着衣水泳部への体験入部②
昼食後、再びプールに集まって午後の部が開始された。
絵里子はライトグレーの3つボタンスーツを着ている。塾講師のアルバイトの際に着回しで着用しているスーツの一つだ。
午後も午前中に面倒を見てもらった先輩の男子部員からマンツーマンで指導を受けることになった。どうやらその先輩から気に入られたようだ。着衣水泳部といえども、絵里子は泳ぐことはおろか、水への恐怖心が完全に除かれていないということもあり、もっとプールの水になれる必要があった。
先輩の案で、プールの中を歩行したり、潜って移動する練習をすることになった。単にプールの中を歩き回るだけではつまらないということで、プールにいくつかのボールを投げ入れて、それをできるだけ早く拾い集めるというゲームを2セット行うことにした。
絵里子はカラーボールをプールのあちらこちらに投げ入れた。いきなり冷たいプールに入るといけないとのことで、先輩がシャワーで水をかけた。
ジャケットもスカートも濡れた個所が徐々に黒っぽく変色していった。ある程度スーツが濡れたということもあり、絵里子は何の抵抗もなくプールに入ってボール拾いを開始することができた。
近くに2つ3つとかたまってボールが浮いている場合もあるが、一度に1つだけボールを拾い、それをプールサイドに置くというのがこのゲームの決まりだ。必然的にボールの数とプールサイドとの往復の回数が一緒になる。時折、プールサイドに完全に上がったりもした。その時は、ジャケットやスカートの裾から激しく水がしたたり落ちた。
水の中を歩くのは、簡単そうに思えて意外と水の抵抗で進むのが大変で、1セット終えるのにけっこう時間がかかった。
2セット目は1セット目もよりも時間を短縮することがミッションだった。
隣のレーンへ移るときはコースロープの下を潜るという決まりだった。これも絵里子が早く水に慣れるようにという思いから先輩によって与えられた「試練」だった。水中から顔を出すたびに絵里子は顔を手で覆って水を払いのけるしぐさをした。
しかし、何度も繰り返すうちに歩行速度も潜り方も上手になった。時計を見ると、もうすぐ3時休憩だった。
休憩前の最後に、ゴーグルをつけビート板を使って、顔を水につけながら泳ぐ練習をすることにした。すると、午前中よりもかなり速く25メートルプールを往復できるようになっていた。
絵里子も先輩もかなりの手ごたえを感じ始めていた。ビート板を使うという条件付きであっても、「着衣水泳」をしていることには変わりない。ましてや、絵里子は泳ぎにくい衣装の代表例ともいえるスーツ着用だ。かなづちの状態でこの体験入部に参加したことを考えれば大きな進歩であった。
③へと続く
>がっくん さんへ
コメントありがとうございます。
①よりも短いですが水中編もDL版でのみリリースします。
投稿: OLS管理人 | 2016年9月14日 (水) 07:57
これも楽しみです。アンダーウォーターもありますか?
投稿: がっくん | 2016年9月12日 (月) 16:02