面接で特技披露…ストーリー公開
絵里子は、大学の野球部マネージャーとして日々忙しい毎日を送っている。4年生となった今は、就職活動や卒業論文の制作などで忙しさに拍車がかかっている。
今日はどうしても入社したい会社の実技面接の日であった。絵里子は会話形式の面接はすでにパスしていた。絵里子は志望する会社の選考はユニークで、最終面接までたどり着いた志願者はリクルートスーツ姿のまま何らかの「実技面接」を受けることで内定か否かが決まるのであった。
普通の面接ではないので、実技の実施場所は社内であればどこの場所を指定しても良いという条件があった。つまり、実施する内容によっては、会社のエントランスでも、屋上でも、給湯室でも、階段でもどこでも良いということだ。
実技なので学問的な得意分野の開陳では意味がない。マジックをしたり、踊りながら歌ってみたり、素早い運動能力を披露したりというように、身体的な動きを伴うことが必須となる。
例年インパクトのある特技を面接官の前で実施したものは内定が確実になるということを絵里子はOG訪問の際に知らされていた。踊りながら歌ったり、マジックを披露したり、アクロバティックな体操をしたりした者もいたらしいが、だからといって内定をもらったわけではないらしい。
「(インパクトのあることって、どんなのがあるかな・・・)」
実技面接当日の朝になっても、絵里子はまだ悩んでいた。
ふと、OG訪問の際、一昨年この会社に入社した絵里子の先輩である女性から聞いた話を思い出した。
「この会社で夜勤の人が使うバスルームがあるんだけど、私はね、そのバスタブにお湯をためてリクルートスーツのまま2分間、仰向けの状態で潜水して内定を勝ち取ったわ。2分間息もせずに潜水したことも衝撃を与えたようだけど、リクルートスーツのままやったことが面接官にかなりのインパクトを与えたのかもね・・・。」
その先輩の話をヒントにして絵里子が思いついたことは、「クリームまみれ遊び」だった。特技とはいいがたかったが、インパクトを与えるという意味では申し分ないように思えた。
野球部マネジャーである絵里子は、女子マネジャーの正装であるスーツ姿のまま雨に打たれたり、泥濘の中で道具を片付けたりする際にスーツが泥で汚れることが多々あった。そんな時に、絵里子は、スーツのまま思いっきり汚れてみたい・・・・という不思議な願望が生じて、それをいつか実践してみたいと密かに考えていたのであった。
この願望を実現させるには、今日の実技面接がもってこいの場だと考えたのだ。黒のリクルートスーツを真っ白に汚して面接官をびっくりさせようともくろんだ。帰りはクリームまみれになったスーツを洗い流して、ずぶ濡れ状態のまま帰る覚悟でいた。それで内定を確実にできるのであれば、喜んでやってみたいと思った。
実技面接までに時間的余裕をもって、途中、スーパーに寄った。そして、大きな生クリームパックを何個が購入した。レジのおばさんが丁寧に梱包している様子を見ていると、絵里子は自然と笑みがこぼれそうになり、それを押し隠すために腕を口元に充てた。
すると、ドライクリーニング特有の溶剤らしき匂いが鼻を突いた。そのことは、絵里子が着ているリクルートスーツがクリーニングしたばかりであることを物語っていた。
「(このスーツ・・・、クリームで真っ白に汚れて・・・その後、洗ってびしょびしょになるんだよね・・・。)」
絵里子は、この後行われる実技面接のことを考えると急に胸が高鳴った。
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