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カテゴリ「ウェット・ストーリー」の76件の記事 Feed

2016年7月23日 (土)

猛暑しのぎの秘策!?

 暑い日が連日続きますね。まだ7月だというのに、関東では猛暑日を記録した場所がすでに何カ所かあります。
 こんな暑さの中、リクルートスーツのジャケットを着込んで就活にいそしむ女子学生を見ると、つい目がいってしまいます。私のような「リクルートスーツ&ウェット」フェチなら、すぐに彼女らを涼しくしてあげる方法はいくらでも思いつきます。きっと、このブログをご覧になっている皆さんも同じかと思います。(笑)

Photo

 「就活女子!暑さを吹き飛ばせ!」ということで、「打ち水」ならぬ「水掛け・水かぶり」を推進してはどうかと。(笑)
 「冷水を頭からかぶる」ことで打ち水の100倍の効果があり、どこでも実践できます。自販機などミネラルウォータを手軽に入手できる現在においては、屋外であろうと場所を選びません!(笑)

 自宅であれば尚よしです。自宅で洗濯できる「ウォッシャブル」リクルートスーツがかなり普及してきたので、就活から帰宅したらそのままバスルームに直行することも可能です。
 頭から水をかぶって、シャワーを浴びれば一気に涼しくなれます。さらには、アロマ効果のある入浴剤を入れてバスタブに浸かればリラックスもできます。つまり、「涼&癒し」効果があるわけです。就活女子学生にこのようなことを手軽に実現可能にさせたのは、まさに、「ウォッシャブル」リクルートスーツのおかげなのです!

 ・・・・って、本気で言っているわけではなく、今月末か来月上旬に発表する新作のことです。(笑)
 今夏初となる新作の1シーン目は、上記のような内容を初々しい女子学生モデルさんに実践してもらいました。リリースまでもう少しお待ちください。

2016年7月15日 (金)

着衣水泳部への体験入部

 ~ プロローグ ~

 絵里子は、この春、大学に入学したものの、授業はもちろんのことアルバイトや一人暮らしの生活に慣れるのに必死で、ようやく気持ち的に余裕が出てきたのは六月になってからだった。交友関係を広め、学生生活をさらに充実させ楽しいものにしようと考え、人よりも一歩遅れてサークル探しを始めた。

 そんな時、キャンパス内の自由掲示板で、ふと絵里子の目に飛び込んできたのは、水泳部ならぬ「着衣水泳部」の新入生募集の張り紙だった。なんとも斬新で不可思議な響きを持った単語だった。これが自分の運命を変えることになろうとは絵里子は思ってもいなかった。 
 「(着衣水泳って何?聞いたことあるようなないような。面白そう・・・かも。)」
 絵里子は自分がカナヅチであることも忘れ、貼り紙に書かれている連絡先に早速電話していた。

 ~ 中略 ~

 電話を切った時、なぜか絵里子の心は弾んでいた。すでに、絵里子は今度の日曜日に実施されるという着衣水泳部の体験入部に参加する意思をかためていた。時期も時期なので、これが最後の体験入部説明会だということだった。これを逃したら、一生、着衣水泳を体験できないような気がして、何が何でも参加しなくてはという感覚に陥っていた。

 「(水着は持っていく必要ないんだよね。普段の恰好とか、コスプレとか、本来なら濡らしちゃいけない服とか・・・濡れるのを楽しむサークルだから、好きなだけ服を持ってきてくださいとか言ってたけど・・・私・・・何持って行こうかな・・・。)」

 自分が泳げないことを不安に思いつつも、服を着たまま濡れるという不思議な体験への好奇心が頭の中を支配し始めた。

 帰宅して、クローゼットを開けると、黒のスーツが目に飛び込んできた。入学式で着用したきりになっていたものだった。その隣には濃紺とライトグレーのスーツもハンガーにかかっている。これらは、塾講師のアルバイトで着用しているものだった。週4日もアルバイトをしているため、スーツは着用感があり、スカートには座りじわやテカリが目立つ。
 普段、大学の授業などに着ていったりする私服はなぜか着衣水泳で使うことに抵抗があった。スーツなら「仕事(アルバイト)着」ということで気持ちの割り切りができると考えた。

  そんなわけで、絵里子は、体験入部には、3着のスーツを持っていくことに決めた。体験入部の翌日に塾のアルバイトがあることなど、今はどうでもよかった。着衣水泳という未知の体験に思いをはせていた・・・。

  本編へ続く

2014年4月24日 (木)

就活内定の必勝儀礼!?

 絵里子は大学卒業を来春に控えた最終学年となった。卒論の準備に加えて、昨年の秋以降からは就職活動のためにエントリシートを大量に応募したり、履歴書の量産などで忙しい毎日を送っていた。
 ただ、絵里子が苦手な寒い時期が過ぎ去り、最近は春の気配を感じる暖かい日が多くなってきたのが救いであった。

 今日、絵里子はある就活セミナーに行った際、仲間から最近ネット上で話題になっている某サイトの存在を教えてもらった。
 そのサイトに書かれている「内定必勝儀礼」を実行すると希望する企業の内定をゲットできるという迷信が一部の就職女子学生の間で話題になっているとのことだ。二十代前半~三十代前半の女性をターゲットとした女性専門のファッション誌の「就活女子特集」というタイトルの記事の中でも紹介されており大きな反響となっている。

 もちろん、その「内定必勝儀礼」は「迷信」であるため、信憑性や合理性にかけているらしかった。
 しかし、この迷信を信じて実際に行動し、見事内定を勝ち取った人の喜びの声がサイト内の掲示板にたくさん書き込まれているのも事実だった。そんなことから、一部の女子学生の間では密かに話題になっていた。

 帰宅するなり、着替えもせずリクルートスーツ姿のまま机に向かった。そして、早速教えてもらったサイトにアクセスしてみた。
 「内定必勝儀礼」と大きく目立つタイトルで書かれていて、基礎編と応用編に分かれていた。どちらも淡々と説明が書かれていた。絵里子は興味を持ってまずは基礎編を読み始めた・・・。


~「内定必勝儀礼(基礎編)」~
次のことを実行すれば内定をゲット!


