂や座禅室から50メートルほど歩いたところに滝があり、5メートル上の岩場から3筋の水がほぼ均等に流れ落ちている。滝の下はせいぜい5、60センチ程の水かさで溜池のようになっているが、どこからか水を排出もしているため水は池からは溢れ出すことはないようだ。

 滝行をする男子3人と女子1人の計4人が、池の脇で和尚さんから何やら説明を受けている。彼らとただ一人の女性である瞳のリクルートスーツには滝からの水しぶきがかかっていた。まるで小雨の中、傘もささずに立っているかのような状態だ。
 滝は3筋流れ落ちている内、真ん中が一番水に勢いがあった。その箇所で滝行は行われるようだ。滝行を行う者は、ひとりずつ順番にその位置に移動して滝に打たれることになっているらしく、一列に並んでいる。男子3人のあとの最後が瞳という順番だ。

 滝行を行わずに済んだ一行は、遠巻きになって滝行を行う4人を哀れみの眼差しで見つめている。ただ絵里子を除いては・・・。
 絵里子は相変わらず瞳の事が気になって、ひたすら彼女の動向を観察している。不安げな他の男子3人とは違って瞳は、まるで滝行を待ち望んでいるかのような表情に絵里子には思えた。

 いよいよ滝行が始まり、1人目、2人目・・・と男子たちは、あまりの水の冷たさに絶叫した。3人目の男子が終わり瞳の番になると周囲がざわついた。
 紅一点、スタイルも良くショートカットが似合うリクルートスーツ姿の瞳が滝行をさせられるという状況に、ここにいる全員が緊張を感じていた。
 瞳は、池の脇に腰を下ろし、水しぶきで濡れて底冷えのする岩にお尻をつけて座った。そして、2、3秒の間、滝の上の方を眺め、自分が着ているリクルートスーツへと視線を向け、さらに、池底へと視線を落とすと意を決して両足を池の中にいれた。
 水はそうとう冷たいはずだが、そうした素振りを言動には出さず気丈にも水が流れ落ちてくる方へと歩いていく。

 池の水かさは徐々に深くなっていき、やがて、瞳の太腿あたりまでタイトスカートが水没している。また、水しぶきも滝の近くは激しいようで、ジャケットにはかなりの水滴が確認できる。彼女は躊躇することなく、滝の中に身を捧げた。
 絵里子は、座禅室からの瞳の一連の行動を観察し、「あること」を確信していた。

 「かわいそう・・・。」
 「大丈夫かな・・・。」
 そんな声があちらこちらから聞こえてくる。
 しかし、絵里子だけは、別の感情を抱いていた。胸をときめかせ、「秘密の歓び」を感得しているであろう瞳に嫉妬した。 ~(最終回)に続く~

2012年2月16日 (木)

内定者対象「日帰り研修」(2)


 絵里子も周りの人たちとタイミングを合わせるように横目で様子を見ながら正座をした。
 ふと目を下に落としたときに、タイトスカートの裾の位置が太もも近くまで上がっている事に気が付くと、軽くお尻を上げて両手で裾を引っ張ると、両手を膝裏の方へと動かしながら、お尻をかかとにつけて正座し直した。
 すると、今度はスカート丈が膝上のちょうどよい按配になり、ぴしっと美しいシルエットが出ている。ジャケットの胸の部分は、形良く力強く盛り上がっていた。

 まさに今から始まろうとしている30分間の座禅に耐えるため、絵里子をはじめ学生たちは心を落ち着かせようとしていた。30分という時間は、時間に追われた日常生活の中ではあっという間に過ぎ去るが、こういった時の30分は、なかなか時間が経過しないであろうことは、絵里子も経験的に察していた。
 リクルートスーツ姿の学生たちは、気合を入れ真剣な面持ちで背筋を伸ばすと、静かに目を閉じ瞑想に入る準備をした。

 部屋の中が静かになったことを確認すると、和尚さんは「始め !」と号令をかけ、樫の木でできた警策を両手に携えながらゆっくりと学生たちの前を行き来した。
 5、6分は何事もなく過ぎ去ったが、「コトッ」と何かが倒れる音がした。絵里子の斜め前に座っている女子学生のカバンが倒れた音だった。カバンの持ち主は条件反射的に反応し、カバンを立て直した。その行為を和尚さんが見逃すはずはない。その女子学生の後ろに移動すると、警策を右の肩に軽く触れ、今からたたくという無言の合図を送ると、「ピシッ!」という音が部屋じゅうに響きわたった。

 この出来事で一部の者たちの緊張の糸が切れだしたのか、連鎖的に警策で肩をたたかれ、早くも滝行にリーチがかかってしまう者が出始めた。
 しかし、それは男子ばかりで、女子は最初にたたかれた女子学生以外には、まだ誰もたたかれていない。そのことは、男子と女子が部屋の真ん中にある大柱を境に左右に分れて座っているから目を閉じていても分かった。

