ライバルとの戦い(2)
絵里子は今日おろしたばかりのチャコールグレーのリクルートスーツをしばらくながめていたが、意を決したかのようにパンプスとパンストを脱ぎ、いつものように靴下とスパイクへと履き替えた。そして、グローブを手にするとグラウンドへと向かうのであった。
同じ守備位置で絵里子とレギュラーあらそいを演じるライバルの奈緒美や他のレギュラー選手達の視線が彼女へと注がれた。
「絵里子先輩!今日は練習に参加しないんですか?」
と、奈緒美が不思議そうに問いかけた。
「ううん、私、ちゃんとスパイクはいているでしょ。」
「でも・・・」
「今日ね、うっかり練習用ユニフォーム忘れちゃったの。だから、リクルートスーツで練習するわ。」
「先輩・・・スーツ姿では動きずらいですよ。それに、今日1日くらい休んでも。」
「スーツで練習しちゃいけないという決まりはないでしょ。大会が近いし休んでなんかいられないわ。それはみんなだって一緒よ!」
「でも、先輩、就職活動中ですよね。スーツが汚れちゃいますよ。」
「大丈夫よ。汚れないように上手くやるわ。万一汚れたって洗い流してクリーニングに出せばいいんだし、リクルートスーツならもう一着持ってるわ。」
絵里子は、早速、守備位置につき奈緒美と交互に後輩からのノックを受け始めた。
練習用のユニフォームを着ている奈緒美は普通にさばいていてはグラブが届かないようなボールには思いっきりとびついた。その全てがファインプレーでボールは彼女のグラブの中へと収まっていった。それを繰り返すにつれ、彼女の白のユニフォームの前部はさらに真っ黒になっていった。
まるで、絵里子にはここまではできないだろうと、見せつけているかのようなプレーであった。
そんな奈緒美の姿を目の前で見ていた絵里子はもどかしくてたまらなかった。なぜならば、自分だってユニフォーム姿であれば、あのくらいのプレーはできると思っているからだ。
ただ、今はリクルートスーツ姿。ぬかるんだグラウンドの上では大胆な行動はとれない。
それを察しているノック係りの後輩は絵里子にはあまり動かなくても捕球できるようなボールだけを送り出していた。絵里子はリクルートスーツを汚さないように水たまりなどにも注意しながら守備練習を続けていた。
何度も水たまりに落ちたショートバウンドのボールを処理している内に、絵里子のリクルートスーツは泥ハネでタイトスカートの下の方がかなり汚れていた。その事に気が付くと絵里子は頭が一瞬真っ白になった。
しかし、すぐさま頭を切り換えて、大胆な指示を後輩に出した。踏ん切りがつけば恐いものなどなかった。
奈緒美と同じようなボールを自分にも打つように言ったのである。奈緒美をはじめ、まわりの者は耳を疑った。後輩はただ言われるままに、その通りにボールを打った。
すると、ぬかるんだグラウンドの上に転がるボールに、リクルートスーツ姿のまま絵里子はとびこんだ。みんな絵里子の行動には驚き、唖然としている。しばらくの間、静寂がグラウンドを包んだ。
そして、左右にボールを大きく振ってノックしてもらい、繰り返し何度も何度もぬかるみの中にとびこんだ。いつしか、ジャケットのボタンは、はじきとんでおり、ジャケットの下のブラウスも泥で真っ茶色に染まっていた。
絵里子を後ろから見ると、一糸乱れぬまっさらのリクルートスーツ姿そのものであったが、前は泥がべっとりとスーツ一面を覆っていた。 ~(3)に続く~










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