①この儀式には「おろしたてのリクルートスーツ一式」を購入すること。

②儀式用のリクルートスーツをを着用したまま一晩寝る。

③翌朝、起きたらリクルートスーツをハンガーにかけて1日以上おく。
※皺だらけになってしまったら霧吹きで水をかけて自然に皺をとること。
けっしてアイロンがけやクリーニングに出してはならない。


④雨の日になったらそのリクルートスーツを着用し、傘をささずにずぶ濡れになりながら、内定をもらいたい会社の本社または支社までいき自宅に戻る。
※途中で寄り道をしてはならない。
*交通機関を用いても良いが屋外を歩くときは雨に濡れたままの状態を維持すること。


⑤自宅に帰ってきたら、ずぶ濡れとなったリクルートスーツ一式を自然乾燥させてクリーニングに出す。

⑥クリーニングからリクルートスーツが戻ってきたら、必ずそのリクルートスーツ一式を着用し、内定をもらいたい会社の説明会やセミナー、面接など全ての選考に臨む。
※「内定必勝儀礼」の期間中はそのリクルートスーツ一式は絶対にクリーニングに出してはいけない。


⑦最終面接当日、帰宅後はまっすぐ浴室に行き、リクルートスーツを着用したまま入浴すること。入浴後のスーツは最終面接の連絡が来るまでクリーニングに出さずハンガーにかけて部屋の中に置いておく。

【注意】
 もし、この儀式を進行中に、他社の説明会や面接に臨むときは、この「内定必勝儀礼」で使用中のスーツ一式(ブラウスを含む)は使えない。

以上であなたは内定をゲットできるはずであるが、万一効果が無かった場合は、【応用編】を試すことをおすすめする。
 


 一読して非合理的でばかばかしい「内定必勝儀礼(基礎編)」であると絵里子は思った。
 しかし、これを実行して内定を勝ち取る人が実際にいることにより女子学生の一部の人はこの記事にひかれてしまうらしい。

 絵里子もそんな人間の一人だった。

 
雨の中、ずぶ濡れになりながら街中を歩くのは勇気がいるが、もしそれで内定がもらえるんだったら、この「内定必勝儀礼(基礎編)」に賭けてみようと絵里子は思った。

 そして、なぜか、絵里子は自分の感情をコントロールできなくなっていた。
 雨の中でびしょ濡れになるためのリクルートスーツを震える手でマウスを握りながら選んでいた。絵里子が購入しようとしているのはチャコールグレーのリクルートスーツだ。表地がイタリア製の毛で裏地がナイロンのものであった。生地は比較的薄手ですべすべした手触りのもののようだ。

 
「たとえ、これが単なる迷信で何の効力がなくても構わない・・・そんなことより・・・私。」
 
 絵里子の胸は激しく鼓動し始めていた。(完)


2014年1月 8日 (水)

マネージャー1日体験(最終回)


 

 マネージャー1日体験 (1)はこちら   (2)はこちら  (3)はこちら


 ハーフタイムの間に強くなった雨は弱まる気配はなく、このまま後半が始まってしまいそうな雰囲気だ。スーツ姿の新入生のマネージャー志望の絵里子たちはみんな不安げにグラウンドを見ている。
 後半が始まる頃になって、幸いにも雨足は若干弱まったが、それでもこんな雨の中で傘もささずにいたらすぐにずぶ濡れになってなってしまうだろう。
 そんな絵里子たちの不安を先輩マネージャー達が払拭してくれた。おりたたみ傘をマネージャー体験会に来た絵里子たち新入生に手渡してくれたのだ。
傘は絵里子たち新入生の人数分は十分に足りるほどであった。折りたたみ傘は、どうやら体験会参加者のために常備されているものらしかった。

 「私たち正部員は、遠征のときは雨でも傘をささないことになっているんだけど、みんなは気にしないで傘さしていいからね。呼ぶまでここにいてね。」
 新人監督らしきリーダーのマネージャーは、そう言うと、雨の降りしきる中、スーツが濡れてしまうのもお構いなしにベンチの方に向かって小走りでかけていき、雨で濡れているベンチに何の躊躇もなく座った。
 そのことを確認すると、後から他の先輩マネージャー達が一斉にかけて行って、後半開始のために準備をした。準備が終わると、先ほどと同じようにリーダーマネージャーの後ろに直立不動で立っている。立っているのは2年生や3年生の女子マネージャーらしい。
 ベンチに屋根が付いていれば濡れずに済むのに、ここでは雨が否応が無しにふりかかってくるため、先輩たちはすでに髪の毛からも雨が滴り、スーツはジャケットもスカートもずぶ濡れになっている。これぞまさに体育会系の女子マネージャーの姿といったところだ。

 いよいよ後半の開始のようで両チームの選手たちがグラウンドに入っていく。
 「みんな来て!」
 リーダーが絵里子たちを呼んだので、傘をさしながらベンチの方に小走りで走っていく。みんなスーツに雨がふりかかったり、泥ハネがとばないように気にしていたが、まだかなり強い雨なので、パンプスはすぐさまびしょ濡れとなり雨水が中に入っていく。
 時折、風がふくと横なぐりの雨がスーツ全体にかかってしまうほどだった。絵里子たちはスーツが濡れないように傘を傾けたりと色々工夫している。そのことばかり気を取られていて試合にあまり集中できずにいる。一方、先輩たちは、スーツ姿で雨に打たれてさらにすごい状態になっている。

 前半に取られた2点を追いかける水光大学は、後半はかなり攻撃的な布陣で相手陣内に入り込み多くのチャンスを生み出していた。
 逆転は難しくてもなんとか同点に追いつけるのではないかというくらいの勢いだった。そんなベンチの希望を叶えるかのように後半の早い時間帯で1点を返すことに成功した。
 しかし、まだまだ攻めなくてはならない。スーツ姿でずぶ濡れの先輩マネージャー達の声も大きくなっていく。絵里子たちも次第に試合の応援に熱が入っていった。
 そんな絵里子たちの願いが通じたのか、前半になかなか奪えなかったゴールが立て続けに決まり同点に追いついた。ベンチの先輩マネジャーや控え選手たちは全身ずぶ濡れの姿で喜び合っている。

 そんな先輩たちの様子を遠巻きに傘をさしながら観戦している絵里子たち新入生は、その輪の中に入ることもできず、どこかきまりが悪く感じていた。

 「私、入部することに決めた!選手もマネージャーさんたちも仲がよくて団結力あるみたいだし。そんな先輩たちと一緒にやっていきたいかも。」
 絵里子の隣に立っていた彩華がそうつぶやいた。
 「うん、私も。」
 「私も!」
 「私も決めた。」