 みんな自分が座っているスペースの脇にはカバンが置いてある。その中には着替えの服が入っているのだが、今となってはその理由をここにいるすべての者が理解していた。
 実は、今日の研修のために着替え一式を持ってくるように指示されていたのである。絵里子は着替えとして、就職活動に着用していたもう1着のスーツである2つボタンの黒のリクルートスーツをカバンの中にしまってあった。
 着替えの服については会社から細かい指示がなかったので、私服でも良いのかもしれないが、入社前の研修ということもあり無難にリクルートスーツにしたのだった。
 まさかこんな研修になるとは思ってもいなかった絵里子は、先ほど境内の階段で見たびしょ濡れのリクルートスーツ姿の男女を思い出すと、
 「(こんな寒さの中、滝の水を頭から受けたら・・・。水がすごく冷たいのは当たり前だけど、リクルートスーツのまま濡れてしまうと、どんな気持ちになるんだろう・・・。)」
 と、不思議な感覚が心の奥底から湧き上がってきた。

 一瞬、意識が遠のいたかと思うと、「ピシッ!」という音と右肩の痛みで我にかえった。
 絵里子が警策でたたかれた音が今までよりも高かったせいで、近くの数人が反応し体がわずかに動いた。その中に女子は2、3名いたが、先ほど先陣を切ってたたかれた女子学生もいた。警策でたたかれるのが2回目の者は、残りの座禅時間を待たずして滝行が行われる場所に移動させられるようだ。
 「横山瞳さん、荷物を持ってこちらへ来てください。」
 と、引率の人事担当者が呼ぶと、彼女は着替えの入ったカバンを持って立ち上がった。

 絵里子は薄目でその時の彼女の表情をうかがった。すると、嫌がっているはずの彼女の口元がなぜか笑っていた。彼女の意外な表情に驚き、二度見し、その表情をもう一度確認すると再びしっかりと目を閉じた。
 最初に警策でたたかれたのも滝行が決定したのも、この横山瞳というショートカットが似合う娘だった。彼女が着用している黒のリクルートスーツは、体にぴったりフィットしジャケットのウエスト部分が綺麗に絞られていてスタイルの良さがわかる美しいラインだ。スーツの生地も仕立ても良く、見るからに高価そうだ。

 「(横山さんっていうんだ。あんな高そうなスーツを着たまま滝行するなんて・・・かわいそう・・・。)」
 と、絵里子は同情すると同時に、彼女が滝行する羽目になった原因を作ったのは私だと責任も感じた。それに、何ともしっくりこないのは、彼女の表情だった。斜め後ろからだからはっきりとは分からなかったものの、彼女は喜んでいるかのように見えた。
 その理由が絵里子の頭の中からどうしても離れずにいた。 ~(3)に続く~

2012年1月26日 (木)

内定者対象「日帰り研修」(1)


 ここは都内からバスで数時間あまりの関東北部の高原にある小さなお寺。
 今、まさに、前年内定を決め、4月から入社予定の学生たちを対象とした新年恒例の「日帰り研修」が始まろうとしていた。

 某財閥系の商社では、毎年、新年早々に内定者を呼び出し、社会人の心構えやマナーはもちろんのこと、精神と体を鍛えあげる為にイベントとして「冬期研修」を開催している。

 バスは境内の入口で、絵里子たちをおろした。リクルートスーツに身を包んだ一団が不安げな表情であたりを見回しながら立っている。
 境内から本堂へと続く長い階段の上からざわざわと声が聞こえてえきた。すると、リクルートスーツ姿の男女たちがただならぬ様子で階段を降りてきた。
 遠くからでは分からなかったが、近くに彼ら彼女らが来ると、頭のてっぺんから靴まで全身びしょ濡れになっている者とそうでない者がいることに気がついた。
 タイトスカートやジャケットの裾から水が滴り落ちている女子も何人かおり、彼女たちは寒さに震えながら荷物の入ったカバンを持ってどこかに向かっている。その光景を絵里子は驚きの眼差しで眺めていた。

 ここのお寺は、さほど広くないからだろうか、この「日帰り研修」は内定者を先発組と後発組の2グループに分けて行われる。今、目撃したのは、先発組として参加していた者たちだ。
 絵里子を含む後発組の参加者たち一行は、言葉を失い、その一団の後ろ姿をただ呆然と見ている。

 絵里子は、就職活動中に使用していたチャコールグレーのリクルートスーツを着用している。
 今日の為にクリーニングしたばかりで綺麗だ。まだ入社前のイベントということもあり、髪型は敢えてリクルートスタイルで髪を後ろで結いてすっきりした印象だ。スタイル抜群の絵里子は良くスーツが似合っている。ジャケットから顔を覗かせているスキッパーブラウスの襟が初々しく白く輝いて見える。
 それだけに、移動のバスの中でついたタイトスカートの座りじわとジャケットの背中についたシワが、絵里子の端正な表情と綺麗に着こなされたリクルートスーツ姿の秩序を乱していた。

