農業にあこがれて・・・(3)
いよいよ田植えの体験会が行われる場所へと参加者一行は到着した。みんな着替えていて汚れてもいいような格好だが、絵里子だけは「リクルートスーツ」を着ていて一人ういている。参加者はそれぞれ水稲を数十くらいずつ受け取けとると、ゆっくりと田んぼに足を踏み入れていく。ほとんどの人が初体験のようで泥の感触に「きゃー」「うわー」などとといった叫び声をあげる。
絵里子も水田の脇でパンプスを脱ぎジャケットとブラウスの袖をまくった。スカートもウエスト部分を1,2回巻き上げて丈を少し短めにした。膝上5センチと言ったところか。パンストは先ほど荷物を預けてくる際に脱いできたので裸足姿である。
参加者の中には足を切ったりしないようにと足袋や長靴を履いている者もいたが、ほとんどの人が裸足のようであった。それにしてもリクルートスーツ姿で田植えとは・・・異様な光景で一人目立っている。準備が整うと、絵里子は滑らないように、おそるおそる田んぼの中へと入っていく。すぐに泥のあたたかさが足に伝わり、一瞬何ともいえない気分に襲われる。
参加者はまず横一列に並んだ。主催者の「始め!」の合図と共に田植えの開始である。絵里子は両隣の人達が移動する際に上がる泥はねに気を付けながら丁寧に苗を植えていく。苗を持った手を泥の中に入れていくので右手は指先から手首の少し上あたりまで泥だらけだ。田植えは中腰の状態でしなくてはならず、普段そのような体勢をしたことがない絵里子にとってはかなりきつい。曇りでそれほど暑い陽気ではないものの思った以上に体力を使うためか、絵里子は次第に汗ばんできて、やがて額からは汗が滴り落ちてくるようになった。ブラが見えないようにとブラウスの上にジャケットを着ているせいもあって、かなりの汗をかいている。
やがて、参加者一同は田んぼの反対側まで田植えを終え、いったん小休止となった。中には疲れたために、ぬかるんでいる田んぼの脇の上であるにも関わらず、ためらいもなく座って休んでいる者もいる。絵里子も腰が痛く足もガクガクなので本当はしゃがんで休みたいところだが、リクルートスーツを着ている故、そういうわけにはいかない。スーツを汚さないように立って休んでいる。
再び、主催者の合図と共に先ほど苗を植えたところよりも少しずれたところに一列に並んだ。そしてさっきと同じように苗を植えていく。絵里子は汗がジャケットに滴り落ちるようになり、ブラウスは汗でびっしょりと濡れ始め、なんとも言えない気持ち悪さを感じていた。集中力を徐々に失い暑さと疲れでふらふらしてきた。いっそのこと水田の上にそのまましゃがみ込んでしまいたいという誘惑に襲われるが、まだ理性が働いている。
しかし、中腰の体勢でいるとタイトスカートが少しずづずれ落ちてきた。すそが膝よりもしたした位置まで下がってきてしまった。しばらく絵里子は気づかなかったが、ふと自分の下半身に目をやると、タイトスカートのすそが水田の水面ギリギリのところにあった。思わず右手でスカートをたくし上げた。
「あっ!」と声を上げたが遅かった。苗を水田に入れ泥だらけの手でスカートをもっているということが何を意味するのかは、暑さでふらふらしている彼女にも容易に理解できた。
いったん汚れてしまうと、吹っ切れるものである。さっきまで汚れないようにスカートやジャケットをかばっていたのが何のためだったのか自分でも分からなくなってくる。どうせ、汚れても水で一時的に汚れを落として、明日クリーニングに出せばいいやと思うとスカートの後ろのすそが水田の上に広がって汚れていくのも全く気にならなくなっていた。次の小休止の時には田んぼの脇でお尻をつけてしゃがみ込んだ。ちょっとぬかるんでいたが、もう今となってはたいした問題ではなかった。 ~(4)へ続く~
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