 いつのまにか絵里子以外の4人は入部を決意したようだ。そして、顔を見合わせながら傘を折りたたんだ。その突然の行為に絵里子は驚いた。
 実は、絵里子も先輩たちの人柄や仲の良さに安心し、入部の意志をほぼかためていたが、だからといってスーツ姿のまま先輩たちと同じように雨に打たれる必要はないと思った。
 しかし、他の4人が雨に打たれながら応援しているのに、自分だけ傘をさしているのは気まずかった。もし、この光景を先輩たちに振り向かれて見られでもしたらと思うと内心焦っていた。

 絵里子はふと心の中で考えた。
 「 (入部しないならともかく、ほぼ気持ちはかたまっているんだし・・・もし、私だけ傘をさしてこのまま過ごしたとしたら、入部しずらくなっちゃう・・・。) 」
 絵里子以外の4人は、おろしたてに近いスーツに特有の撥水効果で、つい先ほどまでは雨をはじいていたはずだが、今はまるで全身水の中にしばらく浸かっていたかのような状態になっていた。絵里子も覚悟は決まった。

 「もし逆転したら、私たちも先輩たちの輪に入ろう!」
 そう言うと、絵里子は自分の運命を悟るとともに気持ちが吹っ切れ、傘をおりたたんだ。そして、他の4人と顔を合わせた。
 絵里子のチャコールグレーのスーツは、またたくまに水を吸収していき、ジャケットもスカートも黒く変色していった。

 「みんな・・・どうしたの。」
 驚いた表情でさっき絵里子たちに傘を手渡してくれたリーダーが声をかけてきた。その声に反応した他の先輩マネージャーや控えの選手たちも雨に打たれている絵里子たちの意外な行動に驚いている。
 「あっ、あの・・・」
 と彩華が何か言いかけると、すべてを理解したリーダーは絵里子たちをすぐさま手招きした。そして、絵里子たち5人を2、3年生のマネージャーたちと同じ列に並ばせた。

 そんなやり取りのあった直後であった。
 水光大学が逆転のゴールを決めた。絵里子たち新入生も先輩マネージャーも関係なく手をたたき合ったりして喜びを体現して感情を共有している。

 絵里子は大学に入学して初めて、自分が大学生らしい体験を仲間と一緒にしているんだと感じた。これぞ、まさしく青春そのものであった。

 そして、絵里子は、もう一つ誰にも言えないものも感じてしまった。それは、傘をたたんでから雨に濡れていったスーツが徐々に重くなって体を締めつけていったときの何とも言えない感触だった。
 ずっとこの状態のままだったとしたら、どんなに気持ちよいかと感じていた。裏地までずっしりと濡れたタイトスカートが太ももや脚にまとわりつくのも不快というよりは快感に絵里子には思えた。


 絵里子は、まさにこの不思議な感覚によって、心の奥底で静かに眠っていた何かが目覚めた瞬間であった。今後、マネージャー活動をしていくうえで、今日のようにスーツ姿で雨に濡れるという体験ができることを思い描いていた。(完)

 

2013年12月21日 (土)

マネージャー1日体験(3)


 マネージャー1日体験 (1)はこちら   (2)はこちら


 絵里子たち一行は、練習試合の対戦相手の大学のサッカーグラウンドに到着した。試合前の練習で使用するボールやスポーツ飲料水の入った大きめの水筒を数本運ぶ必要があるが、女子マネージャーの体験会に参加している新入生の絵里子たちは、運ばなくても良いことになっていた。
 ただし、帰りの後かたずけでボールや水筒などをバスまで運んでくるのは体験会に参加している新入生の役目である。そのことは先ほど、バスの中で先輩マネージャーから一通りの説明を受けていた。
 他には試合中も特にすることはなく、先輩マネージャー達から何かお願いをされない限りは、先輩たちの様子を見ながら試合を観戦しててもよいとのことだった。

 今日は学外での活動なので、女子マネージャーたちは部の正装とされているスーツ姿だが、普段、学内での練習の際にはジャージ姿である。
 なぜならば、女子マネージャーは忙しく走り回り、ボールなどの準備や片づけ、泥だらけになった部員の練習着やユニフォームなどを洗うのが主な役目で、他にも練習中に時計をはかったり、笛を鳴らしたり、男子部員がけがなどをした際に、救急箱をもって駆けつけて処置を施すなど意外と仕事がある。雨が降ってもずぶ濡れになって男子選手たちのためにサポートする。それが女子マネージャーの役目である。

 しかし、他大学へ出向いていく練習試合やインカレなどの試合では、これといった仕事があるわけではない。したがって、今日の体験会では、絵里子たち新入生は、試合後にボールや水筒を運ぶ程度だ。
 万一、けが人が出た場合などの処置や、スコア記録などは先輩たちがやることになっていた。絵里子たち体験会参加者には、サッカー部の雰囲気を味わってもらおうというのが趣旨のようで、具体的な仕事というかお手伝いは、これといってないのだ。


 練習試合中は特に何も必要無いので、貴重品だけもってカバンなどの持ち物はバスの中に置いておくことになっていた。
 先輩女子マネージャーはボールや水筒を手分けして持っているが、体験会に参加している4人はただ、スーツ姿で手ぶらのまま男子部員や先輩女子マネージャーたちの後をついていった。

 試合前には部員たちは軽くダッシュをしたりボール回しをして体を温めて慣らしている。いよいよ、練習試合が始まろうとしている。ボールなどを片付けることとなったが、ここからが新入生たちの役目だ。当然とはいえ、絵里子たち4人のマネージャー志願者たちはぎこちない手つきでボールを拾って網の中に入れてまとめていく。水筒はベンチに持ってきて脇に置いた。グラウンドの準備も整い、間もなく試合開始だ。