 引率の人事担当者が先導し、階段をのぼって本堂へと向かうよう号令をかけた。 内定者たちは、まだお互いのことを知らないが、びしょ濡れのリクルートスーツ姿の仲間を目撃した衝撃を隠しきれず、そのことについて話しながら階段をゆっくりとのぼり始めた。
 階段をのぼりきると目の前には本堂があり、和尚さんが入口で待っていた。これから座禅をやるのだ。本堂広間の横にあるのが座禅室らしく、一人ずつその部屋に通されていく。黒系統の無彩色のリクルートスーツ姿の集団で部屋は埋まっていった。

 座禅室の中に全員が入り終わると、間もなく和尚さんが自己紹介をし、座禅の説明をし始めた。
 「座禅の経験がある方も無い方もいるかと思いますが、30分間、呼吸の動き以外は微動だにせず、無心になって神経を集中させ瞑想に耽ってください。背骨を真っ直ぐ上に伸ばして、丹田を突き出すようにし腰骨を伸ばしてください。そして、呼吸の整え方ですが、口を閉じ鼻から息を吸って、丹田まで行き渡るくらい吸って・・・」

 一通りの説明が終わると、引率の人事担当者から補足説明があった。
 「この座禅会は、精神と体を鍛える目的のために会社主催でおこなっているものです。当然、座禅の最中に、集中力散漫と判断できる者や動いた者がいたら、和尚さんに「バシ!」と叩いてもらいますから気合を入れて臨んでください。1度は見逃しますが、2度以上叩かれた者には、この寒さの中、滝行で心身ともにさらに鍛錬してもらうことになります。男女平等ですので女性にも容赦しません。」

 ただでさえ静かな座禅室が、髪の毛が床に落ちる音が聞こえそうなくらいの静寂につつまれた。
 男性は胡座を組み、女性は正座をし、心を落ち着かせ座禅の準備に取り掛かかり始めていた。 ~(2)に続く~

2011年7月11日 (月)

雨の中のグラウンドで…(2)


                               雨の中のグラウンドで・・・(1)を読む
 
 今日の面接のためにクリーニングしたばかりだからか、リクルートスーツは雨をはじいて水滴となって生地についている。
 しかし、長時間雨の中で濡れたままだと、さすがに撥水効果がなくなりびしょ濡れとなってしまう。リクルートスーツを濡らすわけにはいかないと思い、絵里子は部室に戻ろうと腰を上げようとした。
 いまさっきまで筋トレをし始めたばかりの部員たちは、足早に部室や雨宿りができる大木の下へと小走りで移動していた。

  絵里子は、ふとグラウンドを見ると驚きの光景を目にする。
 「(えっ・・・。うそでしょ!)」
 ライバルである1年生の幸恵だけが、この雨の中、上下白の練習用ユニフォームを泥だらけにしながらグラウンドで、筋トレを続けていた。泥でユニフォームを汚すことが、頑張っていることの証であるかのごとく淡々と打ち込んでいた。

DM6br (1)  絵里子は、その光景を何とも言えない思いでベンチに座りながら眺めていた。
 雨が次第に強くなり始め、スーツの生地に雨がしみこんで濡れていくのを感じ、部室に早く移動しなくてはと思った。
 しかし、幸恵の行動が、自分に対する挑戦状、もしくは、自分のレギュラーポジションを奪いとろうとする強い意志にも感じ取れ、なぜか、その場を離れられずにいた。容赦なく雨はリクルートスーツを濡らし続ける。

 「おーい! 絵里子。幸恵。なにやってるんだ。雨が強くなってきたから一旦あがれ!」
DM6br (2)  その顧問の先生の声を振り切るかのように、絵里子は、立ち上がると部室とは反対方向に歩き出した。そして、幸恵から一定の距離を置いたところに立つと、ずぶ濡れのリクルートスーツ姿を見下ろし、意を決したかのようにぬかるんだグラウンドに手をついた。
 その様子を見た幸恵は一瞬、驚きの表情をうかべた。先輩である絵里子の行動に並々ならぬ根性を感じ取ったはずだ。

 雨でぬかるんだグラウンドでパンプスを履いている絵里子は、腕立てを始めようとするが、一回目で滑ってしまいグラウンドにうつ伏せになってしまう。スーツ越しに地面から冷たいものを感じた。そして、背中には強い雨が打ち付ける。
 スーツが汚れるのを気にしていないことを幸恵に見せつけるかのように、何度も腕立てをしては、休む時は、わざとうつ伏して肩で息をした。

