私服で落とし物探し…ストーリー公開
絵里子は先日、沙也加と一緒に水かけ遊びと泥んこ遊びを楽しんだ。絵里子はチャコールグレーのリクルートスーツを泥だらけにして遊んだ楽しさが忘れられず、余韻がまだ残っている。
今日はその田んぼに1人で来ている。今朝、自転車に乗ろうとしたら鍵がないことに、気が付いたのであった。家の中を探しても見つからなかった。
そこで絵里子は、この前、沙也加と泥んこ遊びをした時にこの田んぼで無くしたのではないかと考えたのであった。自宅から歩きながら田んぼに向かっている最中に、スーツのジャケットのポケットに入っていたということをはっきり思い出した。あの時、田んぼの中で動き回って泥んこ遊びをした時にポケットから何かの拍子で出てしまい、この田んぼの泥の中のどこかに今も埋まっていることを確信している。
いざ、田んぼに着くと絵里子は気がめいった。遊ぶ時は狭いと感じていた田んぼが、小さな自転車の鍵を探すとなるとやけに広く感じた。人間、その時の状況や気分によって同じ事象の「見え方」はかなり変わるものである。
絵里子は黒のトップスに白とブルーの爽やかな巻きスカートを穿いている。風が吹くと巻きスカートがひらりと捲れて太ももや脚が垣間見れる状態である。今日はあくまでも鍵という落とし物を探すことが目的で田んぼに入るので、絵里子はスカートを汚さないように手で押さえながら中腰になって右手で泥の中を鍵を探り当てようと試みる。
先日、沙也加と泥んこ遊びをしたエリアはある程度絞れるので、その辺りを集中的に探すことにした。
しかし、範囲を絞っても広い田んぼであることには変わりなく、いくら時間を使えばいいのか分からない。絵里子は効率を上げようとスカートを押さえている左手を解放し両手を使って探し始めた。
先ほどよりも効率は良くなったが、非力な人力ブルドーザーでは依然として広い田んぼの中から鍵を見つけるのには無力であった。
絵里子は途方に暮れ、思わず田んぼの泥にひざをつけてかがんでしまう。
「あっ、いけない!」
と思ったものの遅かった。スカートの前面をひざが泥の中に沈めるかたちとなってしまい、スカートの前面の下部が泥だらけになってしまった。絵里子はすぐさま立ち上がりスカートを眺める。
すると、この前リクルートスーツのまま沙也加と泥だらけになって遊んだ時の気持ちいい感覚を思い出し、自分の心の奥底から「天使」のささやきが聞こえた。
「こうなったら思いっきり遊んじゃおう!!」
泥ハネといった程度ならともかく、スカートの前面がべっとりと真っ黒に汚れてしまっては、全身泥だらけになってから田んぼ脇の用水路の水で洗うのと五十歩百歩だ。たいした違いはない。(いや、冷静に考えるとかなりの違いがあるが)泥んこ遊びの誘惑に引きずり込まれている絵里子にとっては「同じ」ことだった。
絵里子にとって、もはや鍵を探すという本来の目的などどうでもよかった・・・。私服のまま田んぼの中にお尻を付けて座り込み、泥の中に埋もれていく感触を楽しむ。そして、うつ伏せになったり仰向けになったり田んぼの中で1人で無邪気に泥んこ遊びに興じた。
(作・ジュテーム家康)
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