内定者対象「日帰り研修」(2)
絵里子も周りの人たちとタイミングを合わせるように横目で様子を見ながら正座をした。
ふと目を下に落としたときに、タイトスカートの裾の位置が太もも近くまで上がっている事に気が付くと、軽くお尻を上げて両手で裾を引っ張ると、両手を膝裏の方へと動かしながら、お尻をかかとにつけて正座し直した。
すると、今度はスカート丈が膝上のちょうどよい按配になり、ぴしっと美しいシルエットが出ている。ジャケットの胸の部分は、形良く力強く盛り上がっていた。
まさに今から始まろうとしている30分間の座禅に耐えるため、絵里子をはじめ学生たちは心を落ち着かせようとしていた。30分という時間は、時間に追われた日常生活の中ではあっという間に過ぎ去るが、こういった時の30分は、なかなか時間が経過しないであろうことは、絵里子も経験的に察していた。
リクルートスーツ姿の学生たちは、気合を入れ真剣な面持ちで背筋を伸ばすと、静かに目を閉じ瞑想に入る準備をした。
部屋の中が静かになったことを確認すると、和尚さんは「始め !」と号令をかけ、樫の木でできた警策を両手に携えながらゆっくりと学生たちの前を行き来した。
5、6分は何事もなく過ぎ去ったが、「コトッ」と何かが倒れる音がした。絵里子の斜め前に座っている女子学生のカバンが倒れた音だった。カバンの持ち主は条件反射的に反応し、カバンを立て直した。その行為を和尚さんが見逃すはずはない。その女子学生の後ろに移動すると、警策を右の肩に軽く触れ、今からたたくという無言の合図を送ると、「ピシッ!」という音が部屋じゅうに響きわたった。
この出来事で一部の者たちの緊張の糸が切れだしたのか、連鎖的に警策で肩をたたかれ、早くも滝行にリーチがかかってしまう者が出始めた。
しかし、それは男子ばかりで、女子は最初にたたかれた女子学生以外には、まだ誰もたたかれていない。そのことは、男子と女子が部屋の真ん中にある大柱を境に左右に分れて座っているから目を閉じていても分かった。
みんな自分が座っているスペースの脇にはカバンが置いてある。その中には着替えの服が入っているのだが、今となってはその理由をここにいるすべての者が理解していた。
実は、今日の研修のために着替え一式を持ってくるように指示されていたのである。絵里子は着替えとして、就職活動に着用していたもう1着のスーツである2つボタンの黒のリクルートスーツをカバンの中にしまってあった。
着替えの服については会社から細かい指示がなかったので、私服でも良いのかもしれないが、入社前の研修ということもあり無難にリクルートスーツにしたのだった。
まさかこんな研修になるとは思ってもいなかった絵里子は、先ほど境内の階段で見たびしょ濡れのリクルートスーツ姿の男女を思い出すと、
「(こんな寒さの中、滝の水を頭から受けたら・・・。水がすごく冷たいのは当たり前だけど、リクルートスーツのまま濡れてしまうと、どんな気持ちになるんだろう・・・。)」
と、不思議な感覚が心の奥底から湧き上がってきた。
一瞬、意識が遠のいたかと思うと、「ピシッ!」という音と右肩の痛みで我にかえった。
絵里子が警策でたたかれた音が今までよりも高かったせいで、近くの数人が反応し体がわずかに動いた。その中に女子は2、3名いたが、先ほど先陣を切ってたたかれた女子学生もいた。警策でたたかれるのが2回目の者は、残りの座禅時間を待たずして滝行が行われる場所に移動させられるようだ。
「横山瞳さん、荷物を持ってこちらへ来てください。」
と、引率の人事担当者が呼ぶと、彼女は着替えの入ったカバンを持って立ち上がった。
絵里子は薄目でその時の彼女の表情をうかがった。すると、嫌がっているはずの彼女の口元がなぜか笑っていた。彼女の意外な表情に驚き、二度見し、その表情をもう一度確認すると再びしっかりと目を閉じた。
最初に警策でたたかれたのも滝行が決定したのも、この横山瞳というショートカットが似合う娘だった。彼女が着用している黒のリクルートスーツは、体にぴったりフィットしジャケットのウエスト部分が綺麗に絞られていてスタイルの良さがわかる美しいラインだ。スーツの生地も仕立ても良く、見るからに高価そうだ。
「(横山さんっていうんだ。あんな高そうなスーツを着たまま滝行するなんて・・・かわいそう・・・。)」
と、絵里子は同情すると同時に、彼女が滝行する羽目になった原因を作ったのは私だと責任も感じた。それに、何ともしっくりこないのは、彼女の表情だった。斜め後ろからだからはっきりとは分からなかったものの、彼女は喜んでいるかのように見えた。
その理由が絵里子の頭の中からどうしても離れずにいた。 ~(3)に続く~
>ココーズ さんへ
コメントありがとうございます。
内定者対象「日帰り研修」(3)は今月末の公開を予定しております。
私のストーリーを参考にお書きになられたと聞いて正直嬉しく思いました。
なぜならば、私のストーリーをきっかけにして、ココーズさんの中で
話(妄想?)を膨らませて完成された作品だと推察するからです。
こういうコメントをいただけることは、サイトマスターの醍醐味です。(笑)
ココーズさんの新作も楽しみにしております!
投稿: OLS管理人 | 2012年2月24日 (金) 18:06
まずは、続きのストーリーをありがとうございます。
最高の展開が出てきそうで、この続きを考えると、とてもわくわくします。
また、「とんでもない指令」があることが予想されますが、どうやってそれが出てくるのかが注目されます。
それから、(1)のところで、私の作品をほめていただきありがとうございます。この作品は、管理者様の作品を参考にして、書いたものです。(決して盗作ではないですよ)
また、新しい作品を構想中ですので、いずれ出てきましたら、またよろしくお願いします。ちなみに、そこでは一部分リクルートスーツの女子学生も出る予定です。
では、この続きの(3)をすごく楽しみにしています。
投稿: ココーズ | 2012年2月23日 (木) 11:26