 腕立ての1セット目が終わると立ち上がり、次の腹筋へと移ろうとした。その時、リクルートスーツの前面が目に入ったが、思いのほか汚れていなかったので、少しだけほっとする。
 お尻を地面につけて座り、腹筋に取り組み始めた。背中が地面につくたびに泥水がピシャという音を立てた。
 雨が強くなり、しばらく雨にさらされていると泥汚れが洗い流されるほどになってきた。

DM6br(3)  腹筋の次は背筋だ。うつ伏せとなって顎を上に可能な限りあげようとするが、スーツを着ているせいもあり、思うように上がらない。形だけの背筋になってしまう。しかし、幸恵の手前、自分だって雨の中がんばっていることをアピールしたい気持ちだった。
 うつ伏せとなった時に、リクルートスーツを地面にこすり付けるように少し体を動かした。それを何度か繰り返し、背筋の1セット目も終えた。
 立ち上がった時のスーツの汚れ具合は先ほど腕立て伏せをした時と比べ物にならないほど汚れてしまった。

 次はダッシュである。就職活動用のパンプスなので、ヒールは低いとはいえ走りずらい。いつもよりもかなりゆっくりと走った。
 何セットかダッシュを繰り返し終えるころには、先ほどまでクリーニング仕立てであれほど綺麗だったリクルートスーツが、全身ずぶ濡れの上に、所々、泥で汚れてしまっていた。
 「(これから、どうしよう・・・。)」 

 今となっては、絵里子は、幸恵に対する意地から、こんなことになってしまったことを後悔していた。
 しかし、今更遅かった。 開き直った絵里子は、さらに筋トレを続けた。
 ダッシュの次は、このひどい雨に打たれながらの遠距離ランニングだった・・・。 
(完)

2011年7月 3日 (日)

雨の中のグラウンドで…(1)

                                            雨の中のグラウンドで・・・(2)を読む

 梅雨のシーズンになり雨の日が多くなった。絵里子は清華女子短期大学2年、ソフトボール部のショートのレギュラーで打順は4番を任されている。
 部長でもあり下級生からの信頼も厚く、チーム勝利に向けた期待も大きくかかっていた。絵里子はその期待に応えるためにも毎日休まず練習に取り組んでいる。

 そんな不動とも思える絵里子の地位であるが、絵里子自身は1年生の幸恵をライバルとみている。彼女は数か月前に陸上部から転部してきたばかりだが、運動神経抜群でみるみる実力をつけてきていた。
 そして、彼女が絵里子のレギュラーボジションを奪うことを目論んでいることと、そのことが現実味を帯びてきていることを絵里子は感じ取っていた。絵里子としては、主将という立場でありながら1年生の幸恵にポジションを奪われるのは、どうしても避けたいと考えている。

Meeting  絵里子は幸恵以上に練習に取り組んでいるつもりであった。しかし、1年生の幸恵とはことなり、短大の2年生ともなれば就職活動と部活動やサークル活動を両立させなくてはならない。
 ファッションデザイナーを夢見る絵里子にとっては、アパレル関連メーカーから内定をもらうことと、ソフトボール部の部長の職務を全うしレギュラーの座を守ることは、どちらも大切なことであった。
 練習時間・絶対量では幸恵にかなうはずはなく不利であったが、経験と実績に基づく練習方法と効率性で何とかカバーしていた。

Dm6-br2  就職活動中の今、絵里子は面接やセミナーなどの帰りには練習グラウンドに直行し、リクルートスーツから練習用ユニフォームに着替えると1分でも無駄にしないように効率良く体力トレーニングや守備・バッティング練習に励んだ。
 今日も某企業の一次面接があり、クリーニング仕立ての黒のリクルートスーツを着たまま部室へと向かった。

 約1か月後に夏の大会をひかえ、本番前までの毎週末に、近くの四年生女子大との練習試合が組まれていた。明日は、その練習試合の1試合目であった。練習試合とはいえ、気は抜けない。
 練習試合のスターティングメンバーに選ばれるためには、普段の練習でも顧問の先生に好調をアピールしなくてはならない。

 絵里子は、いつものようにリクルートスーツをハンガーにかけて自分のロッカーの中にしまった。面接会場で長時間座っていたからであろうか、タイトスカートのお尻の部分に座り皺が目立ったが、ほかの部分やジャケットなどには皺はなく綺麗なままであった。

 いつものようにロッカーの中の右の方に入れてある練習用のユニフォームに手を伸ばした。しかし、ユニフォームが無かった。
  「(しまった!昨日、けっこう汚れちゃったから洗濯するために家に持ってかえったんだ・・・)」
 ユニフォームがないからといって、部長という立場上、練習に出ないわけにはいかない。今、脱いだばかりのブラウスに急いで袖を通すと、スカートをはきスリットがちゃんと後ろにあることを確認し、ジャケットも着こんで、なぜか髪形など身だしなみもチェックするとグラウンドに出た。