 ベンチに座れる人数には限りがあり、さすがに体験会参加者の絵里子たちは、お客さんだとはいえ座ることができず立って観戦することとなった。
 ホイッスルが鳴りキックオフだ。
 試合が始まって前半も半ばを過ぎたがほとんどの間、ボールは絵里子が属する水光大学が支配している。シュートチャンスを何度も作っているが、ゴールネットを揺らしていない。得点までは時間の問題のように誰もが感じていた。
 しかし、ちょっとした油断から相手にゴールを決められてしまう。さらに、その数分後、自陣ペナルティーエリア内でハンドがあり退場の上にPKまでも与えてしまう。そのPKを確実に決められてしまい、あっという間に2点のビハインドになってしまった。

 5分前までは優勢だったのに一気に形勢逆転で追い詰められたような感じだ。水光大学のベンチはさっきまでの活気が嘘のように静まりかえっていた。いつの間にか空が先ほどよりも濃い灰色に変わっていた。午前中だというのに暗くなってきて、それがまるで先輩たちや絵里子たち新入生の心情を表しているかのようであった。

 「あっ、雨だ!」
 先輩マネージャーがつぶやいた。
 絵里子はしばらく空を見上げていると水滴が顔にあたった。まだ小雨ともいえず、時折ポツリと水滴が落ちてくる程度だ。しかし、試合は前半もまだ10分程度残しているうえに、ハーフタイムを挟んで後半だって残っている。
 この調子では雨足が強まってきて本降りになりそうな雰囲気であった。空が異常に暗く、天気の回復の見込みがありそうにない。
 雨が降っても試合が続行だということを先輩たちから説明を受けている絵里子たち新入生たちは、入学式で新調したばかりの真新しいスーツ姿を身にまとって、不安げな表情を浮かべながらグラウンドを走り回っている選手を応援している。しかし、空模様が気になるのか、時折、空を見上げる。

 やはり、間もなくポツリポツリの状態から、しとしとと小雨状態になってきた。このレベルであれば、まだ傘をささなくてもずぶ濡れにならないで済む感じである。
 そうはいいつつも、小雨の中に10分以上もベンチの後ろで立って応援している絵里子たちはもちろんのこと、控えの選手達や先輩女子マネージャー達も雨で濡れはじめていた。ベンチには屋根などついていないのだ。
 先輩女子マネージャー達はベンチに座っているので、スーツのタイトスカートにかなり雨がかかっている。そのため、濡れた箇所が水滴となっている女子や、撥水効果がないために既に水がしみてスカートの色が変色している女子もいた。
 その点、絵里子たちは立っているので、スカートはあまり濡れていないが髪の毛やジャケットの肩の部分はけっこう濡れ始めている。


 「(何とかこのくらいでおさまっていてくれれば・・・。)」
 と絵里子は心の中で願っていた。他の新入生たちも思っていることは絵里子と同じようで、試合どころではなく自分のスーツや他の女子達のスーツを見ることで自分のスーツの濡れ具合を推測しているようであった。

 意外にも前半中は雨がこれ以上は強くならなかった。ハーフタイムの間も依然として小雨であったが、両チームの部員やマネージャー達はさすがに雨ざらしのベンチから移動し、グラウンドに隣接する建物の軒下で雨を避けた。男子たちは後半の戦略について真剣に話し合っている。
 マネージャー達はちょっと離れたところで集まって雨に濡れないようにしているが、ハーフタイムの間にけっこう雨足が強くなってきた。地面をたたきつける音が先ほどよりも強くなった。

  スーツのまま雨に濡れてびしょ濡れになって応援する経験が先輩マネージャー達には今までに何度もあったのだろうか。これから雨に濡れることをそれほど気にしていない様子で談笑している。
 後半もこの状態のままだと、まるでスーツ姿のままずっとシャワーを浴びているのと同じようになってしまい、全身ずぶ濡れで、すごいことになってしまうことは容易に想像できる。

 絵里子はじめ、新入生のマネージャー志望の4人は、入学式でおろしたばかりで、まだ綺麗なスーツのまま雨に濡れるのには抵抗があるようで、雨がやむことを祈りながらグラウンドの方に視線を向けている・・・。 (最終回)へ続く

2013年8月22日 (木)

マネージャー1日体験(2)


マネージャー1日体験(1)はこちら


  大学に入学して3回目の日曜の朝だった。理由はわからないが、絵里子はいつもの日曜日よりも早く目覚めた。30分後に鳴るはずだった目覚ましのアラームをオフにすると上体を起こした。すると、昨晩、ハンガーにかけておいたリクルートスーツ一式が目に入った。
「(そうだ、今日はサッカー部のマネージャー体験の日だったんだ。ちょっと早いけど準備しはじめなくちゃ。)」

 いつもの日曜日なら二度寝するところだが、今日はそういうわけにはいかない。体験会に参加するためにサッカー部の部室に集合するのだが、遅れず行く必要がある。
 平日、大学の授業があるときと変わらないルーティンをほぼ無意識的にこなすと、クローセットの前に立った。今日は服選びに時間はかからない。リクルートスーツを着用していくからだ。入学式の時に一度着ただけで、クリーニングに出した後にしまったままだったからほぼ新品だ。流行りのチャコールグレーの無地のシングル2ボタンスーツだった。タイトスカートの後ろベンツがやや深めだが、これがスタイルの良い絵里子をいっそうセクシーに見せている。

 慣れないスーツを着込んだら鏡で全身をチェックして出かける準備をした。スーツ姿であることは、まるで就職活動中の女子学生のようであるが、カバンはピンクっぽくいかにも10代後半の女子学生という仕儀だ。街を歩いていれば一瞥して就活生ではないことを峻別できるだろう。
 絵里子はカバンの中をチェックし、忘れ物がないことを確認すると家を後にした。

(中略)

 集合場所になっている大学敷地内のサッカー部の部室に近づくとスーツ姿の男女がすでに十数名集まっていた。男子も移動中はスーツだ。スーツ姿の女子は、先輩マネージャーか絵里子と同じ新入生のマネージャー体験会の参加者ということになる。男子と歓談している女子はおそらくは先輩マネージャーだろうと絵里子は思った。所々に間をあけて一人ポツンと立っているのが自分と同じ立場なんだろうと推察した。

