泥まみれの喜び…ストーリー公開
■「泥沼の突破口」の続きです
田んぼに飛び込んだ絵里子は狂喜の様相だった。
リクルートスーツは見るも無残な状態だが今の絵里子はお構いなしであった。何か月も執筆が思うように進まなかった憤懣やストレスの捌け口にするかの如く、絵里子の狂喜は加速していく。
泥の中に寝転がり、転がりながらジャケット、タイトスカートが泥に塗れていく。手で泥を掬い上げ、ジャケット、タイトスカートに塗りたくっていく。
たっぷりと泥に塗れた絵里子は、膝立ちになるとジャケットを脱ぎ捨てた。中からは前側こそ泥に塗れたものの、腕や背面は泥の洗礼を逃れた純白のワイシャツが姿を現した。次の獲物を見つけた絵里子は楽しそうであった。
手始めに泥の中に座り込んで泥を掬い上げ腕や胸元にかけていく。せっかく無事であったワイシャツもたちまち泥に塗れていく。ジャケットを脱いだことで泥の感触をよりダイレクトに感じられるが、今の絵里子には少々物足りなかった。
「(もっと泥を味わいたい・・・)」
その気持ちに突き動かされた絵里子はその場でゆっくりとうつ伏せになった。体の前面が泥に包まれ、それでも物足りない絵里子は寝返りを打つようにゴロゴロと転がった。
狂喜の泥遊びの中、唯一被害の及んでいなかったワイシャツの背面も泥に塗れた。黒が映えていたはずのタイトスカートには泥がべっとりと付着し元の色がわからない状態であった。
新品同様だった純白のワイシャツは襟元のわずかな部分を残し全面泥まみれである。もはやリクルートスーツの面影はどこにもない。通行人が見たら何事かと驚くようなありさまだった。
しかし、どこか物足りない絵里子は最後の記念にと泥の中にうつ伏せになり、泥を体に絡ませるようにゆっくりと匍匐前進を始めた。
両腕を片口まで泥に沈め、動くたびにタイトスカートに泥が流れ込み、ワイシャツはダメ押しの泥の洗礼を受ける。全身に泥の感触を味わった絵里子はご満悦であった。
心身ともに最高の気分を堪能した絵里子は立ち上がった。
脱ぎ捨てたジャケットと原稿を拾い帰路についた。見るも無残な姿であったが反面、絵里子の足取りは自信に満ち溢れていた。
(作:ロイ)
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