女子サッカー部への入部試験…ストーリー公開
今春、絵里子は第一志望の女子大学に合格した。サッカー日本代表の応援でよく友達と一緒にスタジアムに足を運ぶほどのサッカー好きであったが、自分でサッカーをプレーしたことはなかった。
しかし、観るだけではなく、自分でもサッカーをやってみて、もっとサッカーについて知りたいと、大学入学後はサッカー部への入部を決めていた。スポーツ部とはいえ、女子大の部活動だしそれほど厳しくもなく、仲良しサークルのような感じだろうと軽く考えていた。
今、絵里子は、女子サッカー部の入部説明会の場にいる。
とある教室の一角に絵里子を含め5名ほどの新入生がいる。一人はかわいらしいフリルの白いスカートにヘンリーネックのカットソー姿であるが、ほかはジャージやサッカーユニフォームらしきものを着ていた。
絵里子はと言えば・・・入学式の時に初めてきて、今日が着用2回目という黒に近い色合いのチャコールグレーのリクルートスーツを着ている。近い将来、就職活動の際にはもちろんのこと、大学生になったら家庭教師のアルバイトをしようと決めていたので、その時にも着用できるようにと、量販店の「リクルートスーツコーナー」で購入したものである。
今日は、家庭教師センターの登録および面接があったため、リクルートスーツ姿なのであった。その帰りに入部試験に参加すれば効率が良いと考えていたのだが、今となって冷静に考えると、失敗したと思った。
「(入部試験というからには走ったり、ボールを蹴ったりするのかな?・・・。この恰好だと動きずらいけど何とかなるかな。)」
教室で4年生の部長から女子サッカー部の年間の活動計画や、日々の練習のことなど一通り説明があった。その後は、何やらキャンパスの裏の休耕田に移動して入部試験があるようであった。
「(えっ、うそ、そんなこと聞いてないけど・・・。)」
と絵里子は思った。
しかし、他の新入生は汚れてもいいような恰好で着替えも持ってきているようであった。先ほど目に入った白のスカート姿の女の子はといえば、女子だけの空間とはいえ人目をはばからずにジャージへと着替え始めている。
「(なになに、この展開・・・。私だけスーツ姿で浮いてるよ~。着替え持ってないし。・・・っていうか、休耕田で入部試験ってどういうこと?)」
絵里子は後先のことを考えようとする間もなく、先輩たちに急いで休耕田に移動するように言われる。他の新入生たちからは、
「何でスーツなの?」
と尋ねられる。もっともな質問であるが、先輩たちからはなぜか何も言われなかった。スーツのままやれるものならやってみなないという言外に匂わす威圧感を感じた。
休耕田につくと、女子サッカー部のはずなのに、男性が一人いた。どうやら顧問の人らしかった。
「今日は5人か。みんな頑張ってよ!運動部なのでそれなりに厳しく運動能力などをチェックさせてもらいます!でも一番大事なのはガッツですからね!やる気を重視します!」
基礎知力のチェック、特に脚力の確認をするとのことだった。休耕田という足場の悪い状況下でどの程度の動きができるのかをチェックするということらしい。
「ちょっと君からはじめようか。ほかの人は彼女がこれからやることをみて後に続いて下さいね。」
と顧問の男性が絵里子の方を見ながら声をかける。
「その恰好のままやるの?泥だらけになるけど大丈夫なの?」
少し躊躇しながらも、絵里子はこの機に及んでは肯定の返事をするしかなかった。
「あっ、あの・・・はい!」
「はなかなか度胸あっていいね。では、まずはこの田んぼ中を軽くランニングしてみようか。靴は脱いでいいからね。そうしないと靴が脱げてどこかにいってしまうかもしれないから。」
絵里子はパンプスを脱ぐと、恐る恐る休耕田の中に足を踏みれた。そこは、泥の深さがそれほどではなかったがふくらはぎ近くまで泥で埋まってしまうので、注意しないと足をとられて転んでしまうそうだった。
絵里子は転ばないようにするとともに、スカートに泥ハネがとばないように注意しながら休耕田の中を軽く走り出す。絵里子は気が付かないようであるが、第三者から見ると、やはりスカートには泥ハネがどうしてもかかっている。最初のうちは汚れないようにスカートの裾を上げて走っていたが、しばらく行き来しているうちにスカートが泥水で濡れていき、泥ハネもついてしまっていることに覚悟を決めたのか、スカートが汚れるのをまったく気にしないで大胆に走り出した。そして、ついには足を泥に取られて転んでしまう。なんとか下半身だけが泥田につくだけでおさまったので全身が泥だらけになることは免れたが、脚はもちろん、スカートの一部も粘着性のある泥で覆われてしまった。
ランニングの次はサッカーボールに見立てたビーチボールを蹴る試験が行われた。風が吹いていることもあり思うようにボールを蹴ることができない。
スーツを泥だらけにしながら頑張っているものの自分の体力などに不安をのぞかせる絵里子に対して、顧問は部活をやっていけそうか尋ねられる。サッカーがどうしてもやりたい絵里子は、頑張っていきたいという意思を伝え、入部試験を継続する。
続いては、休耕田の中で腕立て伏せや腹筋、背筋など体力測定だ。ここまでこなすと、スーツは全身ずぶ濡れ&泥だらけになった。先ほど、教室で部長からの説明を聞いていた時は、クリーニング仕立てで、皺も汚れもなく、まっさらのリクルースーツといっても良いほど綺麗だったが、今は水も無残な姿となっている。
しかし、その代償として絵里子は女子サッカー部の入部を顧問から認められた。どのような事情によるものか顧問には分からなかったが、スーツ姿で泥だらけになりながら入部試験に臨む絵里子の努力が高評価を得たのであった。
絵里子は嬉しさが爆発したのか、自ら休耕田の中に飛び込んでいった。そして、どうしたことか田んぼの中で膝をついて座り、泥を手ですくってジャケットやスカートに塗りたぐっていき、さらにリクルートスーツを汚していく。
今となっては帰りのことなどもうどうでもよかった。ほぼ真新しいリクルートスーツを泥だらけにしていくという体験が新鮮で、童心に戻ったような楽しい不思議な感覚に包まれていた。
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