 朝8時半の集合時間になると部長らしき男子と、女子マネージャーのチーフが先導し集合している人たちをまとめていった。男女合わせて総勢40人程度といったところだ。チャーターしたバスに乗り込んで目的地まで移動することになっていた。この人数ではさすがに電車や公共バスを使っての移動は混乱するだろう。
 サッカー部の女子マネージャー志望の新入生は絵里子を含めて4人だった。みんな、絵里子と同じようにリクルートスーツっぽいスーツを着ているが、おそらくは入学式で着用したものだろう。
 まだ、見た目がきれいでよれていない。それに比べて先輩のマネージャーのジャケットは背中に皺がはいっていたりしてよれている。タイトスカートには深い座り皺がいくつもあり、普段のマネージャーとしての仕事やその他の渉外活動などの忙しさを物語っていた。今の時期は、洗濯やクリーニングに出している暇もないのだろう。

 しばらくするとチャーターしたバスが到着し4年生の先輩たちから順に乗り込んでいった。新入生を指導するチーフのマネージャーに誘導されて絵里子たちマネージャー希望の新入生たちもバスに乗り込んだが、ほとんどの席は先輩たちで埋まっていて新入生たちは補助席に座ることとなった。
 絵里子の両サイドには先輩女子マネージャーや男子部員が座っている。先輩だからといって男子たちは意外にも新入生の女子マネージャー志望の絵里子たちには用事が無い限り話しかけてこなかった。まだ正式にマネージャーになったわけでもないし、気安く話しかけて印象を悪くされないように女子マネージャー達から釘をさされているらしかった。
 先輩の女子マネージャーは体験入部に参加する絵里子を含めた新入生女子マネージャー志望者とほぼ同じ程度の人数がいた。絵里子たちはマンツーマンで先輩と話しながらバスの中で退屈せずに過ごせた。出身校や授業の事などあたりさわりない話だったが、徐々にサッカー部のマネージャーの仕事や、今日の練習試合中にどのようなことをするのかなど具体的な説明をしてもらった。

 先輩マネージャーからの丁寧な説明が終わると、もうすぐ練習試合を行う相手大学のグラウンドに到着とのことだった
 窓の外をみると都心からけっこう離れているのか田畑を散見できる道を走っていた。標高はそれほどでもないがやや山間部のせいか、出発時とは空模様がかなり異なっていた。遠く向こうの方の空はグレーの雨雲らしきものが広がっていた。

 「サッカーの試合って雨でもやるんですか?」
 と絵里子はさっきまで色々説明を受けていた先輩マネージャーに聞いた。
 「うん。台風でも来ない限りやるよ。(笑)」
 即答だった。
 絵里子は一抹の不安を抱いたが、今となっては後戻りできるはずもなく、なるように身を任せるほかなかった。
 (3)へ続く

2013年5月15日 (水)

マネージャー1日体験(1)

 今春、絵里子は現役で志望大学に入学した。4月中旬から授業も始まった。徐々にアパートでの一人暮らしや大学の授業、さらには、お小遣い稼ぎで始めた居酒屋でのバイトにも慣れてきていた。

 しかし、絵里子はもう一つ物足りなさを感じていた。高校時代は吹奏楽部でフルートの演奏をしていた。それなりの腕前で周囲からも一目置かれる存在だった。
 大学に入っても吹奏楽部に入ろうかと思って見学に行ったが、高校と大学ではレベルがまったく違ううえに、いわゆる体育会系になるので活動も年中いろいろとあり体力的にも大変で、ついていけないだろうと絵里子は感じ、入部をあきらめたのであった。

 何かよいサークルみたいのが無いものかと色々と考えあぐねていたある日、キャンパス内の掲示板に、デザインは地味であるが文字の色使いがカラフルで目立つ1枚のビラに目が留まった。
 サークルではなく、大学公認の体育会の一つであるサッカー部のマネージャー(新入生)募集だった。即入部ではなく、まずは1日体験入部して判断してみませんかといった趣旨であった。
 ビラによると今週の日曜日に他大学のグラウンドに出向いて練習試合があるので、その時に同行し、先輩マネージャーの下でお手伝いをするとのことだった。

 絵里子はサッカー部のマネージャーも大変だろうけどもやりがいがありそうで楽しそうだとも思った。充実した学生生活を送るためにもやってみてもいいかなと直感的に思った。
 ビラには部室の場所も記されてあったので、いつでも訪れることは可能であった。しかし、突然部室を訪れる勇気は絵里子には無かった。新入生募集の担当者らしき人のメールアドレスが連絡先として記載されてあったので、それをメモして自宅に帰ってからマネージャー1日体験入部の申し込みをメールで送った。

 翌日になるとすぐに返事が来ていた。感謝の言葉と1日体験入部時の注意事項が記されていた。
 1日体験入部は他大学への遠征なのでスーツ着用とのことだった。たいてい、大学の体育会系の部活動では、遠征時の移動などの際、部員は正装としてスーツ着用が義務付けられているらしい。吹奏楽部の見学に行った時も同じようなことを言われた。
 特に女子マネージャーに関しては、遠征の時は移動も試合中も正装であるスーツとのことだった。したがって、待ち合わせ場所である学内のサッカー部の部室にスーツ着用で集合することになる。

 絵里子には入学式で1回着ただけのまだ真新しいスーツがあった。近い将来、就職活動をする際にリクルートスーツとしても使えるようにと量販店の店員のアドバイスで購入したものだ。オーソドックスでいかにもリクルート風のデザインであることが分かる黒に近い色合いのチャコールグレーの2つボタンスーツだ。

 当分着る機会はないだろうとクローゼットの奥の方にスーツ一式とやや襟が大きめのイタリアンカラーのブラウスをしまってあった。
 クローゼットから取り出すとタイトスカートやジャケットについていたクリーニング屋さんのタグを外し、いつでも着れる状態にしてクロゼットの手前の方にしまった。
 (2)へ続く

2013年1月15日 (火)

非日常世界へのいざない(3)・終


 (1)はこちら    (2)はこちら  


 「アクション!」

 雨が強くグラウンドを打ちつけている。そんな中、傘をさしながらリクルートスーツ姿の絵里子は、今にも泣きだしそうな悲しい表情で男と話している。
 グラウンドには水たまりができはじめ、雨足がさらに強くなった。タイトスカートやジャケットには水しぶきがかかっている。

 男は足早にその場を立ち去る。絵里子は傘を投げ捨てすぐさまその後を追いかけようとした。
 リクルートスーツには容赦なく人工雨が降り注いでいるが、NGが許されないこのシーンに集中している絵里子は、何も気にするそぶりはなく演技を続けている。リクルートスーツ姿で潜水をしたかのように頭のてっぺんからつま先までずぶ濡れだ。