Intherain2  顧問の先生に事情を話すと、今日はベンチから後輩の練習の指導をするようにと言われた。
 さすがに、ユニフォームが無く、黒リクルートスーツ姿の絵里子は、グラウンドでの筋トレ、守備やバッティングなどの練習はできない。グラウンド脇のベンチに座りながら部員たちの練習風景をながめていた。

 しばらくすると、頭に冷たいものが落ちてくるのを感じた。雨だった。
 最初はポツリポツリと小雨であったが、だんだんと雨足が強くなってきた。気が付くとタイトスカートには雨模様がはっきりと、まばらにつき始めていた。 
~(2)へ続く~

2011年6月12日 (日)

晩夏の思い出(最終回)

 
          前回までのストーリーを読む → 晩夏の思い出(1)  晩夏の思い出(2)

 おさまる気配のない夕立。ヒロシからの連絡はまだない。
 絵里子が携帯に連絡しても電源が入っていないというアナウンスが流れるだけだ。待ちぼうけをくらっている、この間、絵里子にとっては1分が1時間に感じるほど長かった。
 そして、このままヒロシは来ないのではないか・・・、一人で寂しく帰宅することになるのか・・・という思いが募った。

 夕立は激しさを増し、屋根つきのベンチに座っていても、リクルートスーツのタイトスカートの前面は、太ももから下がびしょ濡れとなってきた。濡れたスカートの生地が肌にペタリと張り付いている感覚が絵里子は嫌だった。無意識にスカートの裾をたくし上げると、パンストに包まれた太ももがあらわとなった。

 「(もう10分だけ待ってみよう。それで来なかったら・・・)」と心を決め、ヒロシが来るのを願いながら待ったが、ヒロシは現れなかった。
 「(きっと何か急用ができたんだわ。)」 
 来れないなら来れないで、連絡がいっさい無いことに絵里子は不安をおぼえたが、このままずっとここにいてもらちがあかない。とりあえず、家に向かおうとゆっくり立ち上がった。


 ~(回想)4年前、同浜辺で~

 半袖夏服セーラー服を着た絵里子が、ヒロシに抱きかかえられている。
 「ちょっと、放してよ。」
 「えっ、濡れてもいいの?(笑)」 
 「ちがうってば!岸に戻ってということ。」 
 「だって今、放してといったろ。(笑)」
 「ヒロシってば・・・ふざけないでよ。」
 「・・・。」
 「あっ・・・。」


  ~現在、同浜辺で~

  いつしか、絵里子はベンチから離れ波打ち際へと歩いていた。ちょうど4年前の出来事を思い出していた。
 夕立は容赦なく絵里子の頭から降り注いでいる。自慢の黒髪からはもちろん、リクルートスーツのジャケットの袖やスカートの裾からも水が間断なく滴り落ちている。ずぶ濡れとなったリクルートスーツ姿で沖の方を眺めていると、一瞬、夕立が止んだかのような錯覚を感じた。

 「傘も差さずに何してるの?」
 「・・・。」

 そっと後ろを振り向くと、ヒロシが傘を差し出して微笑んでいた。
 「ヒロシ」 
 「もうスーツがびしょ濡れじゃないか。(笑)」
 「だって、傘・・・。」 
 「だったら、あそこでしばらく待ってればよかったのに。(笑)」
 「ヒロシ、約束の時間をだいぶ過ぎて遅れてるのに、連絡もないし・・・」
 「遅れてる?約束の時間より早いぞ!ほら、まだ3時前。」
 「待ち合わせ・・・3時だっけ?」
 「この前の電話でそう言ったろ。」
 「私の勘違?(笑)」
 「絵里子らしいぜ。(笑)それはともかく、スーツ姿で濡れた絵里子って思ったよりセクシーだね!もっとセクシーにしてあげるよ。」

 ヒロシは絵里子を抱き上げ、海の中に入って行った。

 「えっ、ちょっと。待ってよ・・・。」

 抵抗するそぶりを見せた絵里子だが、4年前とは違って、ヒロシの行為を素直に受け入れている。

 すでに全身ずぶ濡れとなっているために開き直っているのであろうか?
 否。4年前、セーラー服姿で海に落とされてずぶ濡れとなった時に、不思議な感覚を味わって以来、絵里子は服のまま濡れることに快感を感じるようになっていた。
 大学に入学してからも、突然雨に遭遇した際には、雨にわざと濡れることを楽しんだり、家ではその日着ていた私服のまま入浴したりシャワーを浴びたりしていた。

 今日はヒロシとの再会の日ということで、フォーマルな服で濡れたい気分だったのだ。
 折よくも、就職活動中で今日は面接日だったため、絵里子にとっては都合がよかった。面接の帰りにトイレかどこかで私服に着替えることもできたであろうが、むろん、そうはせず、リクルートスーツのまま浜辺に来たのであった。

