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2011年1月11日 (火)

晩夏の思い出(2)

 
                          前回のストーリーを読む → 晩夏の思い出(1)

 絵里子とヒロシは、ただ体を寄せ合ってベンチに座っている。ここは、誰にも邪魔されない二人だけの空間、「二人だけの指定席」であった。
 びしょ濡れとなった絵里子のセーラー服からは下着が透けてみえているが、ヒロシの手前、気にする様子はない。
 だが、潮風が強く、晩夏といえども肌寒く感じた。

 制服のままびしょ濡れになって、冷えた体をヒロシに抱かれてあたためてもらう絵里子。
 なんとも言えない胸のときめき・・・、服のまま海の中に入ってずぶ濡れになってしまったという罪悪感・・・、そして、快感ともいえる「不思議な感覚」・・・、様々な感情が入り混じっていた。

 ずぶ濡れになった二人は、しばし、無言でベンチに腰かけ休んでいた。
 沈黙を破ったのはヒロシの言葉だった。

 「俺、イギリスに行ってくる。自分の目標を達成するまでは日本には戻らない。だから、学校推薦は辞退することにしたよ。他人にどう思われようと、自分の気持ちに素直に行動しないと後で後悔しちゃいそうでさ。」
 「そう・・・。ヒロシが自分で決めたことだから、それでいいんじゃない。・・・・でも・・・・」
 「でも?」
 「私たち・・・」
 「うん、そのことだけど・・・」
 「・・・。」  


 ~現在、同浜辺で~

 あれからちょうど4年が経った。
 大学時代に入学してからこの4年間、絵里子は何人もの男性に言い寄られたりはしてきたが、いずれも当たり障りのない「友達付き合い」の域を決して超えることはなかった。
 ひたすらヒロシを信じ、今日を待っていた。むろん、裏切られる可能性があることも理解はしていた。

 数日前、ヒロシから帰国するという連絡をもらい、4年前から約束していた場所で待ち合わせることになっていた。
 
 今、絵里子は、就職活動の帰りで、
リクルートスーツに身を包み浜辺に立っている。スタイリッシュな濃紺の3つボタンシングルスーツがよく似合っている。
 遠くには「約束の場所」である屋根つきのベンチが見える。その方向へゆっくりと向かっていった。磯の香りや潮風が五感を刺激し、懐かしい思い出が走馬灯のようによみがえってきた。
 待ち合わせ時間よりも早いからだろうか、「約束の場所」には、まだヒロシは来ていなかった。しばらく物思いに耽りながら待ち続ける。

 「ザー ザー」 
 突然の音に絵里子は我に返った。音の正体は夕立だ。
 屋根があり雨をしのげる場所なので、全身びしょ濡れになることはないが、屋根以外に雨を遮るものが無い。水しぶきが絵里子の全身に降りかかっていた。傘は持っていないため、ただ、じっと座っている他になす術がない。
 ふと視線を下げると、パンプスは当然のこと、足元からタイトスカートの太腿あたりまでがずぶ濡れになっている・・・。

 約束の時間はとっくに過ぎたが、ヒロシが現れる気配はない。
 夕立の勢いは増していき、一人ぼっちの絵里子は徐々に不安に陥った。 ~(最終回)へ続く~

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コメント

>ココーズ さんへ
どうもありがとうございます。
(1)を公開してからかなり時間が経ってしまいました。
(3)は来月以降の公開となりますが、楽しみにしていてくださいね。(笑)

(1)はいつだったのかなと思ったら、3か月前だったのですね。見て思い出しました。
とにかくいい作品ですね。プリーツスカートが出てくるのも初めての試みだと思います。それもとてもいいですね。
海岸でのリクルートスーツは、私の作った作品でも、また別の方の作品でもありましたが、なかなか絵になりますね。
では、わくわくしますが、続きを楽しみにしています。

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