 すべてのセリフが終わり、あとは泥の水たまりに足を滑らせて転んでしまうシーンの撮影だけとなった。
 絵里子は男の後を追いかけ走り出した。

 パンプスが脱げ、足がもつれるようにしながらうまい具合に泥水の中に転んだ。スカートもジャケットも底がぬかるんだ泥水に浸かっている。絵里子の視線は男の後ろ姿のほうにあるが、立ち上がって追いかける気力はない。
 脱力感に包まれ、泥水の中にお尻をつけてしゃがみこみながら男を見送ることしかできない。

 やがて絵里子はゆっくりと立ち上がる。
 リクルートスーツはタイトスカートもジャケットも真っ茶色に染まっていた。そして、ジャケットから除く純白のプラウスの襟には泥ハネがとんでいるところもあった。クリーニング仕立てで、先ほどまで一糸乱れず綺麗だったリクルートスーツ一式が台無しだ。

 雨はより一層強くなり、泥で汚れたリクルートスーツを洗い流していく。リクルートスーツ姿でずぶ濡れとなっている絵里子を数台のカメラが違ったアングルから捉えている。
 カメラは遠くに目を向けている絵里子の姿をゆっくりとクローズアップしていく。頭から勢いよく滴り落ちる雨水にゆがんだ顔をしっかりと収める。

 「はい、OK!」

 監督のヒロシの声が弾んでいた。
 絵里子の出番の撮影シーンはこれで終わりだ。
 帰宅のことを考えると、撮影用の衣装を忘れたために、リクルートスーツ姿で撮影に臨まなくてはならなかった事の代償はあまりにも大きかったが、絵里子の中では無事に撮影が終わった安堵感の方がこの瞬間はまさっていた。

 「お疲れさま。バッチリ。」
 ヒロシは、重要かつNGが許されないシーンの撮影が予想以上の出来栄えだったことに満足しているものの、リクルートスーツ姿でずぶ濡れの絵里子を目の前にすると複雑な気分だった。
 大きなタオルを差し出した。今、絵里子に対してできる精一杯のことだった。

 「よかった~。本当に大丈夫だよね?」
 うなずくヒロシを一瞥し、タオルを受け取ると絵里子は顔と髪を丹念に拭いた。次に足の汚れをざっと拭き取ると、ずぶ濡れとなって薄茶色に濁った水が滴り落ちているスカートやジャケットにタオルを押し付け水分を吸収させていった。
 いく ら吸収してもすぐに乾くわけではないが、日差しが強く暑い陽気なので、ある程度時間をおけば自然乾燥しそうだった。

 ・・・・・・雨に濡れてリクルートスーツが徐々に重たくなっていく感触と・・・、底がぬかるんだ泥水の中にうつ伏せたりしゃがみこんだ時の体の感触とリクルートスーツを汚してしまったことの罪悪感が・・・突然フラッシュバックし、不思議な感覚と快感にいざなわれた。
 何かが深層心理に働きかけ、潜在意識を顕在化しはじめた。何の束縛もない幼少期に、近所の友達と水遊びしたり泥んこ遊びした、あの悠久とも思えた楽しい感覚が深い眠りから目覚めた瞬間だった。

 気が付くと、撮影現場へ向かう時に通った河川敷の堤防を駅に向かって歩いていた。すでにリクルートスーツは乾きはじめていたが、泥汚れがしっかりと落ちていなかった部分が所々にあり、土埃が白っぽく浮き出てしまっていた。
 「(こんな汚れた状態じゃ電車に乗れないわ。)」
 堤防の上から川の方を眺めると水面がきらめいていて眩しかった。

  ・・・・・・川辺では突然、数人の小学生らしい男の子と女の子たちが水を掛け合って遊んでいる光景が出現した。むろんそれは、絵里子の昔の懐かしい記憶であった。

 徐々に心と体は、本能の赴くままに解放されていった。
 それは、自分を縛りつけていた心の鎖がほどけた瞬間でもあった。トランス状態に陥っている絵里子は、浅瀬から流れが緩やかな深みの方へとさらに足を踏み入れていった・・・。
(完)

ロイヤリティフリーの写真素材

2012年7月14日 (土)

非日常世界へのいざない(2)


 (1)はこちら


 土曜日の朝、絵里子は目覚めると部屋のカーテンをあけ、部屋を明るくした。気持ちのよい朝だった。
 今日は大学の講義はないが、午前中に某金融機関の最終面接が控えていた。絵里子にとっては本命の会社ということもあり、ここ数日はそのことで頭がいっぱいだった。

 絵里子は何気なく壁に掛かったクロックを見ると、一瞬目を疑った。面接は午前10時からだったが、既に8時をまわっていた。目覚まし時計をかけ忘れたせいで、1時間ほど寝坊してしまった。
 絵里子の自宅から面接会場までは急げば1時間くらいで行けるが、1時間半ほどの余裕をみておいた方が良い。これからリクルートスーツに着替えて身だしなみを整える時間を考えると朝食を食べてる暇などない。

 当然とはいえ、昨夜のうちに面接の準備は出来ているし、午後からの映画サークルの撮影のためにセリフも再度確認し準備万端であったので、リクルートスーツに着替えたら体身一つで面接会場に向かうだけでよいのが救いだ。
 パンストを穿き、昨日、クリーニングから戻ってきた白のレギュラーシャツや黒のリクルートスーツを手際よく着ていく。タイトスカートもシングルの2ボタンジャケットも皺がなく綺麗な状態であった。髪を整えるのにちょっと手こずったが8時半ちょっと過ぎに家を出ることができた。色々な資料が入ったリクルートバック、午後からの撮影で使う衣装やタオルや台本の入ったボストンバッグを持つと、最寄駅までパンプスをコツコツと鳴り響かせながらアスファルトの小道を駆けた。

 首尾よく最寄駅からはすぐに急行電車に乗ることができた。ラッシュの時間帯から外れていることもあり車内は比較的すいていて、所々に空席もあった。
 家から駅まで走ったことで体は火照りすこし汗ばんでいた。バックを左右の手にそれぞれ持っているうえ、ちょっと足が疲れたので、座りたいと思った。しかし、スーツに皺ができることを嫌って立っていることにした。
 最終面接を前に徐々に緊張してきたが、絵里子は持ち前のプラス思考と最終面接までこれたという自信に満ち溢れ、緊張感を振り払うことができた。