 絵里子は4年前のあの出来事がきっかけで、自分が服のまま濡れることに快感を感じるようになった。
 たが、この4年間、ヒロシには打ち明けていなかった。変に思われるのではないかと、ちょっと恥ずかしかったからだ。
 しかし、ヒロシはそんな絵里子の内面を4年前にうすうす察知していた。そして、今の絵里子の恍惚の表情から、それは確信へと変わった。

 ヒロシはヒロシで、4年前に絵里子を海に投げ落とした時にはすでに、女性が服のままびしょ濡れになっていく姿に興奮する性質の男であった。
 まさに、今、絵里子を抱いているヒロシは至福の時を迎えていた。
 また、ヒロシに自分の内面を告白していない絵里子の方も、胸を高鳴らせながら、ヒロシ・水圧・濡れたスーツ・・・に体全体を包み込まれる瞬間を静かに待ちわびている。
 ~(最終回)おわり~

2011年1月11日 (火)

晩夏の思い出(2)

 
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 絵里子とヒロシは、ただ体を寄せ合ってベンチに座っている。ここは、誰にも邪魔されない二人だけの空間、「二人だけの指定席」であった。
 びしょ濡れとなった絵里子のセーラー服からは下着が透けてみえているが、ヒロシの手前、気にする様子はない。
 だが、潮風が強く、晩夏といえども肌寒く感じた。

 制服のままびしょ濡れになって、冷えた体をヒロシに抱かれてあたためてもらう絵里子。
 なんとも言えない胸のときめき・・・、服のまま海の中に入ってずぶ濡れになってしまったという罪悪感・・・、そして、快感ともいえる「不思議な感覚」・・・、様々な感情が入り混じっていた。

 ずぶ濡れになった二人は、しばし、無言でベンチに腰かけ休んでいた。
 沈黙を破ったのはヒロシの言葉だった。

 「俺、イギリスに行ってくる。自分の目標を達成するまでは日本には戻らない。だから、学校推薦は辞退することにしたよ。他人にどう思われようと、自分の気持ちに素直に行動しないと後で後悔しちゃいそうでさ。」
 「そう・・・。ヒロシが自分で決めたことだから、それでいいんじゃない。・・・・でも・・・・」
 「でも?」
 「私たち・・・」
 「うん、そのことだけど・・・」
 「・・・。」  


 ~現在、同浜辺で~

 あれからちょうど4年が経った。
 大学時代に入学してからこの4年間、絵里子は何人もの男性に言い寄られたりはしてきたが、いずれも当たり障りのない「友達付き合い」の域を決して超えることはなかった。
 ひたすらヒロシを信じ、今日を待っていた。むろん、裏切られる可能性があることも理解はしていた。

 数日前、ヒロシから帰国するという連絡をもらい、4年前から約束していた場所で待ち合わせることになっていた。
 
 今、絵里子は、就職活動の帰りで、
リクルートスーツに身を包み浜辺に立っている。スタイリッシュな濃紺の3つボタンシングルスーツがよく似合っている。
 遠くには「約束の場所」である屋根つきのベンチが見える。その方向へゆっくりと向かっていった。磯の香りや潮風が五感を刺激し、懐かしい思い出が走馬灯のようによみがえってきた。
 待ち合わせ時間よりも早いからだろうか、「約束の場所」には、まだヒロシは来ていなかった。しばらく物思いに耽りながら待ち続ける。

 「ザー ザー」 
 突然の音に絵里子は我に返った。音の正体は夕立だ。
 屋根があり雨をしのげる場所なので、全身びしょ濡れになることはないが、屋根以外に雨を遮るものが無い。水しぶきが絵里子の全身に降りかかっていた。傘は持っていないため、ただ、じっと座っている他になす術がない。
 ふと視線を下げると、パンプスは当然のこと、足元からタイトスカートの太腿あたりまでがずぶ濡れになっている・・・。

 約束の時間はとっくに過ぎたが、ヒロシが現れる気配はない。
 夕立の勢いは増していき、一人ぼっちの絵里子は徐々に不安に陥った。 ~(最終回)へ続く~

2010年10月12日 (火)

晩夏の思い出(1)

 

 夏が終わりを告げ衣替えをむかえようとしている頃、今だ就職先が決まらず奮闘する大学4年生の絵里子は、リクルートスーツに身を包んで一人浜辺に立っている。「あの時」の約束を果たすために・・・。
 絵里子の立っているずっと向こうには、小さな屋根が見える。「二人」でよく海を見ながら語り合った、懐かしい屋根つきのベンチだ。


 ~4年前、同浜辺で~

 白の半袖セーラー服とやや丈が短い濃紺プリーツスカートというオーソドックスな制服姿が絵里子にはよく似合っていた。
 スニーカーと白い靴下を脱ぐと、彼氏のヒロシに手をひかれながら波打ち際へゆっくりと歩み寄る。潮風が強く、セーラー服の紺色のスカーフと自慢の黒髪が風になびいている。
 絵里子はヒロシと触れていない方の手を頭にやり、髪が乱れるのを抑えようと気を取られていると、いつの間にか足は海水に浸たっていた。


