過酷な面接特訓…ストーリー公開
保育士資格を保有している絵里子は、大学卒業後に幼稚園で子供たちの面倒を見ながら過ごすことを夢見ていた。
自分が幼稚園の時、当時は保母さん(現在は保育士)というお姉さんがいて、夏はプールで水遊びしたり、畑で芋掘りをして泥だらけになって遊んでくれたりと大人になった今ではなかなか体験できない思い出がいっぱいある。自分も昔お世話になったお姉さんのようになって幼児達と一緒に泥だらけになって遊びたいという不思議な願望を持っていた。
幼稚園の面接は意外にも難関ということでしられている。その難関を乗り越えていくことは当然のハードルであり、配属後には幼児達やその父母達を相手に日々過ごさなくてはならないため強靭な精神力が求められる。物わかりの良い悪いにかかわらず大人を相手にするよりも子供を相手にする方がはるかに難しいことを絵里子は経験的に習得していた。
幼児相手なので、いつどのようなことが生じるか分からない緊張感のもとで、時には過保護すぎる親や、モンスターと言われる親たちとも対峙しなくてはならない保育士の採用面接では、圧迫面接やハプニング時の対応を様々な方法で観察することが今や常識となっている。たんに「子供好き」で「優しい」では務まらない仕事である。
そんな状況下、絵里子は、どんな面接にも対応できるようにという思いから、過酷な面接特訓で鍛えてくれるということで有名な某保育士養成所の特別面接特訓に参加することにした。
参加にあたっては、必ずスーツ一式を予備に(着替えとして)持ってくるように注意が促されているという何とも怪しげな面接特訓だ。泥だんごを作ったり、粘土遊びの模擬面接があるのだろうと推察した。
絵里子の予想通り特訓場所は浴室であった。今日の特訓面接ではリクルートスーツが2着必要だということが分かっていたので、この日のために1着新調していた。絵里子は、その新調したばかりの黒のリクルートスーツを着て浴室の中で座っている。
「(ひょっとして水でもかけられるの?)」
どうやら泥だんご作りではなさそうで、絵里子の予想していなかった展開になりそうで表情が曇る。真新しいリクルートスーツに視線を落とした。
「では、今から面接を始めます。何があっても動じずに受け答えしてください。」
面接官役の男性がありきたりの質問をし始めた。しかし、ここで重要なのは、質問へ気の利いた言葉を返すことではない。あくまでもこれから起こるであろうことに動じずに対処することだ。質問に応答している最中にどこからともなくクリームがリクルートスーツに向かってぶっかけられていく。
最初は少しずづ、だんだんと激しさを増していく。クリームに交じって灰色の泥もぶっかけられていく。今朝おろしたばかりのリクルートスーツが台無しだ。
一通り面接特訓が終わると頭から脚まで真っ白ですごいことになってしまった。早く洗わないとクリームや泥が染みとなってしまう。
そんな不安の中、幸いにも面接官役の男が頭から水をかけ始める。クリームの一部は洗い流されるが、何度か水を被っても汚れは綺麗にならない。その後は、絵里子自らの手でスーツに付着したクリームや泥を洗い流し、バスタブにも浸かって入念に汚れを落としていく。
綺麗になったものの全身ずぶ濡れの状態で面接特訓が終了となった、絵里子はこの後の運命を知る由もなかった・・・・。
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