 ~面接後~

 最終面接を無事にこなし、面接に同席していた役員の反応も良く、既に最終面接を前にして内定は決まっていたのではないかと思うほど和やかな雰囲気で、会話も弾んだ。そのため、絵里子は内定を確信した。

  面接をした会社から最寄駅までは歩いて5分くらいだった。絵里子は駅へ向かって歩きながらスマホでメールの確認をしていた。
 「==予定よりちょっと早くこれる?ハプニング発生。」
 自主映画制作の監督で恋人でもあるヒロシからのメールだった。絵里子は就職活動とサークル活動(自主映画制作)、さらには、大学の授業やアルバイトと普通の大学4年生並みに忙しい日々を送っていた。
 「==うん、わかった。今、面接終わったところ。1時頃には着けるかな。そのくらいで大丈夫?」

 メールの返事を送信すると足を早めた。駅の近くにファーストフード店が見えた。朝食を食べなかったせいもあり、かなりお腹が空いていた。
 これから撮影であることを考えると、何か軽く食べておいたほうが良いだろうと絵里子は思った。

 「==それでお願い!」
 すぐにヒロシから短文メールが戻ってきた。
 ハプニングってなんだろう?・・・絵里子はフライドポテトをつまみながら考えていた。昼食をあっという間に済ませると、ゆっくりくつろぐ暇もなく撮影現場へと向かった。最寄駅までは電車を1回乗り換えて30分ほどかかる。駅からは現場の公園までは歩いて5、6分といったところだ。

 撮影現場へ向かうには途中、河川敷の堤防を歩くのだが、川の水面がキラキラと反射しているのが綺麗だった。こんな暑い日には水浴びでもしたら、気持ちいいだろうなと思った。
 しばらく歩いていくと、ヒロシや他のスタッフ達の姿が見えてきた。雨降らしのリハーサルをしたのか、撮影で使用するはずのグラウンドの脇は少しぬかるんでいるらしかった。
 「あっ、絵里子。悪い。」
 ヒロシの視線の先にリクルートスーツ姿の絵里子を確認した他のスタッフたちは、同学年、下級生まちまちであったが、それぞれの立場に応じた挨拶をした。
 早速、ヒロシからハプニングの内容が伝えられた。
 「今日さ、例のシーンなんだけど・・・」
 「何?」
 「雨降らしの装置、相手の都合で予定より早く返さないといけなくなっちゃって、少し撮影を早めようと思ってさ。悪いけど、すぐ例のシーンはじめたいんだ。」
 「だったら、電話でそう言ってくれればよかったのに。ランチ済ませてきたから、その分、来るのがちょっと遅くなってしまったわ。」
 「まあ、そこまでしなくてもいいけど。それに今日、本命の最終面接とか言ってたし、状況わからなかったから。それより、早く着替えてきたら?」
 「うん。」

 絵里子は朝自宅を出るときに持っていた着替えの入ったバックを置き忘れてきたことに、今この瞬間になって気がついた。頭が真っ白になった。
 リクルートバックと一緒に面接会場に持っていくには荷物になるので、朝、面接を受ける前に、会社の最寄駅のコインロッカーに預けておいたのだった。

 「・・・・・」
 困った表情になった絵里子をみてヒロシが声をかけた。
 「どうかした?」
 「撮影で着る衣装、忘れてきちゃった。」
 「忘れてきたって・・・。」
 「違うの。朝、ちゃんと忘れず持って出たんだけど、面接行く時、駅のコインロッカーに入れて、そのこと忘れてここにきちゃったの。今から急いで取ってくる。往復1時間ちょっとかかるけど。」
 「無理だって。3時までしか雨降らし機借りられないんだから。レンタル料金なんとか払って、スタッフだって無理言って何とか今日揃えたんだから、延期するなんてできないし・・・」

  監督のヒロシの立場としては、絵里子には申し訳ないが、リクルートスーツで撮影に臨んでくれる事を願うしかなかった。しかし、クリーニング仕立てだということがはっきりと分かる黒のリクルートスーツを目の前で見ていると、自分からそのことを言い出すのは、さすがに気が引けた。

 絵里子がヒロシの顔をチラリと見て様子を伺うと、困った表情で何かいいたげだった。自分だって困っているがヒロシも困っている。どうしたら良いのか、困り果てながら絵里子は視線を下に落とし、その視線を自分が着ているジャケットからタイトスカート、そして足元へとさらに落としていった。
 「(クリーニング仕立てなのに・・・)」
 絵里子はフゥーとため息をついた。
 「何?」
 「スーツのままでいいから、撮影はじめようよ。」

 ヒロシは、申し訳なさそうに絵里子の顔とリクルートスーツを見つめた。
 「何じろじろ見てるの!」
 ヒロシは安堵と絵里子に対する罪悪感が入り混じった複雑な表情で、スタッフたちに指示を出した。
 「みんな始めるぞ!準備!」

 ヒロシは絵里子の方を振り返った。
 「絵里子、本当にごめん・・・。」
 「いいよ、このリクルートスーツ、もう着なくて済むと思うし。」
 「どういうこと?」
 「多分、今日のところ内定取れると思うから。」
 「すごい自信。」
 「自信っていうか、今日の面接、就職の意志の確認とか、そういう話ばかりだったから。」 
 「なるほどね。それはともかく、絵里子の・・・そのリクルートスーツ・・・。」
 「・・・予算は出せないよ、でしょ?(笑)」
 「あっ、まあ・・・。(笑)」
 「衣装置き忘れてきた自分が悪いんだし。リクルートスーツ姿だけど、雨に中でもちゃんと演技するからね。どうせなら、この前よりの派手にやっちゃおうかな。」
 「でも、NGださないでね!(笑)」

 二人の会話を遮るように助監督が報告に来た。
 「監督、OKです。」
 雨降らし機のスタンバイもできたらしい。
 他のスタッフ達や、絵里子の恋人役の後輩は、絵里子がリクルートスーツ姿であることに驚いているようだ。
 絵里子はリクルートスーツで撮影に臨むことになって、帰宅時のことが気になったがいまは撮影に集中しようと気持ちを入れ替えた。他の現場のスタッフたちは、ほどよい緊張感に包まれながら、今まさに始まろうとしていることに意識を集中していた。