 ・・・・・・・・絵里子とヒロシは大学受験を控えた高校3年生であった。学校は別々だった。共通点は部活動。絵里子は男子サッカー部のマネージャーで、ヒロシはライバル校のエースストライカーだった。
 交流試合を積み重ねるにつれ、お互い意識し合い、気が付けばいつしか付き合っていた。

 3年生最後の夏の大会が終わり、秋にさしかかろうとする頃、受験モードへと切り替わったはずであるが、受験勉強だけには集中できないでいた。
 その落ち着かなさを解消する為に二人はデートをしていた。恋が「主」で受験勉強が「従」に成り下がっていた。しかし、恋愛関係にある10代後半の男女にとっては、むしろ、自然な感情的・心的状態とも言えた。・・・・・・・・


 ヒロシはズボンの裾を上げることもなく制服が濡れるのを厭わずに絵里子の手を引っ張っていく。水のかさが一気に絵里子のひざ丈まできてしまった。
 「キャー! 冷たい~」
 絵里子は、海水が気持ちよく感じて、はしゃぎながらも、短めのスカートの裾がもう少しで水面につきそうになった。ヒロシから手を離し、スカートが濡れないように少したくし上げた。
 「絵里子。濡れてもすぐに乾くよ。気にするなって。」
 「だって私、濡れるの嫌いなんだもん。」
 「そうかよ。じゃあ、こうするしかないかな。(笑)」
 ヒロシは絵里子を両手で抱き上げた。
 「ちょっと、何すんのよ!」

 ヒロシは、さらに深みへと入って行った。ヒロシの太ももあたりまで水位がきている。絵里子は抱き上げられているため濡れずにいるが、もしここで足をつけて立ったとすると下半身は確実に水没してしまうだろう。

 「ちょっと、放してよ。」
 「えっ、濡れてもいいの?(笑)」
 「ちがうってば!岸に戻ってということ。」
 「だって今、放してといったろ。(笑)」 
 「ヒロシってば・・・ふざけないでよ。」
 「・・・。」
 「あっ・・・。」

 数秒の間の後、ヒロシは抱き上げている絵里子の唇をふさいだ。絵里子は目を閉じながら静かにそれに応じた。ヒロシはそっと手を放し、ゆっくりと絵里子の下半身を海水の中に入れていった。
 絵里子は胸のあたりまで海水に浸かっていた。海面にはプリーツスカートがひらひらと漂っていた。そして、徐々に水分を含み黒く変色していった。

 高波に襲われ、絵里子は頭から海水をかぶり、上半身もびしょ濡れとなった。夏服のセーラー服は生地が薄いせいもあり、可愛らしいピンクの花柄の下着がくっきりと透けてしまっていた。
 そのことに気づくはずもない二人は、いつまでも波に制服を洗われながら抱き合っていた。

 
 どのくらい時間が経ったのであろうか。現実空間と時間を超越した世界の中にいた。
 制服から水を滴らせながら岸に上がると、二人は靴とカバンを手に持ち、屋根つきのベンチの方に向かって行った。
 そこは、二人だけの指定席と言える場所だった・・・。 ~(2)へ続く~

2010年8月29日 (日)

真夏のリクルートスーツ(2)完結編


 オリエンテーションの帰りの途にある絵里子は、朝とは異なる道順で駅まで向かっていた。
 来春の入社後、毎日出勤で来ることになるわけだが、今はまだこの街のことを何も知らない。今日は時間もたっぷりあるので、帰りはバスを使わず、あえて知らない道をゆっくり歩きながら街のことを少しでも知ろうと考えたのであった。
 しかし、歩いてしばらくするとそのことを後悔し始めた。よりによってこんな暑い日に・・・・自分が汗かきで暑さが苦手であることを身を以て改めて感じたからだ。
 
 瞬く間にジャケットの下に来ているブラウスは汗でびしょ濡れになった。タイトスカートも汗で裏地が脚にまとわりつき絵里子は不快な気分で歩いていた。
 早くこの暑さから解放されたいと思いながら駅の方を見たが、駅ビルやデパートの建物はけっこう先であった。涼める場所にたどり着くまでまだ時間がかかりそうである。

 しめぼったくなったハンドタオルで汗を拭きながら歩き続けた。2、3分歩いただろうか。突然、緑の木々に囲まれた公園があらわれた。
 「(こんな所に公園があったんだ!)」

 絵里子はちょっと立ち寄ってみることにした。
 公園の入り口にはいくつかベンチがあり、その上を覆っている大木のおかげで日陰となっていて涼しそうであった。お年寄りが小学生くらいの自分の孫らしき子供たちとくつろいでいてのどかな光景が眼前に広がっていた。

