雨の中の散歩(2)
絵里子は、しばらく「遠い目」で部屋の窓から雨の降る様子を見つめていたが、ふと、我に返った。今日からまた1週間、厳しい新入社員研修が始まる。急いで会社にいく準備をした。今週は濃紺のリクルートスーツにすることに決めた。
研修で何十回と着用した上にクリーニングにも何度も出しているのでスーツの生地はだいぶ傷んできている。ジャケットにもタイトスカートにも皺が目立つ。
そんな濃紺リクルートスーツに身を包み、雨の中、傘を差しながら会社へと向かった。通勤中、バスや電車の中から雨が降っている様子を見ながら、「帰りまでやまないでほしい。」と心の中で願っていた・・・。
淡々と研修をこなし、終わりの時間が近づいていた頃、講師の言葉に絵里子の胸が高鳴った。
「来週の月曜と火曜は、1泊2日の課外研修となります。今までは室内でマナー研修や、実務研修中心におこなってきましたが、課外研修ではリクリエーションも兼ねて自然の中で、ちょっと趣を変えた研修をおこないます。研修ですのでスーツで参加して下さい。
内容は今はまだ伏せておきますが、研修は全て屋外でおこないます。場所と日程の都合上、雨天決行です。天候の如何に関わらず、スーツは必ず2着用意してくるようにしてください。」
「雨天決行」という言葉に絵里子は特に反応した。
--「どんな研修なんだろう・・・。天候に関係なくスーツを2着用意するってどういう意味だろう・・・。」--
色々、想像したがまったくどんな内容の研修なのか思いつかなかった。内容はともかく、雨が降ったら、スーツ姿でみんなでびしょ濡れになれると思うと、なんだか楽しくなってきた。
そして、絵里子は来週のその研修のために奮発してスーツを新調することを即決した。手持ちの黒と濃紺のリクルートスーツは大学時代のものだし、研修でだいぶ着たのでよれよれになりつつある。研修が終わっても通勤などで着る機会もあるだろうから、この機会に1着購入しようと考えたのだ。
ウェット好きな絵里子は、心躍らせながら帰宅の途についた。電車で自宅の最寄り駅につくとバスを使わずに歩いて帰ることにした。朝ほどではないが、雨がしとしとと降っている。絵里子は傘を差さずにゆっくり歩いてみた。周囲の人・すれ違う人達の視線を感じたが、そんなことは気にせず、自分だけの世界に入り込んでいった。
濃紺のリクルートスーツのジャケットの肩には徐々に水滴が目立ってきた。しかし、撥水効果が薄れているため、すこし時間が経つと水滴は生地にしみ込んでいった。
ある程度雨水を吸い込んでいくと、雨はブラウスにしみ込んでいったり、流れ落ちてジャケット全体を濡らしていった。そしてジャケットがびしょ濡れになると、今度はタイトスカートにも雨水が伝わっていった。
小雨とはいえ、駅から自宅まで傘も差さずに2、30分も歩けば当然の事ながら頭からずぶ濡れになった。
自宅に到着した時には、髪の毛がびっしょりと濡れ、まるでお風呂で髪を洗った後のような状態であった。当然、濃紺のリクルートスーツはずぶ濡れでジャケットもタイトスカートも濡れて水を含んだ箇所が黒っぽく変色していた。明日は、このリクルートスーツは着ていけない。乾かしてクリーニングに出さざるを得ないだろう。
リクルートスーツで初めてびしょ濡れになる事を経験した絵里子は、その感覚に、やみつきになりそうだと思った。早くも来週の課外研修のことに思いを馳せていた。 ~(3)に続く~













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