 恋人役が傘を広げた。
 「よろしくお願いします。」
 絵里子も現場に置いてあった傘を広げた。
 「こちらこそ。」
 グラウンドの真ん中あたりむけて人工雨が降り注ぎ始めた。徐々に雨足が強くなってくると、合羽を着たカメラマンや音声、数名のスタッフが雨の中へと入っていった。
 地面が水を蓄えはじめ、やがて所々に水たまりができた。

 監督に促され、恋人役の二人も傘をさしながらザーザーと降り注ぐ雨の真下へと歩いて行く。二人の傘を雨が強く打ちつけている。絵里子のパンプスは泥跳ねで汚れはじめ、スカートやジャケットには水しぶきがとんでいた。

 お互い顔を向かい合わせ、絵里子は恋人役の男の顔を見上げてながら
監督の合図を待っていた。 ~(3)へ続く~

2012年5月12日 (土)

非日常的世界へのいざない(1)


 都内の某公園のグラウンドに、絵里子は、アイボリーのロングスカートにフリル付き白ブラウスといった春らしい装いでいる。
 流行の服や派手な服には興味はなく、コンサバ系ファッションが好みであるが、そのことが清楚でお嬢様風の雰囲気を漂わせている着こなしになっている。

 雨が降りしきる中、絵里子は傘をさしながら恋人らしき男と立ち話をしている。
 絵里子は何やら悲しげで、今にも泣き出しそうな表情で男の顔を見上げている。徐々に雨足は強くなり、グラウンドには水がたまり始め、傘に打ち付ける雨音が大きくなった。スカートの裾は雨で濡れ始めていたが、絵里子はまったく気にする素振りなどない。
 男は足早にその場を立ち去り、絵里子は傘を投げ捨て、すぐさまその後を追いかける。濡れたスカートが脚にまとわりつき、さらには、サンダルを履いているせいもあり走りずらそうだ。

 5、6歩ほど走って追いかけたが、サンダルが脱げ足がもつれて泥水のたまったグラウンドにうつぶせの状態になって転んでしまう。男は絵里子が転んだことに気がつくこともなく走り去っていく。
 上体を起こすが立ち上がって再び追いかける気力は一瞬のうちになくなってしまった。ぬかるみの上に座ったまま男の後ろ姿をただ呆然と見ている。

 今の絵里子の気持ちを代弁するかのように、天の涙が一段と強くなり容赦なく絵里子を頭から打ち付けている。ゆっくり立ち上がり傘を拾うこともせずに歩き出しはじめた。
 うつぶせになっていたために、スカートもブラウスも前面は泥で真っ茶色に染まっていた。汚れていない部分は全て雨でずぶ濡れの状態であった。先ほどまであんなに綺麗だったおろしたての服がこれで台無しだ。

 ここまでは、「予定通り」だったが想定外のことが起こってしまった。雨が突然止んでしまったのだ・・・。
 今までの静寂が一瞬のうちに喧騒へと変わった。

 「はい、カット!」

 そう、絵里子は大学の映画製作部に属している。大学生活最後の1年を映画製作にかけている。今回の作品では主役の座を射止め意気込んでいた。

 「おいっ、雨降らし、何やってんだよ。しばらく降らたままでおけと言っただろ!」
 と監督が雨降らし役の後輩に怒号をあげた。
 「はい、ごめんなさい。勢い良く降らせたらタンクの水が切れてしまいまして・・・」
 「言い訳なんかいいよ。撮り直しじゃないか!」

 自前の服がびしょ濡れ&泥だらけになった絵里子は残念そうに肩を落として監督のいる方に歩いていく。
 「このシーン・・・、1回で終わらせたかったのに。雨降らしは調節が難しいから未経験の新入生には無理だって言ったのに。」
 「ごめん。次回はまた戻すから。また週末にでも・・・。大変なシーンなのにほんと悪いね。」
 「えーと、今度の土日の午後からなら大丈夫だけど」
 「そう、じゃあ土曜の2時でどうかな?日曜は一応予備日で。」
 「うん、わかった。」
 「部の予算がないから服は自前にしちゃって悪いね。それにしても、白っぽい服を選ぶなんて絵里子らしいよね。役柄のイメージにもぴったりだし。(笑)でも、この服、洗濯してももう着れないよね?」
 「大事なシーンだし、インパクトあった方がいいと思って。」
 「まあ、それはそうだけど、次回はもっと地味なのでいいよ。汚れてもいい服ってまだあるの?」
 「この服、実は通販で安く買ったの。自分の服は、もう着なくなったからといっても汚したくないから。次回も適当に用意してくるから大丈夫。」
 「予算は出ないよ。」
 「うん、わかってる。気にしないで。」
 (絵里子はふと時計を見るなり慌てて帰り支度を始める)
 「あっ、もうこんな時間。この後予定あるから、今日はこれで。」
 「うん、じゃあ、また。」
 「(お疲れ様です!)」
 後輩らスタッフ達が絵里子に挨拶をする。

 絵里子は公園の水道の水で汚れを落としている。泥汚れの部分は薄くシミとなってやはり落ちない。しかし、もう着ない服だから気にはならないでいた。
 ここから自宅までは、バス・電車・徒歩と合計2時間程度かかる。もともと手はずを整えていたことではなるが、撮影後の濡れた格好のままではさすがに人目が気になって帰りずらいので、公園内のトイレで用意してきた服に着替えてから帰宅した。

 絵里子は、帰りのバスの中で、先ほどのシーンのことを思い出していた。
 あれほどまでに雨に濡れてびしょ濡れになったり、泥だらけになった経験は初めてであった。
 役柄のために使い捨てと割り切って安く購入した服とはいえ、新品の服をあんなにしてしまった事に罪悪感を抱いていた。
 しかし、その罪悪感を打ち消すかのように、絵里子はある記憶を鮮明に思い出した。それは、雨に打たれときに冷たくなった布地で体を拘束された感覚と、グラウンドのぬかるみにうつぶせになった時の泥の感触が昇華されたものであった・・・。
 絵里子は今、突如、得体の知れない非日常的世界への扉を開こうとしていた。 
~(2)へ続く~