 耳を澄ますと、向こうの方から子供たちの騒ぐ声が聞こえてきた。絵里子は気になって声のする方に行ってみた。すると、そこでは、子供たちがジャブジャブ池の中でお互い水を掛け合って水遊びをしていた。猛暑の中、水を浴びて気持ちよさそうであった。
 絵里子は、自分も池の中に入って子供たちと水遊びして水を頭からかぶりたい気分であった。しかし、自分がリクルートスーツ姿であることをすぐさま思い出した。池の中の水は意外に綺麗であった。手を伸ばし指先だけ池の中に入れてみると、水はかなり冷たかった。
 どうやらここの公園の池は循環式の水ではなく、水道水か川の水が流れ込んできているようであった。絵里子はすぐにそう察知した。

 絵里子は公園を出て、何かを期待しながら・・・水が流れてくる方へと歩いて行った。すると、意外に近くに小川があることに気が付いた。
 そして、絵里子は小川の水際へと歩み寄り、しゃがみ込むと水の中に手を入れた。今さっき公園内の池で指先で受けたのと同じような感覚であった。

 「気持ちいいですよね?」
 「(・・・?)」
 聞き覚えのある声に絵里子が後ろを振り返ると、先ほどまでオリエンテーションで一緒で携帯番号とメールアドレスを交換したばかりの幸代が立っていた。絵里子がびっくりして言葉を失っていると、彼女の方から話しかけてきた。

 「青野さん、どうしてここに?」
 「いや、あの・・・、暑いから駅の方のデパートにでも入って涼もうと思って・・・」
 「駅は反対方向・・・。」
 「はい。それは分かっているんですけど。駅の方に向かっている途中、あそこの公園が目に入って、ちょっと休もうとしたら子供たちが遊んでいる池を見つけちゃって。それで・・・」
 「近くに川があると思って探してみたら、ここにたどり着いたとか?(笑)」
 「あっ!もしかして私の後をつけて・・・?」
 「(笑)ちがいますよ。私は青野さんよりも先にここにいたのよ。それでね、暑いから一人で水遊びしちゃったんです。」 
 「水遊びって・・・あっ!」
 幸代の黒のリクルートスーツは水で濡れているように見えた。
 「もしかして、リクルートスーツのまま?」
 「うん。10月の内定式まではスーツ着ることないし。今日はこの暑さで汗びっしょりでしょ、どうせ、このスーツ、明日にでもクリーニングに出すわけだしね。それより、青野さん、一緒に水遊びしない?水が冷たくて気持ちいいよ!濡れてもすぐに乾くし大丈夫だよ。」
 「いや、私は・・・」

 一見否定しているようであるが、絵里子の内心は逆であった。
 びしょ濡れとなった幸代のリクルートスーツを見て、自分も水遊びをしたい・・・それも本来濡らしてはいけないような今の服装のまま・・・という気持ちが心の奥底から突き上げてくるのを感じていた。
 幸代は絵里子の言動と表情から、自分のフェチ趣向と同じにおいを感じ取った。
 
 幸代は絵里子の手を引いて、小川の中へと誘った。
 絵里子は何の抵抗もしなかった。いや、むしろ、幸代に促されるのを待っていたかのようであった。水際でパンプスを脱ぐと、躊躇なく小川の中へと入っていった。
 川の中に全身浸かりたい気持であったが、今日初めて会った幸代の前であまり派手にはしゃぐことはできないと思った。しかし、わざとらしく足を滑らせて転び川底にお尻をつけて座った。そして、困ったような顔をしてみせた。幸代にはすべてがわかっていた。

 「私がここに来た理由は、たぶん、青野さんと一緒よ。」
 「えっ・・・?」
 「青野さんの秘密、私知ってるのよ。あっ、心配しないで。二人だけの秘密だから。」
 
 幸代はしゃがみこんでいる絵里子を優しく後ろに倒し仰向けにした。そして、幸代も絵里子の傍らに仰向けになって寝転がった。二人とも背中とお尻、頭を浅い川底につけて何も話さず、ただ上を見上げている。
 ジャケットとブラウスは瞬く間に水を吸収し、さらには首筋の襟元から冷たい水が入り込んできていたが、二人にとっては冷たいというよりも気持ち良く感じた。

 しばらくすると二人は、手足を水面に打ち付け、ばしゃばしゃと水しぶきを豪快に上げた。その水しぶきが仰向けの二人のリクルートスーツの前面を徐々に濡らしていった。
 そして、二人は起き上がると水を手で掬って掛け合った。頭のてっぺんからつま先までずぶ濡れになりながら、まるで子供のようにはしゃいでいる。

 「(デジャブ・・・?)」
 何ともいえないこの快感・・・。二人は今の自分たちの行為にどこか懐かしさを感じた。
 そして、こんなことがまた繰り広げられるであろうことも・・・言葉には出さずとも確信し合うのであった。(完)